



原料から繊維へ、丁寧な下準備
和紙作りの全ての始まりは、原料となる植物の処理からです。主な原料は楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)といった植物の靭皮(じんぴ)繊維です。まず、刈り取った木の枝を蒸し、外側の皮を剥ぎ取る作業が行われます。この剥いだ皮は、さらに一番外側にある黒皮、その内側の甘皮、そして製紙に用いるもっとも内側の白い繊維層である白皮(しろかわ)へと、手作業で丁寧に選り分けられます。
この後、白皮はソーダ灰や、苛性ソーダといったアルカリ性の液体で煮られます。これは煮熟(しゃじゅく)と呼ばれる工程で、繊維を柔らかくし、繊維同士を結合させている不純物を取り除くために行われます。この工程を経て、原料は紙作りに適した純粋な繊維へと近づいていきます。

紙の美しさを決める、根気のいる塵取り作業
煮熟を終えた繊維は、清らかな水に晒され、洗浄されます。ここから、和紙の品質を大きく左右する重要な工程である「ちりとり」が始まります。この作業は、繊維の中に残っている樹皮の破片や変色した部分、その他の細かな塵(ちり)を、手作業で一つひとつ丁寧に取り除いていくものです。
この工程は極めて根気がいる作業で、ある職人は、製造工程の中でもっとも時間がかかる部分だと語ります。ここでどれだけ丁寧に塵を取り除けたかが、完成した紙の白さや美しさに直接影響します。たとえば、原料の中でも雁皮は特に細かな塵が多く含まれており、その塵取り作業には多大な時間を要するといいます。
顧客の要望によっては、原料本来の自然な風合いを残す場合と、徹底的に塵を取り除き真っ白な紙に仕上げる場合があり、ここでの作業内容も変わってきます。この地道な手仕事こそが、和紙の気品ある表情を生み出すための土台となります。
繊維を解きほぐす、叩解という工程
塵取りを終えた清浄な繊維は、次に叩解(こうかい)という工程に進みます。これは、水中で繊維を叩き、解きほぐす作業です。繊維が一本一本に分かれ、紙として均一に絡み合いやすい状態にすることを目的としています。伝統的には樫の木で作られた棒で叩く方法が用いられますが、現代では機械が使われることもあります。
手作業で叩く場合、少なくとも2、3時間はかかるとされ、その仕上がりは機械とは大きく異なります。ある職人によれば、機械は効率的に繊維を細かくできる一方で、その力が強すぎるため、繊維が本来持つ風合いや質感が損なわれることがあるといいます。
一方、手作業で丁寧に叩かれた繊維は、その自然な長さやしなやかさを保ち、完成した紙に独特の柔らかさや温かみのある手触りをもたらします。この叩解の工程における選択が、最終的な和紙の質感や風合いを決定づける重要な要素の一つです。

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和紙作りの中核、流し漉きとネリの役割
叩解された繊維は、漉き舟(すきぶね)と呼ばれる大きな水槽に入れられ、いよいよ紙作りの中心である漉きの工程に入ります。ここで重要な役割を果たすのが、「ネリ」と呼ばれる粘性のある液体です。ネリは、トロロアオイというアオイ科の植物の根から作られ、これを原料と共に漉き舟に混ぜ入れることで、水中の繊維が沈殿したり絡み合って塊になったりするのを防ぎます。
このネリの働きによって、職人は簀桁(すげた)と呼ばれる道具をリズミカルに揺らし、繊維が均一に絡み合った薄い紙の層を形成する「流し漉き」という日本独自の技法を実践できます。この技法では、簀桁を揺らすことで余分な水分と紙料を流し出しながら、何度も紙料を汲み上げて層を重ねていきます。
ある職人は、このネリを作る作業も非常に重要だと語ります。ネリの粘度は気温や湿度によって微妙に変化するため、その日の条件に合わせて最適な状態に調整する必要があります。その加減は、職人の長年の経験と感覚が頼りになります。この繊細な調整が、薄くても丈夫で、きめ細かな和紙を生み出す秘訣です。
最後の仕上げ、圧搾と乾燥
漉き上げられたばかりの紙は、まだ多くの水分を含んだ湿った状態です。これを一枚ずつ丁寧に積み重ねたものを「紙床(しと)」と呼びます。この紙床を圧搾機にかけ、一昼夜かけてゆっくりと水分を絞り出していきます。急激に圧力をかけると紙の地合いを損なうため、慎重な作業が求められます。
圧搾の後、湿り気を含んだ紙を一枚ずつ剥がし、乾燥の工程に入ります。伝統的には、銀杏などの木でできた大きな板に、刷毛でしわを伸ばしながら一枚一枚貼り付けて天日で乾燥させます。取材した工房でも、板干しという方法が採られていました。
近年では、蒸気で熱したステンレスの乾燥板が使われることもあります。全ての工程を終えた紙は、最後に熟練の目によって厳しく検品され、選び抜かれたものだけが製品として出荷されるのです。
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