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型を守り、型を破る——黒羽藍染紺屋8代目という在り方
2026.04.19
型を守り、型を破る——黒羽藍染紺屋8代目という在り方

栃木県大田原市

黒羽藍染紺屋
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小沼 雄大

黒羽藍染紺屋 8代目。伝統的な黒羽藍染の技法を受け継ぎながら、スニーカーや空間デザインなど新たな表現に取り組み、その魅力を現代に発信している。

黒羽藍染

松煙染めで松の根を燃やした煤と膠、大豆汁を用いて下染めし、その後糊付けと藍染を重ねる工程で深く濃い色と強度を生み出す。天然藍や木綿などのしっかりした生地を使用する。商人の作業着であるはんてんや衣類、暖簾、服飾品、空間装飾などに用いられる。

栃木県・大田原市黒羽地域で江戸時代から続く藍染工房「黒羽藍染紺屋」。8代目の小沼雄大は伝統を継承しながら、スニーカーや空間デザイン、異業種との協業に取り組む。型を守りつつ新たな表現を追求している。
型を守り、型を破る——黒羽藍染紺屋8代目という在り方
栃木県・大田原市黒羽地域で、江戸時代から続く藍染工房「黒羽藍染紺屋」。8代目を務める小沼さんは「職人らしくない職人」でありたいと語る。
厳しい修業を経て、スニーカーや空間デザイン、異業種とのコラボレーションへ。伝統を守りながら、枠を越えていくその姿は、これまでの職人像とはどこか違う。
型を守り、型を破る。黒羽の藍は、今新しい表現へとひらかれている。

那珂川の材木商の作業着として育まれた黒羽藍染

栃木県那須塩原駅からバスに揺られること約20分。大田原市黒羽地域にある黒羽藍染紺屋にたどりつく。蔵の入り口には、屋号である「て」と染められた、藍色の暖簾が風に揺れている。

「今年で創業222年。江戸時代から続く藍染工房で、僕で8代目になります。黒羽城の城下町として栄えたこの地には、近くに流れる那珂川で木を江戸まで届ける材木商が多くいたんですね。藍染は農民などの衣服が多いですが、黒羽藍染は商人の作業着です」

商人たちは、屋号を入れた藍染のはんてんを作らせた。重ね着すればするほど、商売が繁盛している余裕を示すことにもなると、職人たちはその数を競ったのだという。

「黒羽藍染は作業着なので、しっかりした生地と深く濃い藍色が特徴です。松煙染めといって松の根を燃やした煤と膠に大豆の汁を合わせた液で最初に引き染めすることで、生地は強くなり、深く強い濃い色に染まります」

そこに、糠と餅粉を炊いた糊を用いて、伊勢型紙で模様を付けていく。糊付けした生地を藍染めすることで、藍色に白が映える美しい模様が浮かび上がる。

廃業した職人などから譲り受けて、現在6,000枚以上の伊勢型紙が紺屋にあるという。
廃業した職人などから譲り受けて、現在6,000枚以上の伊勢型紙が紺屋にあるという。

「合成的なものを取り入れることも一部ありますが、江戸時代からの染め方や原料などはほとんど変わらないんです。糊も自ら作り、200年引き継がれてきた藍甕(あいがめ)を使い、天然藍を建てています」

黒羽地域には、もともと5軒の藍染紺屋があった。材木商がはんてんを着なくなるなど、時代と共に生活スタイルが変わっていったことで、少しずつ廃業になっていったという。

「後継者問題などさまざまな課題もあり、現在残っているのはうちの店だけになってしまいました。先代ではのぼり旗や暖簾、僕の代でも服飾品など、時代と共にさまざまな藍製品を作ることで、現代にまで繋がっています」

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「藍には神様がいる」と言う小沼さん。200年続く工房には神棚があり、毎年お正月には洋服に見立てた布を染めたり、お酒を捧げたりといった儀式も続けている。
「藍には神様がいる」と言う小沼さん。200年続く工房には神棚があり、毎年お正月には洋服に見立てた布を染めたり、お酒を捧げたりといった儀式も続けている。

「1年間やってダメだったら来なくていい」と言われた厳しい修業時代

物心ついた頃から祖父に『紺屋を継げ』と言われながら育ったが、あまりぴんとは来なかったという小沼さん。高校3年生の進路選択のときに、家業を継ぐことを選ぶことになる。

「学校も行きたくないし就職もしたくない。そう考えるうちに家の仕事をすればいいと行き着いたんです。そうすれば自分の好きなタイミングで仕事して、友達とも好きに遊びに行けるから天国だなと。今考えれば、本当に甘いんですけどね」

しかし、予想もしていなかったことが起きる。高校卒業後、東京の型染め工房で修業することになったのだ。呉服屋で働いたあと独学で藍染を学び職人になった先代は、息子にはちゃんとした技術を身につけてほしいと外に修業に出したのだという。

「工房の師匠はとにかく厳しい方でしたね。『今日からよろしくお願いします』と言ったときに、第一声で『この先1年間やってダメだったらもう来なくていい。10年やって自分のものにできなかったら、この世界はもう諦めろ』と言われたんです」

最初の1ヶ月は、何もない板の上でヘラを返す練習を素振りのように繰り返した。次の月には、板に糊を置いた状態でヘラを返していく。高校を卒業したばかりの小沼さん、地道な修業のなかで、毎日が苦しかったという。

「厳しくてやめたかったけど、先代は曲がったことが嫌いな性格で『やめるなら家から出てけ』というタイプだったので、口が裂けても辛いとは言えない。板挟みでしたね。

19歳くらいって一番楽しい時期じゃないですか。あるとき地元の同級生に修行について茶化されたことがあって悔しくて。負けず嫌いなので、『今に見てろよ、絶対見返して認めさせてやるからな』って気持ちを糧に頑張ってきました」

歯を食いしばり修業に耐え、1年後にはある程度の染めができるようになった。そこから栃木に戻り、家業を手伝いながら始発で東京に通う日々を経て、24歳で代を継ぐことになる。

「先代が突然亡くなってしまったんです。でもその頃にはある程度のことは自分でさばけるようになっていました。だからよっぽど厳しく技術を教えてもらい、育て上げてもらったんだなって。精神的にも多少のことでは動じないようになりました。本当にありがたかったんだと今では思っています」

「好きなものしか作らない」という決意が道をひらいた

呉服屋から職人になった先代は、細々と続けてきた紺屋を大きな工房に育て上げた優秀な営業マン。その先代が亡くなったことで大口の依頼が減り、大変な時期もあったのだという。

「食べていけるかと思い詰めるほど売り上げが落ちて厳しい時期もありました。そのときに、この先商売が続けられなくなるならば、せめて自分の好きなことをやってダメになった方が諦めがつくと考えたんです」

先代は、額や色紙などの記念品・贈呈品や、店先の暖簾などを作ることが多かった。しかしこれからのニーズを考えたとき、目を引くものを作る必要がある。そう考えた小沼さんは、学生時代に原宿に通うなどのファッションへの関心も手伝い、藍染のスニーカーを製作することにした。

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「型染めの糊を改良して、さらさらとした液体糊を開発したんです。型紙で模様を付けるのではなく、筆で絵の具のように糊を飛ばしていくことで、スニーカーにも模様を付けられるようになりました」

飛ばした糊は、刷毛で薄く伸ばす型染めと異なり、乾くことで割れていく。そこに藍染めすることで、抽象絵画のアクションペインティングのように、偶然によって濃淡や滲みといった動きが生まれる。その製法も駆使しながら、小物や服飾品など藍製品を作り上げてきた。

「自分が欲しいものを作ることを大切にしています。『売れるから作ってよ』と頼まれることもあるのですが、僕が好きじゃないものは作らない。そこは今でも一番信念を持っているところです」

製品のデザインだけにとどまらず、店舗のレイアウトも手掛ける小沼さん。Pinterestなどからイメージを集めて、理想の形に作り上げていく。
製品のデザインだけにとどまらず、店舗のレイアウトも手掛ける小沼さん。Pinterestなどからイメージを集めて、理想の形に作り上げていく。

職人らしくない職人として、いろいろな人とコラボレーションしていきたい

黒羽藍染紺屋は企業とコラボレーションも重ねている。そのきっかけは、星野リゾート「界・鬼怒川」からの依頼があったこと。とちぎ民藝の間として、全客室48室のベッドライナーや襖などを藍染の布で彩ったのだ。

「反響がありましたね。身の周りの方に『すごいね』って言ってもらったのが一番大きかったです。修業を重ねてきた若い頃の自分が報われた瞬間でもありました」

そこから、病院の一室やスタジアムなどのスポーツ施設のVIPルーム、公共施設の廊下など、さまざまな場所で黒羽藍染が求められるようになる。

「黒羽藍染は唯一無二の色だと思うんですよね。『どうしてそこから来たんだろう?』というような、度肝を抜くようないろいろな方と協業できたら面白い。コラボレーションを通して黒羽藍染の魅力を伝えることが、僕のこれからの目標でもあります」

さまざまなコラボレーションを重ねていく小沼さんに、職人としての理想像を伺ってみる。

「職人だけど職人っぽくないのが理想ですね。職人は無口で堅く自分の技術に誇りがあり、こだわりが強いイメージがある。でも腕を組んでる人には頼みづらいじゃないですか。僕は若干人見知りなのでなかなか難しいんですけど、接しやすく何でも相談しやすい職人像が理想です」

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学校の授業や星野リゾートの体験ツアーなどで体験授業を行うことも。店舗2階のスペースは、学校の机に藍染の布を張り付けたオリジナル机を置くなど内装にもこだわる。
学校の授業や星野リゾートの体験ツアーなどで体験授業を行うことも。店舗2階のスペースは、学校の机に藍染の布を張り付けたオリジナル机を置くなど内装にもこだわる。

最後に、“職人っぽくない職人”としての小沼さんらしさを感じたエピソードを紹介する。地域の中学生に、藍染を教える授業を15年続けている小沼さん。自作のフリップなども駆使して、アニメやお笑い芸人のギャグなどを取り入れながら授業をしているのだという。

「渾身のギャグをなかなか子どもたちが笑ってくれなくて。先生は笑ってくれるんですけどね。工芸が衰退している現代において、興味を持ってもらうのが一番だと思う。藍染の知識を忘れても、『藍染って楽しいもんだ』と大人になったときに思い出してもらえればいい。そこを入り口にしたいですね」

帰りの車のなかで小沼さんは、黒羽地域が2026年春NHK連続テレビ小説『風、薫る』の主人公、大関和(おおぜきちか)さんの故郷であることを教えてくれた。これからは『風、薫る』とコラボレーションした藍染製品も販売していくと、楽しそうに話してくれる小沼さんを見ていると、型破りな職人がこれからの未来を作っていくと強く感じた。

NHK連続テレビ小説『ばけばけ』から『風、薫る』へのバトンタッチセレモニーで、プレゼントとして黒羽藍染紺屋の「大関組紐(くみひも)の巾着(きんちゃく)」が選ばれた。
NHK連続テレビ小説『ばけばけ』から『風、薫る』へのバトンタッチセレモニーで、プレゼントとして黒羽藍染紺屋の「大関組紐(くみひも)の巾着(きんちゃく)」が選ばれた。

Text by 荒田 詩乃

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