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120年の歴史を誇る「深川硝子工芸」で、技術を磨く職人たち
2023.12.22
120年の歴史を誇る「深川硝子工芸」で、技術を磨く職人たち

北海道小樽市

深川硝子
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120年の歴史を誇る「深川硝子工芸」で、技術を磨く職人たち
家庭や飲食店など、さまざまな場所で使用されているガラス食器。日常の中で当たり前のように使っていても、それらが製造された背景を考えたことがある人は少ないのではないだろうか。
ガラス製品を作るには多様な方法がある。北海道小樽市にある「深川硝子工芸」では、その中でも「吹きガラス」という伝統的な技術を用いて製品作りを行っている。
今回は、同社で6代目の代表取締役を務める出口健太さんにインタビューを実施。創業の経緯やこれまでの歩み、製造しているガラス製品などについて、話を伺った。

深川で始まり、立て直しのために小樽へ

深川硝子工芸が創業した経緯と、現在に至るまでの歩みを教えてください。

当社が創業したのは、1906年。私の曾祖父の師である井田精が、東京の深川区(現・住吉周辺)に工場を作ったのが始まりです。当時は国からの委託で、塩や薬を貯蔵する瓶などを作っていました。

工場はだんだん大きくなっていったのですが、関東大震災ですべて壊れてしまって。復興はしたものの、瓶は機械でも作れるようになってきていたので、徐々に売れなくなってしまいました。

そのような背景もあり、当社は昭和中期頃から食器の製造にシフトしていきました。最初は業務用コップのような製品だけを作っていたのですが、価格が安いんです。そのため、もうちょっと特別感のあるグラスを作れるようになろうと考え、さまざまな技術を磨いていきました。

高級食器の製造は、平成まで続いていきました。ただ、2003年に東京の工場の老朽化問題が生じて。創業時は工場しかない地域だったのですが、その頃には周りに住宅が増えていたため、同じ場所で工場を建て直すのが難しくなってしまったのです。

そこで、小樽へ移転する話が出ました。きっかけは、昔から付き合いのあった小樽にある北一硝子の社長さんと私の父が話し合いをしたこと。当社が小樽に移転すれば、物理的な距離が近くなるためコミュニケーションが取りやすいですし、製品を輸送するのにも都合がいいということで、移転を決めたそうです。

移転したタイミングで、何か変化したことはありますか?

移転前は40名ほど社員がいましたが、半分ぐらいに縮小しましたね。

ですが、「せっかく工場を建て直すなら」と、父が設備を見直しました。今の工場は、地下タンクにある水を再利用したり、工場を稼働させる際に発生する熱を利用して、冬場の暖房機能として熱を循環させたりできるようになっています。SDGsという言葉が広まる前から、人や地球にやさしい未来を考えながら事業に取り組んできたのです。

現在は、どのような商品を作っているのでしょうか。

当社はOEM商品(自社ではなく、他社ブランドのものとして製造した商品)が多く、スーパーOEM工場だと思っています。ただ、安い量産品を作るような仕事はあまり受けないようにしていて。理由は、技術的に難しい商品を作る仕事の方が、市場としても生き残っていけると考えているからです。

また、生産しやすいものや利益の出やすいものなど、何かひとつの商品だけに絞ってしまうと、生産効率は上がっても、その商品が売れなくなってしまったときに会社として立ちゆかなくなってしまうんですよね。

そのため、当社は商品を絞らず、いろいろな色や形に対応させたものを作っています。ほかのガラス工場で断られた商品の製造依頼が、当社にくることもありますよ。

商品開発の人たちは製造の知識が乏しい方も多いため、依頼されたものを実際に作るとなると難しいことが多いのですが、当社では難しくても1回受け止めて考え、「こうすればできますよ」と提案まで持っていけるようにしています。

採算が取れず、業界としてもどんどん工場が減ってきているので、市場を存続させるにはできる限り時代の流れに合わせて、さまざまな形で柔軟に対応できるようにしていく必要があると思っています。

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変わりゆく条件下でも、同じものを作るのが職人の仕事

ガラスの原料は、何が多いのでしょうか。

ガラスの原料は砂で、主な産地はオーストラリアです。真っ白な砂を仕入れてきて、重金属やレアメタルなどを混ぜて使っています。

砂に含まれる鉄分などの量によっても色が変わりますが、さらにいろいろな材料を混ぜることで、多様な色のガラスが作れるんです。

ただ、発色の具合が難しく、溶かす温度や工場内の気圧などによってまったく違うものが出来上がります。

また、気温や湿度も関係しますね。特に北海道は夏と冬で50度ぐらい気温差があるので、燃焼の条件が全然違う。そこが、ガラス作りの一番難しいところです。

原料は同じでも、日によって個体差が生まれてしまいそうですね。

そうなんです。毎日異なりますね。ただ、そのようななかでも機械と同じように作ることが、職人の仕事でもあります。

最近は、消費者の目も肥えてきているなと感じています。今の時代は、いいものを見る機会が増えましたよね。インターネットを使って、どこにいても見ようと思えば見る機会を得られますから。

職人さんたちは、どのくらいで一人前になれるのでしょうか。

厳密には年数で出せるものではないですが、大体10年ぐらいでしょうか。とはいえ、10年でゴールではありません。体が動く限り技術を磨いています。

「OEM商品を製造することが多い」とのお話がありましたが、自社商品もありますか?

自社商品もありますよ。OEM商品の製造ばかりやるのは、職人たちにとって面白くないんじゃないかなと思って。自分たちの作ったものを、自分たちの会社の名前で世に出せない不満が出ないよう、職人たちのために自社ブランドを立ち上げたんです。

また、SDGsへの取り組みとして、2017年より使用済み自動車の窓ガラスを再利用したグラスの製造も行っています。

窓ガラスを再利用するのは、珍しい取り組みですね。始めたきっかけは何だったのでしょうか?

株式会社マテックという道内最大級のリサイクル業者さんに出会ったのがきっかけですね。マテックさんでは、あらゆるものからメタルを取り出して国内外に売ったり、使用済み自動車から出る廃タイヤやプラスチック製部品をリサイクルしたりしています。

また、自動車の窓ガラスについては適宜埋め立て処理をしています。ガラスは地球の地殻と近い組成の天然素材を原料に作られていますので、埋め立てても海や川を汚染する危険性が低い素材と言えます。とはいっても埋め立てられる土地はいつかなくなりますよね。

マテックさんは素晴らしい会社で、「埋め立てることが本当にリサイクル業として正しいことだろうか?」と考えていたようで。

ちょうどそのときに話をする機会があって。車の窓とはいえガラスはガラスなので、当社としても「これは使えるな」と思い、再利用に向けての取り組みが始まりました。

通常のガラス製品との違いは、何かありますか?

ほとんど差はないんです。一度ガラス化しているものを溶かすので、砂を原料として作るよりも溶解はしやすいです。

出来上がる製品に関しては、気泡が多く、一つひとつの色合いが微妙に違うのが特徴です。再生ガラスは不純物が混じるため、そのような特徴が生じるのです。

自社・OEM問わず、商品のデザインはどのように決められているのでしょうか。

自社商品は、自分たちで図面を引いてデザインを決めます。OEM商品は、お客さんから図面をいただいて製作していますね。

当社は、摺り合せや穴あけのほか、名入れやロゴ入れをするサンドブラストや模様をつける切子なども行えます。デザイン・ガラス生地製作・加工までを自社設備内ですべて対応できる点は、当社の強みです。

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手作りのガラス産業をつないでいきたい

出口さんが考えるガラス製造に関する課題は、何かありますか。

課題は、やはり人手に関することですね。最近は、「ガラス作りがしたい」「興味がある」という美術大学を卒業した人も入ってきてくれてはいますが、職人はつらい仕事ですし、そういう人たちが長く働ける環境作りをしていかないといけないなと思っています。

今いる60代以上の職人が若かった頃は、ご飯を食べるためにがむしゃらに働かれていました。一方で、今の20〜30代の職人は、ガラスが好きだからやっているという印象が強いです。

世代によって、仕事に対するモチベーションやスタンスが異なるんです。そういった職人の世代間のギャップを埋めるのは、なかなか難しいですね。そこを取り持つことは、事業の存続に大きく関わることであり、私の役目だと考えています。

最後に、深川硝子工芸の今後の展望を教えてください。

まずは、会社を絶対に潰さないこと。手作りのガラス産業自体が自分の代で終わらないようにしたいです。

当社は120年近くガラスの製造をやっていますが、同業者は半分以上なくなっているそうです。このままだと産業自体がなくなってしまう。私としては、深川で出口家に生まれ、小樽に移住したということを意識して取り組んでいくつもりです。

私は6代目なのですが、ゆくゆくは誰かにバトンを渡して、伝統をつないでいければいいなと考えています。

また、今後はヨーロッパに向けた発信をしたいですね。ガラスの本場はヨーロッパなので、毎年足を運んでいるんです。日本でガラスが実用化されるようになってからはまだ150〜200年ほど。ヨーロッパに比べると、まだまだ歴史が浅いんですよ。

歴史は浅いですが、ガラスは伝統工芸品の中でも自由度が高いのが魅力。最近は「SNSを見て、ボーナスで買いに来ました」と言ってくれる20〜30代の方も多くて。時代が変わってきていて、本当に面白いなと思っています。興味を持たれた方は、ぜひ一度お手に取って見ていただけるとうれしいです。

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Text by 奥山 りか

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