



幼少期のマッキントッシュ建築に見た『陰翳礼讃』
私の日本の美意識への関心は、幼い頃に芽生えました。スコットランドのグラスゴーで、創造性あふれる家族に囲まれて育った私は、幸運にもグラスゴー美術学校のチャールズ・レニー・マッキントッシュによって建築された校舎で、何度かサマークラスを受ける機会に恵まれました。そこで私は、スコットランドのデザイン思考が日本文化から受けた影響により、どのように革新的な表現を生み出し、文化の架け橋となり得たのかを、日常的に目にしてきました。
マッキントッシュ建築の廊下を歩くたびに、光と影が織り成す豊かな表情を感じ取ることができました。木組みを思わせる構造は、日本の「木組(きぐみ)」にも通じ、私にとって初めて日本の職人技に触れた瞬間でもありました。その後、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』に出会い、彼の文章に深く共感することになります。
「上手に造られた日本家屋の床の間を見ると、つくづく影の妙味を悟り、光と影との扱い方に感じ入るのである。(…中略…)ただ一条の光が差し込んだだけで、何もない空間に微妙な陰翳が生まれる。それだけのことなのだが、棚の下や花瓶のまわりに沈む闇を眺めていると、たかが影と知りながら、その小さい暗がりの中に全くの静寂が宿り、何かしら安らかな気配が支配しているように思われる」
この床の間についての言葉は、幼い頃にあの建物の中で私が感じていた静けさと奥深さを、まさに言い当てているように思います。
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画像提供:グラスゴー美術大学
技術の日本、概念の西洋——2つのデザイン教育の違い
日本の職人技に本格的に触れた最初の経験は、東京・渋谷にあるヒコ・みづのジュエリーカレッジでの3ヶ月間の交換留学でした。そこで私は、ダマスカス鋼のワークショップを通して手打ち鍛造を学び、日本の職人の技を間近で見る機会に恵まれました。この留学期間中、卓越した技術と、完璧を追い求める姿勢に深く心を動かされました。
一方で、日本の高い技術力とは対照的に、グラスゴー美術学校やロイヤル・カレッジ・オブ・アートに代表されるような、「概念性」や「物語性」を重んじる西洋のデザイン教育が、日本では十分に育っていないことにも気づきました。
もし、この2つの学びや考え方を融合できれば、かつてマッキントッシュが日本とスコットランドのデザインを掛け合わせたように、まったく新しく革新的な表現が生まれるはず——そう強く感じたのです。
それから5年後。2018年にロンドンのジャパン・ハウスで開催された「燕三条 金属の進化と分化」展で、再び金属加工技術と出会うことになります。技術革新と精緻な職人技を誇る工場が、1つの町に集まっていることに驚き、ここなら自分の概念的なデザイン思考と日本の技術革新を結びつけられると感じました。

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燕三条で生まれた「Oku」の誕生秘話
そして2020年、大和奨学金の支援を受け、私は新潟の燕三条へ移住し、職人たちとともに制作を始めました。暮らしてみても確かに、小さな工場がそれぞれ専門分野を持ちながら、互いに支え合い、知識を共有する——そんな独自の協働の仕組みがここには根づいていました。
この環境で、私は「Oku(オク)」という、箸や箸置きにインスピレーションを得た“折り返しのハンドルを持つナイフ”を職人の方々とともに開発しました。東洋と西洋をつなぐことを目指したこのデザインは、皿やボードの端にそっと掛けたり巻きつけたりすることで刃がテーブルに触れないようにでき、使う人にとって新たなかたちでの愛着を感じさせてくれます。
「Oku」は、日本の金属工芸の400年以上にわたる伝統技術を生かした、熟練の職人との綿密な協働によって生まれました。また日本の家具メーカーであるカリモク家具と協力し、国産材を使った特別な木製ボードをセットにしています。一つひとつ異なる木目を大切にしたボードは、どれも唯一無二の表情を持っています。
そして、2022年にはDezeen AwardのHomeware Design of the Yearを受賞し、ミシュラン星付きレストランでも使用されています。しかし、今私がもっとも心を躍らせているのは、このプロジェクトを中心に広がりつつあるコミュニティの存在です。食、映画、詩など多様な領域がつながり、東西の文化や、実践と思想の間を架橋しています。

“対話”としてのデザイン
「Oku」と並行して、私は「TANA」という新しいプロジェクトにも取り組んでいます。
TANAは、プロダクトの創作、展覧会のキュレーション、イベント、アイディア交換を通じてイギリスと日本の文化をつなぐことを目的としたプラットフォームです。その使命は、伝統的なものづくりの価値を高め、広めていくことにあります。また私の活動の別の領域では、東京のガラス作家とともに、富山の遠心鋳造技術を探求する鋳造プロジェクトを継続しています。私たちは、金属とガラスの間に採取した花や蝶を閉じ込めた器を制作しています。
燕三条の職人たちとのプロジェクトを通して、私はこれからも「Oku」を国際的に発信・販売し、地域の技術革新を西洋の顧客に紹介するとともに、伝統工芸や地元の素材を称える活動を続けていきたいと考えています。


Banner Image by Riyo Nemeth (ネメス リヨ)| Direction Paz Castro (パズ カストロ)
Profile Images & Oku by Kakeru Ooka (大岡 翔)





