



和紙の個性を決定づける3つの主要原料
越前和紙で主に使われる原料は、楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)という3種類の植物の靭皮(じんぴ)繊維です。これらの繊維はそれぞれに異なる特徴を持ち、完成する紙の性質を大きく左右します。職人は、作りたい和紙の用途や目指す品質に応じて、これらの原料を単独で用いるか、あるいは複数を配合して使用します。
楮はクワ科の植物で、その繊維は太く長いため、非常に強靭な紙を作ることができます。この強度と耐久性の高さから、障子紙や版画用紙、書道用紙といった、物理的な強さが求められる用途に広く用いられます。栽培も比較的容易で、毎年収穫が可能なことから、和紙の原料として安定的に使用されてきました。
三椏はジンチョウゲ科の植物で、日本銀行券、いわゆるお札の主原料としても知られています。その繊維は楮に比べて短く柔らかく、光沢があるのが特徴です。三椏から作られる紙は表面が滑らかで印刷適性が高く、きめ細かく優美な風合いを持つため、高級な印刷用紙や襖紙などに用いられます。ただし、害虫に弱く栽培に手間がかかるという側面も持ち合わせています。
雁皮も三椏と同じくジンチョウゲ科の植物ですが、その繊維は極めて細かく短いという特徴があります。雁皮で漉かれた紙は薄くても強靭で、虫害に強いことから長期保存に適しています。また、表面はきめ細かく滑らかで、独特の光沢を持つため、古くから高級和紙の原料として扱われてきました。特に「鳥の子紙(とりのこがみ)」と呼ばれる最高級の和紙は、この雁皮を主原料とします。しかし、雁皮は人工栽培が極めて難しく、山に自生しているものを採取するほかありません。この希少性が、雁皮を原料とする和紙の価値をさらに高めています。

国産和紙原料が直面する構造的な課題
和紙生産において、原料の品質は製品の品質に直結します。特に国産の原料は、外国産のものとは風合いや強度が異なるとされ、高品質な和紙作りには不可欠とされています。しかし、この国産原料の確保は、産地が抱える深刻な課題の一つです。
中でも、もっとも調達が困難とされるのが雁皮です。前述の通り、雁皮は人工栽培が難しく、その供給は山に自生するものに頼らざるを得ません。産地の職人によると、雁皮の生育には種を植えてから7年から10年という長い年月を要します。さらに、その採取は熊などの野生動物が出没する可能性のある山中で行われるため、常に危険が伴います。
こうした厳しい労働環境に加え、収穫の担い手の高齢化が深刻化しており、雁皮が生えている場所を知る人も年々減少しています。需要に対して供給が追いつかない状況が続いており、これが雁皮を原料とする高級和紙の生産をさらに難しいものにしています。
楮や三椏についても、栽培農家の高齢化や後継者不足は共通の課題です。かつては国内の多くの地域で栽培されていましたが、安価な外国産原料の流入や、紙の需要構造の変化に伴い、国内の生産基盤は縮小傾向にあります。伝統的な和紙作りを未来へ継承していくためには、原料の安定的な確保が不可欠であり、産地では栽培プロジェクトを進めるなどの取り組みも行われています。


繊維との対話、素材の特性を最大限に引き出す技術
良質な原料が手に入ったとしても、それがそのまま高品質な和紙になるわけではありません。原料から不純物を取り除き、繊維を一本一本丁寧に解きほぐし、紙として均一に漉き上げるまでには数多くの複雑な工程が存在します。その全ての工程において、職人は素材の特性と向き合い、対話するように作業を進めていきます。
たとえば、原料の皮から塵や変色部分を手作業で取り除く「塵取り」という工程は、紙の美しさを決める上で極めて重要です。特に雁皮のように細かな塵が多く含まれる原料では、この作業に多大な時間と根気を要します。ここでいかに丁寧な仕事ができるかが、最終的な紙の仕上がりを左右します。
また、繊維を水中で均一に分散させるために加える「ネリ」と呼ばれる粘剤の調整は、職人の経験と感覚がもっとも問われる工程の一つです。このネリはトロロアオイという植物の根から作られますが、その粘度は気温や水質によって刻一刻と変化します。マニュアル化が不可能なこの調整を誤ると、繊維が絡み合って塊になったり、均一な厚さの紙が漉けなくなったりします。産地に伝わる紙漉き唄には、その難しさを表す一節があるほどです。職人は、その日の原料の状態、気候を肌で感じながら、最適なネリの加減を見極めます。この素材との緻密な対話こそが、越前和紙の品質を支える技術の核心と言えるでしょう。
画像:株式会社五十嵐製紙




