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伝統技法が、新素材の可能性を引き出す。secca×ZOZO NEXTが見出した「ひととせ」
2026.09.18
伝統技法が、新素材の可能性を引き出す。secca×ZOZO NEXTが見出した「ひととせ」

上町 達也・柳井 友一・今西 康暢・高野 幹

(上町)secca代表。経営、コンセプト設計、デザインを担う。 (柳井)secca取締役。陶芸を背景に制作を牽引。 (今西)seccaデザイナー。製品設計や3D、アート制作を手がける。 (高野)ZOZO NEXT。スマートテキスタイルやデバイスの研究開発・事業化を担う。

気温や時間の変化とともに表情を変え、四季の移ろいを暮らしに映す「ひととせ」 金沢の工芸集団seccaとZOZO NEXTが、温度で色が変わる素材と漆の伝統技法を掛け合わせ、機能を情緒的な体験へと昇華させた共創の過程をたどる。
伝統技法が、新素材の可能性を引き出す。secca×ZOZO NEXTが見出した「ひととせ」

気温の変化や時間の経過とともに、ゆっくりと表情を変えていく花瓶や時計。そんな四季の移ろいを暮らしの中で感じられるプロダクト「ひととせ」は、金沢の工芸集団seccaとZOZO NEXTの出会いから生まれた。

伝統工芸とテクノロジー。一見異なる領域を歩んできた両者は、なぜともにものづくりに挑むことになったのか。「ひととせ」の開発を通して見えてきた、両者に共通する思想と、新たな表現が生まれるまでの過程を、seccaの上町達也氏、柳井友一氏、今西康暢氏、そしてZOZO NEXTの高野幹氏による談話から追う。

出会いが拓いた、テクノロジーと工芸の新たな地平

ZOZO NEXTはこれまで、テクノロジーを用いた素材の研究開発を主軸とし、その成果を展示会などで発表してきた。しかし、事業が新たなフェーズに進むにつれ、「開発した技術をいかに社会に実装し、人々の手に届けるか」という、その意識もまた新たな段階へと移行する。そこで始まったのが、外部パートナーと協業し、プロダクトを開発・販売する試みだ。

白羽の矢が立ったのが、金沢を拠点とする工芸集団「secca」だった。彼らは単なる制作工房ではない。伝統工芸の精神性と技術を土台にしながら、現代的な視点でプロダクトを企画・提案し、デザインから実装までを一貫して手がける職人集団だ。その「提案型」の姿勢が、ZOZO NEXTの目に留まった。

「僕たちはデザイン事務所でも、依頼されたものを形にするだけの工房でもありません。工芸を起点に企画や提案まで含めてものづくりを実践している点を、今回評価していただけたのだと思います。何でも手に入る時代だからこそ、効率性だけではない、日本の工芸が持つ価値や可能性に共感してくださったのではないでしょうか」(上町)

この出会いは、両者にとって新たな扉を開くものだった。ZOZO NEXT側は、seccaが手がけるプロダクトに、テクノロジーを扱うだけでは至れない「生活への眼差し」を見出す。ZOZO NEXTの高野幹氏は、seccaのデザインが、素材の特性を深く理解し、それが生活に溶け込む形へと昇華させる力を持つと高く評価していた。こうして、テクノロジーと工芸、異分野の2者が手を取り合い、まだ見ぬプロダクトを生み出すプロジェクトが始動した。

複数の技術候補の中から選ばれたのは、温度によって色が変化する「ロイコ染料」。身近な製品への応用実績があり、その変化が視覚的に分かりやすいこの素材が、最初の挑戦のテーマとなった。

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「便利」を超えて。テクノロジーに情緒的価値を宿す挑戦

プロジェクトの核心は、単に「色が変わる」という珍しい現象を見せることではなかった。seccaが目指したのは、その機能をいかにして「情緒的価値」へと昇華させ、「体験」につなげるか、という根源的な問いへの挑戦だった。

現代社会は、すぐに結果が得られる即時的な利便性に満ちている。しかしその一方で、かつて日本人が持っていた、季節の移ろいのような緩やかな変化に心を寄せ、じっと佇むことで得られる豊かさは失われつつある。この状況に対し、チームは「ひととせ」というコンセプトを掲げた。それは、日々の暮らしの中で季節の移ろいに目を向けるきっかけを、プロダクトを通してつくるという思想だ。

「今回目指したのは、すぐに便利さを感じられたり、瞬時に結果が得られたりするものではありません。時間とともに表情を変え、その変化に何度触れても飽きることなく、暮らしに自然と寄り添い続けるような存在です。『色が変わる』という機能を、いかに情緒的な価値へと昇華し、体験を生み出せるか。それが私たちが追求したテーマでした」(上町)

しかし、その道のりは平坦ではなかった。最大の壁は、人工的な素材を用いながら、いかにして「自然な美しさ」を実現するかという点にあった。自然の景色が持つ複雑で美しいグラデーションを再現しようとしても、色の組み合わせや塗り方一つで、意図しない「美しさに欠ける」表情が生まれてしまう。試作を重ねるなかで、チームは何度も壁に突き当たった。コンセプトを形にするための、地道な試行錯誤が続いた。

「自然の風景を思い描きながら開発を進めているからこそ、色が変化する過程では、見た瞬間に美しいと感じられない表情になることがあります。理屈ではなく、誰もが直感的に『綺麗だ』と思える表現に仕上げることが、一番難しいところでした」(上町)

漆の伝統技法「変わり塗り」との邂逅

試行錯誤の末にチームがたどり着いたブレイクスルー。それは、漆の伝統技法「変わり塗り」との出会いだった。もともとは刀の鞘や印籠などの装飾に用いられたこの技法は、漆に籾殻などを混ぜて表面に凹凸を作り、幾重にも塗り重ねた層を研ぎ出すことで、複雑で偶発的な模様を生み出す。

seccaは、この変わり塗りのプロセスをロイコ顔料に応用することを思いつく。工業原料であるロイコ顔料は、そのまま使うと均質で無機質な表情になりがちだ。しかし、工芸が持つ「素材が起こす現象に委ねる」という考え方を取り入れ、変わり塗りのように意図的な凹凸と研ぎ出しを組み合わせることで、予測不能な「ゆらぎ」が生まれるのではないか。その仮説が、プロジェクトを大きく前進させた。

「変わり塗りの特性である素材の起伏を応用し、ロイコを漆に見立てて重ねていくことで、今までにないような表情が生まれました。温度変化で消えていく層もあれば、新しく出てくる層もある。漆とはまた違った、新しい表情が生み出せたのは本当に面白いところでした」(今西)

工芸的なテクスチャーの力が、工業素材に情緒的な佇まいを与えた瞬間だった。色の選定においても、自然への眼差しが貫かれている。インスピレーションの源となったのは、金沢の春から夏にかけて見られる、刻一刻と表情を変える空の色。人が見て「美しい」と感じる自然界の色彩を手がかりに、そこから得られる情緒的なイメージを3つのストーリーとして描き出し、色の変化を設計していった。テクノロジーと伝統技法、そして自然の美学が、一つのプロダクトの中で融合を遂げた。

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暮らし起点のコンセプトが生んだ、双方の“発見”

プロジェクトを通じて完成した「ひととせ」は、単なるプロダクト以上のものを両者にもたらした。それは、互いの領域を越境したからこそ得られた、新しい価値観との出会いだった。

ZOZO NEXTの高野氏にとって、seccaのアプローチは新鮮な驚きに満ちていた。普段、技術を起点に物事を考えるエンジニアの視点に対し、seccaの提案はまったく異なる角度からのものだったという。

「私は普段、技術をどう生かすかという視点から考えることが多いのですが、seccaさんは『温度で色が変わる』という機能を、暮らしの中でどのような体験につなげられるかという視点からコンセプトを組み立てていました。その発想は私にとって非常に新鮮で、今後のプロダクト開発にも生かしていきたいと感じています」(高野)

一方、seccaにとってもこの協業は大きな発見の連続だった。テクノロジーは効率や利便性を追求するための道具という側面だけではない。使い方次第で、人の情緒に訴えかける価値を生み出すことができる。その可能性を、今回のプロジェクトは明確に示してくれた。

「テクノロジーは利便性を高めるだけでなく、情緒的な価値へと昇華させることもできる。その可能性を実感できたことは、開発を進めるなかでも特に心が躍る体験でした。機能的な驚きにとどまらず、佇まいとしても美しいプロダクトを生み出せることは、私にとって大きな発見でした」(上町)

工業製品向けの素材と、一点ものの工芸素材。これまで分離されて考えられてきた2つの領域が融合することで、新たな表現が生まれる。この協業は、ものづくりの未来に向けた確かな一歩を刻んだ。

伝統の針を進める。未来の作り手への眼差し

seccaのものづくりの根底には、「伝統の針を先に進める」という確固たる意志がある。上町氏は、現在「伝統工芸」と呼ばれるものも、その始まりには一人の作り手による「新たなチャレンジ」があったはずだと指摘する。

「今でこそ伝統工芸と呼ばれるものも、その始まりには必ず、一人の作り手の挑戦心があったはずです。目の前の人を驚かせたい、他の誰もなし得ないことを探求したいという情熱から生まれた新しい試みが、人々の心を動かし、継承され、やがて『伝統』として定義されてきた。私たちがリスペクトすべきは、その結果だけではなく、最初に挑戦した作り手の精神性そのものです」(上町)

この思想こそが、seccaの原動力だ。伝統を守り続けるためには、過去をなぞるだけでは不十分である。むしろ、挑戦する者が連続的に生まれ、業界全体がそれを面白がる文化を育むことこそが、伝統を未来へつなぐ鍵だと彼らは信じている。

「だからこそ僕たちは、これまで誰も取り組んでこなかったような新しい挑戦を、あえて続けています。それは、挑戦を重ねることで今日の伝統を築いてきた先人たちへの敬意があるからです」(上町)

ZOZO NEXTとの協業は、まさにその挑戦の精神を体現するものだった。テクノロジーという異分野の力を借りて、工芸が持つ価値を現代に問い直し、その先を描く。seccaの視線は、常に未来の作り手たちに向けられている。

「ひととせ」が示したテクノロジーと工芸の共創は、まだ始まりに過ぎない。この挑戦は、これまで交わることのなかった領域に橋を架け、新たなものづくりの可能性を指し示している。seccaのメンバーは、このプロジェクトが未来の作り手たちにとっての「トリガー」になることへの期待を語る。

「僕たちは工業を理解しているからこそ、工芸との新たな接点を広げていきたいと考えています。また、知見を囲い込むのではなく、積極的に共有しながら、工業と工芸をつなぐハブのような存在になれたらと思っています」(柳井)

「呼色」の最初の一滴は、確かに新たな水脈を掘り当てた。この流れは、次なる挑戦者を待ち望んでいる。

#呼色#ひととせ#磁器#伝統工芸#共創
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