


自然と人の手が織りなす、奄美の黒
鹿児島県奄美大島・龍郷町。強い日差し、澄んだ水、鉄分を含む大地——この島の自然があってこそ成立する染色技法が「泥染め」だ。1300年の歴史を持ち、世界三大織物のひとつに数えられる大島紬の要となる工程である。肥後染色は、この技を家族で受け継ぐ工房だ。染料の原料となるのは「車輪梅(しゃりんばい)」、奄美では「テーチ木」と呼ばれる木。山から切り出した原木を切り、砕き、大釜で2日近くかけて煮出す。煮汁はまるで黒いコーヒーのような色と香りを放ち、これが黒の深みを生む下地染めとなる。
染料に布や糸を繰り返し浸して色を重ねていく。一度では決して仕上がらない。職人は手で揉み込みながら、その日の天候や染料の状態を見極め、微妙な色の変化を読み取っていく。大島紬の絹糸はもちろん、Tシャツなど多彩なアイテムも染め上げられる。
そしていよいよ泥田へ。テーチ木に含まれるタンニンと、泥に含まれる鉄分が化学反応を起こし、染料が定着して黒へと変化していく。この工程は時に90回近く繰り返される。膨大な手数を経て生まれる黒は、光を浴びる角度によってわずかに青みや緑みを帯びる、奥行きのある色だ。
最後は澄んだ川で布を清め、自然の恵みをそのまま纏わせる。合成染料では決して出せない「生きた黒」が、こうして織り上がっていく。
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