



ファッションEC「ZOZOTOWN」を運営する株式会社ZOZOの100%子会社として、ファッションの未来を作ることをミッションに掲げるZOZO NEXT。同社のMATRIX本部は、Media、AI、 Textile、Robotics、IoT、XRという6つの領域とファッションを掛け合わせ、中長期的な視点で研究開発や新規事業を展開する技術者集団である。
これまで生成AIを活用したデジタルファッションの探求や、オウンドメディア「fashion tech news」を通じた情報発信、さらには東京大学や京都の西陣織と連携したIoT Textileの共同研究など、多岐にわたるアプローチで「ファッションの未来」を模索してきた。
そんな同社が今、あえて「物理的な手触り」を持つ伝統工芸と深く向き合っている。先端技術と伝統工芸の架け橋となり、素材にフォーカスして新しい商品や文化を作っていくプロジェクト。それが「呼色(よびいろ)」だ。
テクノロジーを追求する彼らは、いかにして伝統工芸に魅了され、何を生み出そうとしているのか。同社MATRIX本部長の田島康太郎氏の視点から、その舞台裏と彼らが描く未来の景色を紐解く。

閉ざされた研究を、社会の五感に開く
「プロトタイプというものは、世に出ることなく社内で閉じてしまうツールになりがちです。しかし、私たちがやっている『ファッションの未来を作る』という活動は、外に発信し、ユーザーに新しい世界を見てもらわなければ意味がありません」
今年初頭に開催された展示イベント「Tokyo Prototype」。田島は、この場にプロジェクトを出展した当時の経緯についてそう振り返る。日本テレビからのオファーが契機となったものの、根底には「いかに多くの人に、自分たちの取り組みを見てもらう機会を作るか」という強い渇望があったという。
この場でお披露目されたプロジェクトには、「呼色」という名が冠された。この言葉には、作品を目にする研究者や技術者およびクリエイター、そして消費者の感情を呼び起こし、五感に訴えかけてを刺激したいという切実な願いが込められている。
「あの場での展示を皮切りに、いろいろな方とのコラボレーション機会を広げ、コミュニティを少しずつ大きくしていくことが私たちにとって重要です。Tokyo Prototypeへの出展は、そのための最初のステップとして位置づけていました」


伝統という矛盾に向き合う、作り手たちの熱量
呼色の根幹にあるのは、日本全国の工房が持つ伝統的な技術に対し、同社がテクノロジーという新しい「軸」を持ち込むことである。
既存の工芸品の世界でも、デザイナーと工房がタッグを組んで「リデザイン」を行う取り組みは珍しくない。しかし同社は、そこへ新たに「現代技術」を組み込むことで、工房が持つ伝統技術の魅力に対し今までとは違う角度から光を当てようと試みている。
このプロジェクトを牽引するため、彼らは自社で運営する工芸メディア「Artisan」での取材活動を通じ、全国各地の工房へ直接足を運んできた。そこで出会った情熱ある工房の職人たち、そして共通の知人を通じて出会い、自身のプロダクトに強い信念とストーリーを持つデザイナーたちとともに、新しいものづくりに挑んでいる。
異なる背景を持つプロフェッショナルたちが交わる現場で、田島は2つの新鮮な驚きに出会ったという。
「一つは、デザイナーの方々が工芸の技術に対して非常に真摯に向き合う姿です。工芸の長い歴史に対し、彼らがその技術を目にできる時間は短い。それでもなお深く勉強し、職人に直接話を聞きながら、技術的な造詣を深めていく姿勢が印象的でした」
そしてもう一つは、伝統を守る立場であるはずの工房側の柔軟な姿勢だった。
「伝統工芸という地盤に、これまでの歴史や文化から外れるような『新しい技術』を取り入れることに対し、工房の方々は驚くほど積極的に取り組んでくださいました。伝統という言葉の重みを理解した上で、あえて異物を取り込んでいく。彼らの中には矛盾や葛藤があったかもしれませんが、そこへ前向きに取り組む姿勢は、技術集団である私たちにとっても非常に興味深く、新鮮な出来事でした」

プラットフォームとしての「無色」と、クリエイターの「色」
プロジェクト名である「呼色」には、「色を呼び起こす」という直感的な意味だけでなく、ZOZOグループならではの独自の哲学が込められている。
「私たちの親会社が運営するZOZOTOWNは、ECプラットフォームであり、それ自体は『色を持たない事業』です。今回の商品開発も同じで、ZOZO NEXTとしてのカラーを強く押し出すのではなく、携わってくださるデザイナーや工房の方々自身の『色』を強めていく。そういうコミュニティを広げていきたいのです」
個性豊かな才能を集め、彼らの創造性が最大限に発揮されるためのフックとなり、サポートを行う。主役はあくまで作り手たちであり、テクノロジーはその媒介となる。展示されるプロダクトは一つの枠に収まることなく、デザイナーの個性と工房の技術がそれぞれ違った角度で尖りながら、見事な融合を見せている。

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工業と工芸の境界線が溶ける未来
かつて田島自身も、工芸に対して「歴史が長く、文化や背景を知らないと触れてはいけないもの」「日常からは少し距離があるもの」という印象を抱いていた一人だった。しかし、プロジェクトを通じて全国の事業者の声を聞くうちに、その認識は大きく覆された。
「工芸は、ただその土地で生まれたからというだけの理由でそこに残っているわけではありません。携わる方々が絶えず試行錯誤し、技術開発やイノベーションを起こし続けてきたからこそ、今に受け継がれているのだと分かりました」
もともとメーカー出身である田島にとって、工芸と工業の交差点は非常にエキサイティングな領域に映っている。
「作るプロセスを分解していくと、工業と工芸はそこまで大きな違いはありません。工業の素材を工芸に取り入れる、逆に工芸の感覚を工業の領域へ持ち出すことも可能だという視点は、とても面白いものです。これからのものづくりは、生成AIなどの普及で情報が容易に得られるようになる分、一つの領域に留まらず、まったく異なる領域の技術が転用され、融合していく方向に進むと考えています」
工芸に使われてこなかった技術が活用されることで、生活を彩る新たな文脈が生まれる。それは、伝統を破壊するのではなく、伝統の適用範囲を拡張する行為なのだ。
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「変わらないこと」へのアンチテーゼと、愛着の形
情報やコンテンツの消費サイクルが極端に短くなっている現代において、人々の「もの」に対する価値観は二極化しつつあると田島は指摘する。
「短期的に消費されるものづくりの構造がある一方で、長く使っていくなかで、その美しさや愛着といった感情を大切にするプロダクトへの回帰が起きています。ユーザー自身も、自分のライフスタイルに合い、使ってワクワクする、感情に訴えかけてくるような製品を求めているはずです」
その中で彼が目指すのは、「長く使えて、かつ『変化を楽しめる』ものづくり」だ。
「ものというのは恒久的なものではなく、少し変わっていってもいいと思っています。私たちのライフスタイルがこれほど変化しているのに、製品のほうだけが『変わらないこと』を求められるのは、少し変な話ですよね。形を変えたり、経年変化を楽しめたりする。そんな変化を長く愛せるプロダクトを作っていきたいんです」
膨大な時間をかけて進化を続けてきた伝統技術と、現代のテクノロジー。両者が出会うことで生まれるのは、ただ便利な新しい道具ではない。呼色が社会に提案するのは、現代技術によって拡張された感性と、移りゆく時間さえも愛おしむことができる、新しい豊かさのプロトタイプである。

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