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"色が変わる"を、日常に溶け込むテキスタイルへ。氷室友里×ZOZO NEXT による「THERMO TEXTILE」
2026.09.18
"色が変わる"を、日常に溶け込むテキスタイルへ。氷室友里×ZOZO NEXT	による「THERMO TEXTILE」

氷室 友里・中丸 啓

(氷室)株式会社 HIMURO DESIGN STUDIO 代表取締役。日本とフィンランドでテキスタイルを学び活動しているテキスタイルデザイナー。人と布との関わりを通して、日々に驚きや楽しさ、豊かさをもたらすことをテーマにテキスタイルブランドYURI HIMUROを立ち上げ、オリジナル作品の開発、空間演出、企業へのデザイン提供などを行う。 (中丸) 株式会社ZOZO NEXTディレクター。柔らかな機能性素材やデバイス開発、UX設計が専門。新規技術の事業化を推進。ACM DIS 2019 Best Paper、Ars Electronica Festival Starts Prize Honorary mention等受賞。

温度によって色が変化する特殊な糸から生まれた「THERMO TEXTILE」 テキスタイルデザイナー・氷室友里氏とZOZO NEXTが、機能性と心地よい風合いを両立するために重ねた試行錯誤から、デザインと技術が共創するものづくりの可能性を示す。
"色が変わる"を、日常に溶け込むテキスタイルへ。氷室友里×ZOZO NEXT	による「THERMO TEXTILE」

青を基調とした静かな森の風景が描かれた一枚のテキスタイル。しかし、人の手がそっと触れると、焚き火やランタンの暖かな「火」が赤く浮かび上がる。温度によって色が変化する特殊な糸と、テキスタイルデザイナー・氷室友里氏の発想が出会うことで、「THERMO TEXTILE」は生まれた。

最先端の機能素材でありながら、技術そのものを見せることを目的としているわけではない。このプロダクトが目指したのは、日常の中で自然に触れたくなるテキスタイルとして成立させること。その実現には、素材の風合いや表現方法をめぐる試行錯誤が欠かせなかった。

機能と感性は、どのように交わり、一枚の布へと結実したのか。氷室氏とZOZO NEXTの中丸啓氏が、共創の舞台裏を語る。

出会いが紡いだ「物語」への探求

テキスタイルデザイナーの氷室友里氏は、人と布との関わりからポジティブな変化を生み出すことをテーマに活動してきた。ハサミで切り込みを入れると中から新たな柄が現れる生地や、表裏で異なる絵柄が連動する生地。彼女の作品は、使う人の手によって表情を変え、コミュニケーションを生む「遊び心」に満ちている。その原点は、幼少期に心惹かれた一つのキッチンアイテムにあったという。

「日常で使われているものを見るのが好きで、その時間が思い出に残っています。自分もそのようなものを作り出す人になりたいという思いからデザイナーを志したので、何を作るときも、どうすれば人に楽しんでもらえるかを常に考えています」(氷室)

布という、生活にもっとも身近な素材を通して、使う人のイマジネーションを刺激し、愛着を育む。その一貫した哲学が、新たな技術との交差点を生むことになる。

一方、ZOZOグループでファッションの未来を創造するR&D組織「ZOZO NEXT」は、ある課題を抱えていた。彼らは、温度で色が変わる糸といった、従来ファッションの文脈では使われてこなかった素材を開発してきた。しかし、その技術的な新規性を、いかにして人の心を動かす「体験」へと昇華させるか。その答えを探していた。

「これまでも色が変わる素材は扱ってきましたが、単に色が変わるというだけではなく、その変化に物語や体験が生まれるような表現ができないかと考えていました。そこから布の中に独自の世界観を描き出せるデザイナーを探すなかで、氷室さんと出会ったんです」(中丸)

ZOZO NEXTの中丸啓氏は、出会いの経緯をそう振り返る。人の感性に働きかける「物語」を求めていた技術と、布と人の間に「コミュニケーション」を生み出してきたデザイン。両者の出会いは、必然だったのかもしれない。

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息を吹きかける行為から生まれた「火熾し」のアイディア

協業が始まり、氷室氏はZOZO NEXTが開発したさまざまな機能糸に触れていく。その中に、温度で色が変化する糸があった。だが、彼女が最初に触れたとき、予期せぬ事態が起こる。自身の体温では、糸の色がまったく変わらなかったのだ。

「実は私、すごく冷え性で、触っても糸の色が全然変わらなかったんです。『どうしよう』と思いながらも、どうしてもその変化を見てみたくて、試しに息を吹きかけてみたんです。そうしたらようやく色が変わって。その瞬間の体験が、今回のデザインのアイディアにつながりました」(氷室)

息を吹きかける行為が、火を熾す仕草と重なった。この小さな発見が、デザインの核となるコンセプト「火を灯す」を生み出した。氷室氏は、キャンプの風景をモチーフにしたテキスタイルを構想する。普段は青を基調とした静かな森の景色が、人の手が触れることで、焚き火やランタンに赤々とした「火」が灯るのだ。

「テキスタイルには、焚き火でお湯を沸かしたり、魚を焼いたりと、森で過ごすさまざまなシーンを描いています。触れたり温もりが伝わったりすることで、その場所に火が灯るような仕掛けにしました。たとえばコースターとして使えば、温かい飲み物を置いた瞬間に、それまで静かだった森に火が浮かび上がる。そんな小さな変化で、日常の中にちょっとした楽しい時間を生み出せたらと思っています」(氷室)

限られた変化色である「赤」をもっとも美しく見せるため、背景は青系のトーンで統一された。技術的な制約さえも、デザインの強度を高める要素へと転換していく。こうして、人の体温という微細な変化を捉え、物語を浮かび上がらせるテキスタイルの原型が完成した。だが、本当の挑戦はここからだった。

創作の壁となった「風合い」。技術と感性のせめぎ合い

ジャカード織りで試作を進めるなかで、大きな壁が立ちはだかった。布の「風合い」の問題である。氷室氏は、人が日常で触れるテキスタイルにおいて、心地よい手触りやしなやかさを何よりも重視する。そのため、織り上がった生地に洗いをかけ、柔らかく仕上げる工程は欠かせない。しかし、ここで問題が生じた。

「当初は、温度変化糸以外の部分をコットンで織っていました。ただ、洗い加工を施すとコットンだけが縮み、温度変化糸が浮き上がってしまうことがあったんです。一枚の生地としてバランスを取ろうとすると、今度は狙っていた風合いにたどり着かない。理想の質感を実現するには、素材の組み合わせを何度も見直す必要がありました」(氷室)

理想の質感を追求すれば、特殊な糸が生地の表面で波打ってしまう。逆に、糸の特性を優先すれば、氷室氏が大切にする「人が触れたいと思う」風合いが損なわれる。改善のため、コットン以外の素材を混ぜるなど組成を変え、何度もテストが繰り返された。織りの工場と洗い加工の工場、2つの拠点を経てようやく結果がわかるという、時間のかかる作業だったと氷室氏は言う。

この問題は、従来の素材開発の常識では解決が難しいものだった。通常、デザイナーは与えられた素材の制約の中で、最善の表現方法を模索する。素材そのものを変えるという選択肢は、ほとんどの場合存在しないからだ。

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「素材を、変えましょう」——共創が生んだブレイクスルー

試行錯誤が続くなか、ZOZO NEXTの中丸氏から氷室氏へ、予想外の提案がもたらされる。「じゃあ素材側を、ちょっといじってみましょう」。それは、デザイナーが素材の制約に合わせるのではなく、技術がデザイナーの感性に応えるという、まさに共創の瞬間だった。

「私にはない科学的な知識をもとに、糸の染め方だけでなく、原料の段階から開発していく提案をしてくださったんです。それは一人では決して踏み込めない領域で、本当に一緒に創っているからこそ実現できるものなんだと感じて、とても感動しました」(氷室)

この提案により、プロジェクトは新たなフェーズへと移行した。コットン糸に温度変化の機能を付与する、というまったく新しい開発がスタートしたのだ。これが実現すれば、収縮率の違いという根本的な問題が解決され、コットン100%ならではの自然な風合いと、温度で変化する機能性の両立が可能になる。

この経験は、技術を提供するZOZO NEXT側にも大きな刺激となった。中丸氏は、氷室氏との協業で得られた気づきをこう語る。

「氷室さんの作品は、使う人が触れることで完成するような体験が特徴です。そのため、布のしなやかさや質感にも強いこだわりを持たれていました。私たちにとっては、それまであまり深く向き合ってこなかった視点だったので、開発を進めるなかで多くの気づきや刺激をいただきました」(中丸)

デザインの感性が、技術開発の新たな指針となる。この相互作用こそが、呼色プロジェクトが目指す共創の価値だ。中丸氏は完成したプロダクトについて、「直接触れることで物語性が伝わってくるのがユニーク」と評する。それは、単に美しい織物であるだけでなく、人と布との間、ひいては共に使う人と人との間に、新たなコミュニケーションを促す「体験」が生まれたことを意味していた。

理想の風合いを求め、素材そのものの開発にまで踏み込んだ今回のプロジェクト。それは、デザイナーが抱く感性的な理想を、技術者が正面から受け止め、共に形にしていくという新しいものづくりの可能性を示している。氷室氏は、デザイナーとしての原点を胸に、これからも活動を続けると語る。

「目指していることは、ずっと変わっていません。テキスタイルを通して、人が思わず笑顔になるような瞬間をつくり続けたい。その思いを大切にしながら、ものづくりを続けています」(氷室)

この協業は、ZOZO NEXTにとっても次なる開発への原動力となった。氷室氏から託された「もっと温度の幅を広げたい」といった技術的な“宿題”に応えるべく、開発は今も続く。

「これからも、氷室さんが目指す表現に素材の側から応えられるような開発を続けていきたいと考えます。体験そのものを、さらに豊かにできる素材を生み出していきたいですね」(中丸)

呼色のプロジェクトは、常に新たなパートナーとの出会いを待っている。その一滴は、まだ見ぬ未来の風景を描き出すきっかけとなるはずだ。

#呼色#THERMOTEXTILE#テキスタイル#伝統工芸#共創
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