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和紙を漉く営みがプロダクトになる。名尾手すき和紙×ZOZO NEXTの照明「星境」
2026.09.18
和紙を漉く営みがプロダクトになる。名尾手すき和紙×ZOZO NEXTの照明「星境」

谷口 弦・彭 梓涵

(谷口)名尾手すき和紙 7代目。服飾業界を経て家業を継ぐ。和紙制作と作家活動を行いながら、国内外で個展やグループ展に参加している。 (彭)ZOZO NEXTプロダクトデザイナー。中国甘粛省出身。京都芸術大学卒業後、2024年ZOZO NEXT入社。

約330年の歴史を持つ名尾手すき和紙から生まれた照明「星境」 7代目・谷口弦氏とZOZO NEXTが、手漉き和紙の表情と現代技術を掛け合わせ、試作を重ねてプロダクトへと昇華した過程から、伝統とテクノロジーが拓くものづくりの可能性を紐解く。
和紙を漉く営みがプロダクトになる。名尾手すき和紙×ZOZO NEXTの照明「星境」

約330年にわたり受け継がれてきた名尾手すき和紙。その繊細な表情を、現代のプロダクトとしてどう生かせるのか。その問いから生まれたのが、和紙素材の照明「星境」だ。

手漉き和紙ならではのゆらぎと、蓄光素材による静かな光。その2つの表情をひとつの照明に宿した背景には、伝統工芸とテクノロジー、それぞれの強みを携えた作り手同士の対話があった。

名尾手すき和紙7代目・谷口弦氏と、ZOZO NEXTのプロダクトデザイナー・彭梓涵氏への取材をもとに、「星境(ほしさかい)」が生まれるまでの試行錯誤と、協業によって切り拓かれた新たなものづくりの可能性をたどる。

アート作品がプロダクトへ。きっかけは「売ってほしい」の声

すべての始まりは、スタイリストの三田真一氏が手がけた個展だった。この展示に、株式会社ZOZO NEXTのプロダクトデザイナーである彭梓涵氏も参加。そこで出会ったのが、佐賀県で約330年の歴史を紡ぐ「名尾手すき和紙」だった。

彭氏はその素材に惹かれ、直径90センチにも及ぶ巨大な和紙の灯籠を制作する。ブラックホールをモチーフにしたそのアート作品は、来場者の注目を集めた。

「展示中、多くのお客様から『この照明は商品化されますか』と声をかけていただきました。別の展示でも同じ質問を何度も受け、反響がとても良かったんです」(彭)

アートとして制作した一点物だったが、思いがけず多くの人々から「欲しい」という切実な声を受けた。鑑賞者の熱量が、壮大なアート作品を日常のプロダクトへと導く原動力となったのである。

プロダクト化への期待が寄せられたことで、商品化してみてもいいのではないかという気づきが生まれた。この気づきが、名尾手すき和紙の7代目・谷口弦氏と、ZOZO NEXTによるプロダクト開発の正式なキックオフへと繋がっていった。

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試行錯誤の末にたどり着く、「和紙は紙ではない」——3Dモデルで探る伝統の最適解

プロジェクトの最初の課題は、アートピースをいかに家庭用のプロダクトに落とし込むかだった。直径90センチの作品をそのまま置ける家は限られる。そこでチームは、まずサイズを大幅に縮小し、テーブルランプとして再設計することから始めた。

しかし、これは単なる縮小作業ではなかった。もっとも困難を極めたのが、和紙を立体的に成形する照明の「型」作りだ。強度と、光を灯した際の美しさを両立させる最適な形状と厚みを見つけるため、試行錯誤が繰り返された。彭氏は3Dモデリングで緻密な設計を行い、谷口氏は職人としての経験と勘でそれに応えていく。まさに、現代の技術と伝統の技が交差するプロセスだった。

「照明の制作では、何度も型を作り直しました。谷口さんと試作・検証を繰り返し、現在の形にたどり着いています。型の改良は9回にも及び、その過程はとても大変でした」(彭)

この開発を通して、彭氏は和紙という素材に対する認識を新たにしたという。

「和紙は紙というよりも、繊維の複合素材に近い。一層ずつ重ねる構造だからこそ、他の素材を組み合わせることもでき、新たな可能性を秘めています」(彭)

当初は専門外だったと語るデザイナーの純粋な探究心と、それを受け止め「できない」とは決して言わず、実現方法を探し続けた職人の姿勢が、この難題を乗り越える鍵となった。

「谷口さんは『できない』とはまず言わず、実現方法を考え続けてくださいました。その姿勢に深く感謝しています」(彭)

技術と工芸のせめぎ合いは、互いへの信頼関係によってブレイクスルーを迎えたのだ。

300年越しの夢。手漉きの「営み」が「プロダクト」になる日

試行錯誤の末に完成した和紙素材の照明「星境」。このプロダクトは、作り手である谷口氏が長年抱えていた想いを形にするものだった。

「私たち紙を作る側の人間からすると、和紙は素材として見られがちですが、実は私たちにとっては、それ自体がプロダクトだという想いがずっとありました。今回の取り組みは、私たちが紙を漉くという営みが、そのままプロダクトとして浮かび上がってくるようなプロセスを持つものづくりなのです」(谷口)

原料のカジノキを育て、一枚一枚紙を漉き、販売する。その全工程を一貫して行ってきた名尾手すき和紙。彼らにとって和紙作りは「素材生産」であると同時に、それ自体が完結した「プロダクト制作」でもあった。しかし、その価値が使い手に届く前に、「和紙=素材」というフィルターがかかってしまう。そのジレンマが、今回の協業によって解消されつつあると谷口氏は言う。

テクノロジーとの出会いが、300年間変わらなかった営みの本質を損なうことなく、新たな価値として可視化された。それは、伝統の継承者にとって大きな喜びだった。

「300年以上受け継がれてきたなかでも実現できなかったことが、現代の技術と組み合わさることで形になっていく。そのことに、大きな可能性とロマンを感じています。だからこそ、この取り組みは本当に楽しいですね」(谷口)

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AIの時代だからこそ深まる、手仕事の「背景」を味わう豊かさ

和紙が日常から姿を消しつつある現代。谷口氏はこの状況を悲観するのではなく、むしろ好機だと捉えている。希少になったからこそ、一つひとつのモノと丁寧に向き合う時間が生まれる、というのだ。

「和紙を鑑賞するのに、一番適した時代は今だと思っています。かつて暮らしの風景に当たり前にあった障子や提灯が少なくなったことで、和紙を実用品としてではなくプロダクトとして捉え、その背景にある物語や価値に目を向けられるようになった。AIをはじめ、目に見えない技術が暮らしに浸透する今だからこそ、形のないものや、その奥にある人と人とのコミュニケーションにも自然と想像を巡らせられるのではないでしょうか」(谷口)

この考えは、デザイナーである彭氏の視点とも共鳴する。均一で高品質な製品が溢れる現代において、人々がモノを選ぶ基準は「どれだけ特別か」に移っていると彭氏は語る。落ち葉や季節の植物を漉き込むことができる手仕事の和紙は、まさにその人だけの「特別」を生み出す力を持っているのだ。

「星境」が灯すのは、単なる物理的な光だけではない。佐賀の山深い工房で、職人が一枚一枚紙を漉く風景。デザイナーが3Dモデルと格闘した時間。2人の対話。そのすべてを含んだ「背景」という名の光が、私たちの空間を照らす。テクノロジーが進化し、あらゆるものが効率化される時代だからこそ、この「想像する豊かさ」の価値は、ますます高まっていくのだろう。

「星境」は、呼色プロジェクトが生み出したひとつの「成果」であると同時に、未来の作り手たちを刺激する「呼び水」でもある。

「僕たちの成果を見て終わるのではなく、『自分だったらこうできるかもしれない』『日々の暮らしの中にも、新しい発想の種はあるのかもしれない』と考えるきっかけになればうれしいですね」(谷口)

伝統工芸と先端技術。それらは対立するものではなく、組み合わせることで新しい価値を生み出すパートナーになりうる。呼色プロジェクトは、その「最初の一滴」を社会に投じながら、次の出会いを待っている。あなたの持つ技術が、まだ見ぬ未来の風景を描き出すかもしれない。

#呼色#星境#和紙#伝統工芸#共創
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