



一年で一番寒い時期、器の「温度」を意識していますか?
大寒を過ぎ、寒さがもっとも厳しい季節となりました。朝起きるのが辛いこの時期、湯気の立つ温かいお味噌汁やスープは、身体だけでなく心まで解きほぐしてくれるようです。
前回は、焼き物における「陶器(土)」と「磁器(石)」の違いについて解説しました。今回は、日本の食卓に欠かせないもう一つの主役、「漆器」についてお話しします。
「漆器は高級品だから、お正月や来客時しか使わない」「管理が難しそう」。そんなイメージを持って、食器棚の奥にしまい込んでいませんか?
実は、漆器にとって一番良くないのは「使わないこと」なのです。今回は、漆器にまつわる誤解を解きつつ、冬こそ使いたい漆器の実力と、失敗しない選び方を紐解きます。
なぜ、料亭のお椀は「熱くない」のか
陶器や磁器のお茶碗に熱々のご飯や汁物を入れたとき、「あちち!」と手を引っ込めた経験はありませんか?
一方で漆器のお椀は、できたての汁物を注いでも、手で持つとほんのり温かい程度。けれど口をつけると、中身はしっかりと熱いまま保たれています。これは、素材である「木」と「漆」が、非常に高い断熱性を持っているからです。
・手には優しく、中身は冷めにくい(魔法瓶のような効果)
・口当たりが柔らかく、金属や陶器のような「冷やっ」とする感触がない
この機能性こそが、寒さが厳しい1月、2月の食卓に漆器をおすすめしたい最大の理由です。

「本物」を見分ける2つのチェックポイント
前回の焼き物が「土か、石か」で見分けられたように、漆器にも明確な違いがあります。 売り場には、大きく分けて以下の3つのグレードが並んでいます。
1.合成樹脂 × ウレタン塗装(安価・食洗機OK・いわゆるプラスチック)
2.天然木 × ウレタン塗装(木の手触り・メンテナンスフリー・経年変化なし)
3.天然木 × 本漆(ほんうるし)(手触りが最高・使うほど育つ・今回のおすすめ)
パッと見ただけでは区別がつきにくいのですが、これらは裏面の品質表示を見れば一目瞭然です。本物の漆器を選びたいときは、以下の2点を確認してください。
・素地の種類: 「天然木」
・表面塗装の種類: 「本漆塗装」
表面塗装が「ウレタン」や「カシュー塗装」となっているものは、漆のような風合いを出した合成塗料です。もちろん便利ですが、「漆器を育てる」という醍醐味を味わうなら、ぜひ「本漆」と書かれたものを手に取ってみてください。


「毎日使う」が最高の手入れ
「本漆は手入れが大変」というのは、実は大きな誤解です。漆という素材は、適度な湿り気を好みます。乾燥しすぎるとヒビ割れの原因になるため、棚の奥で乾燥したまま眠らせておくのが一番のダメージなのです。
毎日使い、汁物の汁気で潤し、洗って水分を拭き取る。このサイクルこそが、漆にとって最高の保湿ケアになります。
"やってはいけない3つのこと"これさえ守れば、実は陶磁器よりも割れにくく、一生モノとして付き合えます。
1.電子レンジの使用(中の木が焦げたり、割れたりします)
2.食器洗い乾燥機の使用(熱風と強力な水圧が苦手です)
3.長時間のつけ置き(水を含んで膨張してしまいます)
普通のスポンジと中性洗剤で優しく洗い、最後に布巾で拭くだけ。使い込むほどに漆が透けて透明感が増し、新品のときとは違う、艶やかな表情へと「経年変化」していきます。
立春に向けて、器を育てる楽しみを
まだまだ寒い日が続きますが、暦の上ではもうすぐ春。新しい季節に向けて、まずは毎日の汁椀を一つ、本物の漆器に変えてみませんか?
手に吸い付くような優しい肌触りと、使い込むほどに育っていく過程は、日々の暮らしを少しだけ丁寧に、豊かにしてくれるはずです。






