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手漉き和紙の挑戦:現代を貫く制作の技(エベン・エミリ)
2024.10.31
手漉き和紙の挑戦:現代を貫く制作の技(エベン・エミリ)
手漉き和紙の挑戦:現代を貫く制作の技(エベン・エミリ)

2008年、私は京都にある有名な和紙専門店、紙司柿本を訪れました。紙司柿本では、何百種類もの美しい和紙が販売されています。何世紀にもわたって磨き上げられた技術によって、職人たちが真摯に和紙作りに取り組んでいる様子に、私は強く心を惹かれました。彼らの仕事には謙虚さとともに、誇りも感じられました。それ以来、私は、シンプルでありながら見事なまでに精巧に作られた素材の背後にある素晴らしい職人技について、自分なりの方法で広く伝えていきたいと思うようになりました。

和紙工房を訪問するなかで、職人たちが口を揃えて「仕事が大変なだけでなく、経済的に自立するのが難しい」と話すのを聞いて胸が痛みました。工芸技術は衰退しつつあり、その存続は、業界が数十年にわたって直面してきた重要な問題です。長年にわたる職人たちとの会話から、克服すべき課題の概要、職人たちがこれまでどのように努力してきたか、そして危機に直面したうえで現在どのような試みがなされているかを紹介したいと思います。

課題

主に楮(こうぞ)を原料とする和紙は、三椏(みつまた)や雁皮(がんぴ)の繊維も加えられ、非常に手間のかかる工程を経て作られます。 蒸して皮を剥いだ後、職人はそれをアルカリ性の水溶液が入った浴槽で煮たり、洗浄したり、日光に晒して白くしたり、さらに繊維の白さと品質を保つために、念入りに手作業で小さい塵を取るなどして、白い繊維を紙パルプに変えます。繊維を叩解した後、職人は簀桁(すげた)を使って漕の中でパルプをすくい上げ、シート状になるように紙を漉きます。多くの職人は、植物を栽培しており、すでに大変なこの工芸にさらなる困難が加わります。和紙職人は、肉体的に厳しい作業、地方ゆえの孤立感、予測できない自然の脅威、ニッチ市場での事業運営の難しさに耐えなければなりません。

上述の工程は、何世紀にもわたって受け継がれてきた伝統的な和紙の製造方法とされています。しかし、明治時代(1868年~1912年)に西洋式の製紙方法が導入されて以来、手漉き和紙職人の数は激減しました。1960年代から70年代にかけて、地方の過疎化が追い打ちをかけ、さらに打撃を受けました。

上田康正氏 / 上田手漉和紙工場:横野和紙工房(岡山県津山市)
上田康正氏 / 上田手漉和紙工場:横野和紙工房(岡山県津山市)

また「弟子入り」は正式な和紙作りを学ぶ数少ない機会ですが、この分野に若い人々を惹きつけるのは難しい現状があります。実際、伝統的な技術の習得方法は師弟制度であり、師匠の家に住み込んで学ぶ必要があります。今日では、和紙職人になる動機は、単に「仕事を学ぶ」というよりも、この文化遺産を存続させようという思いが強く、義務と情熱が融合しているのです。

こうした困難にもかかわらず、日本の手漉き和紙は、その品質の高さで称賛され続けています。安価で簡単に作れ、消費しやすい洋紙への需要の高まりにより、一部のメーカーは生産工程に多少なりとも機械を取り入れることを余儀なくされています。一方で、これが無限の種類の和紙を生み出すことにつながり、日本画家の藤田飛鳥氏も指摘しているように、製品のパラメータを変更することで、あらゆるニーズに対応が可能になります。ただし、重要な課題は依然として残っています。和紙の価値と、その深く根ざした文化について、一般の人々を教育することが必要です。

過去の答え

和紙の製造技術は、多くの日本人にとって学生時代に初めて触れるものです。日本の小中学校の中には、卒業証書を作るために、生徒たちが自分自身で和紙を漉く機会が与えられるところもあります。また、多くの場合、工房を持つ職人たちは一般の人々にも門戸を開き、熟練した指導の下で和紙作りを体験できる機会を提供しています。

しかし、和紙文化を国レベルで推進する取り組みは比較的少なく、非常に厳しい選択基準があります。その顕著な例として、経済産業省が認定する「伝統的工芸品」の「伝産品」ラベルがあります。2024年現在、この名誉あるラベルを獲得している和紙は9種類のみで、伝統工芸士として認定されている職人はわずか60名です。地方においてこの10年間でもっとも注目すべき取り組みは、石州半紙、本美濃紙、細川紙の紙漉き組合によるもので、この3つの和紙の伝統技術がユネスコ無形文化遺産に登録されたことです。ユネスコの認定は、この3つの紙の種類とその特定の製造方法のみに適用されますが、国際的にはすべての手漉き和紙職人の幅広い技術と献身が認められたものと見なされており、和紙業界全体に恩恵をもたらしています。

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奥田好治氏/和紙工房 松鹿(兵庫県淡路市)
奥田好治氏/和紙工房 松鹿(兵庫県淡路市)

ただし、ブランド化された地域の職人にとっては、プロモーション露出による後押しのおかげで、マーケティングの必要はほとんどありません。一方で他の地域の職人たちは、同様に価値のある職人技をより強く主張しなければならないのです。和紙のプロモーション活動の多くは、市町村や地域社会の努力によって行われています。これらの取り組みは、一般的に口コミや地方紙、ソーシャルネットワークを利用して認知度を高めているのが現状です。個人的には、支援することで恩恵を受けられるであろう、あまり知られていない地域に思い入れがあります。

また、この業界の国際的な架け橋となる者として、過去10年間にわたり和紙の需要が高まっているにもかかわらず、国際市場への取り組みは十分ではないと感じています。海外進出の大きな障害のひとつは言葉の壁です。 私が初めて鳥取県の因州和紙を手がける長谷川憲人氏を訪ね、外国からの注文を受け入れることを検討してくれないかと尋ねたところ、長谷川氏は英語ができないので注文は受けられないと答えました。また、美濃の紙漉き職人である高橋まゆみ氏も同様の懸念を抱いています。彼女は、コミュニケーションのミスを恐れていること、そして海外への商品発送に伴うリスクを理由に挙げています。そのため、多くの職人たちは、コミュニケーション、注文、出荷を代行してくれる仲介業者を頼りにしています。残念ながら、私を含めたそのような仲介業者は現在非常に少ないのです。和紙の文化を維持し、海外の人々に和紙を届けるためには、日本の生産者と海外の潜在的な市場とのギャップを埋める仲介業者の数を増やす必要があります。

柔軟な取り組み

職人、組合、地方自治体は、紙の販売を促進し、職人の魅力を高めるために戦略を実施してきました。
私は、自分たちの仕事の価値に妥協しない、新しい世代の手漉き和紙職人たちに気づきました。彼らは、手間のかかる手作業で少量ずつ、丁寧な職人技で高品質の紙を生産することを優先しています。これは、以前の世代の人々とは対照的です。彼らにとって和紙作りは日常的な作業であり、注文がなくても紙を漉いていました。こうしたアプローチの変化は価格にも反映され、現在では一般的な楮紙は少なくとも1枚あたり平均800円です。

高橋まゆみ氏/紙漉き 高橋(岐阜県美濃市)
高橋まゆみ氏/紙漉き 高橋(岐阜県美濃市)

手作業の価値を再評価するとともに、小規模な工房はその柔軟性により、職人たちは知識を収益化する他の方法を見つけることができるでしょう。大量生産に重点を置く機械化された製紙工場とは異なり、手作業の工房は、特定の顧客の要望に応えるために生産を調整することが可能です。西ノ内和紙の職人である菊池大輔氏は、朝日新聞の記事で、紙作りは伝統を考慮するだけでなく、「顧客の要望」も考慮することが必要だと説明しています。この柔軟な姿勢により、職人たちは新規顧客(時には高級ブランド)向けの特注和紙を製造することができるのです。機械化された工場もこの点を認識しており、大型サイズや特殊な形状の注文に応えるため、オーダーメイドの設備を構築しています。

そのため、職人たちはユニークな和紙を生産するために、コラボレーションやオリジナル作品の制作を試みるべきでしょう。こうした金銭的な利益を超えた取り組みは職人たちに挑戦の機会を与え、技術を向上させ、現在のトレンドに沿った斬新な製品を生み出すことにつながります。この好例が、越前市の五十嵐製紙が原料不足への取り組みとして開発した「フードペーパー」です。

さらに、和紙職人たちは、知識を共有することで技術を広める新しい方法を見出しています。アーティスト・イン・レジデンスや短期コースを提供する人もいます。たとえば、植浩三氏は地元のゲストハウスと提携し、参加者が紙漉きの全工程を学ぶ4日間のワークショップを提供しています。和紙作りの技術を習得するには十分な時間ではありませんが、職人の生活に実際に触れることができます。

適応することより先手を打つこと

手漉き和紙産業が過去数十年間停滞している理由を理解するには、まだ多くの課題に触れる必要があります。これらのハードルは、他の工芸品が直面しているものと同様です。それでも、和紙職人たちは常に自分たちを刷新し、前に進んでいくための方法を見つけ出しています。しかし、和紙業界を「再活性化」するためには、まずは先手を打つことが必要であるにもかかわらず、私が見た限りでは、世の中に適応することが優先されているように見受けられました。職人たちが事業を拡大できないのは、時間がないことが原因であることが多いのです。インターネットやソーシャルメディアは、彼らのコミュニケーションを改善するのに役立っています。AIのような新しいツールが、和紙文化と世界とのギャップを埋めるのに役立つことを期待しましょう。また、皆さんが次の休暇には和紙工房を訪れ、その技術を支援することを願います!

植浩三氏/植和紙工房(奈良県吉野郡)
植浩三氏/植和紙工房(奈良県吉野郡)

ヘッダーキャプション:長谷川憲人氏/長谷川憲人製紙(鳥取県鳥取市)

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