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消滅への抵抗──織りと染めが出会うとき(ハンナ・ウォルドロン)
2026.02.26
消滅への抵抗──織りと染めが出会うとき(ハンナ・ウォルドロン)

ハンナ・ウォルドロン

アーティスト。植物由来素材の織物を軸にインスタレーション作品を制作し、タペストリー表現の探求や教育活動を行っている。

手仕事による織物には、素材と想像力が交わる独自の魅力がある。ハンナ・ウォルドロンは、日本の絣織や筒描きに見られる染めと防染の工程に触れ、その複雑さと献身性を体験した。これらの工芸は、自然素材と人の手による長い工程を通じて成立している。
消滅への抵抗──織りと染めが出会うとき(ハンナ・ウォルドロン)

素材と想像力が出会う場所

手仕事による織物には、それに関わるアーティストを魅了してやまない不思議な力があります。

少なくとも、過去15年間にわたり織りと染めに携わってきたアーティストとしての私の経験は、そうしたものでした。手仕事で織物を扱うこと、つまり生の植物や動物の繊維を織物・アートの領域で見られるレベルにまで引き上げるには、忍耐と時間、そして献身的な労働を要する無数の工程が必要です。こうしたプロセスがもっとも情熱的に表れているのが、日本の織物文化である「絣(かすり)」の織りと「筒描き(つつがき)」に見られる「染め」と「防染(ぼうせん)」の工程です。私は幸運にも、日本を訪れた際にこれらの工芸の巨匠たちと共に活動し、その技を直接体験することができました。

絣織りと筒描きの骨の折れるほど長い工程は、時に計り知れないほどの献身と情熱を要求します。それは素材と想像力の出会う場であり、自然の中に、そして私たちの奥深くに潜む錬金術的かつ数学的な工程との深い関わりを通じて、一種の魔法のように感じられるのです。

染めた経糸と染めた緯糸が交わり、精密な模様を形成する絣織りの工程<br>写真提供:Hannah Waldron
染めた経糸と染めた緯糸が交わり、精密な模様を形成する絣織りの工程
写真提供:Hannah Waldron

ベルリンで見つけた「織物の極地」

私が芸術表現としての織物に初めて出会ったのは15年前、ベルリンに住んでいた頃のことです。そこでアンニ・アルバースやグンタ・シュテルツルといったアーティストの手による、バウハウスのタペストリーを目にしました。

「形態」「技術」「素材」がひとつに溶け合うその複雑さと美しさに触れた瞬間、私の中に、自分もこれらを用いて表現したいという強烈な衝動が芽生えました。それはまさに「何かにとり憑かれた」としか言いようのないほどの情熱でした。

その経験が私を探求の旅へと連れ出し、人生にはよくある不思議な巡り合わせによって、翌年、私は日本を訪れることになりました。そこで、素材を介して工芸と芸術が交わるその核心に触れたとき、織物という表現が到達しうる究極の姿を目の当たりにしたのです。

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数学的な計算が描き出す小宇宙:絣

私は昔から、文様(パターン)を追い求めてきました。特に、形のない無定形なものの中に文様を見出すことに強く惹かれます。絣の織りは、まさにこの原理を驚くべき次元へと高めた技法です。

絣は、防染を用いた染織技法です。数学的な精密な計算に基づいて、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)をあらかじめ計画的に染め分け、模様や絵柄を描き出します。具体的には、染色の前に糸の一部を別の糸で固く縛り、染料が染み込まないように保護します。そうして準備された糸を織り合わせることで、染まっていない部分が重なり合い、文様が形作られるのです。

このイカット(絣)の技法は、13世紀にインドから日本へ伝わったと考えられています。以来、日本人の想像力を刺激しながら数世紀にわたって花開き、「絣」として独自の進化を遂げました。そして、世界のどこにも類を見ないほど複雑な文様や、絵画のような豊かな表現力を持つまでに至ったのです。

2019年、私はQESTフェローシップを授与され、京都の川島テキスタイルスクールで2週間の絣織り集中コースを受講しました。絣の師である表江麻さんによるこの素晴らしいコースは、比較的短い期間の中で与えられた知識の量において、厳しくも非常にやりがいのあるものでした。それと並行して、コースの資料や世界中から集まった他の学生たちとの対話を通じて、日本および世界各地のイカットの歴史に深く浸ることができました。織物制作の豊かな歴史を持つ京都という文脈の中で、この織りのプロセスに直接深く関わる機会を得たことは、私の織りベースの芸術活動における可能性を広げてくれる大きな贈り物となりました。

絣織物の歴史的実例<br>写真提供:Hannah Waldron
絣織物の歴史的実例
写真提供:Hannah Waldron

筒描きに触れて

長年、日本のテキスタイルへの関心を深めていくなかで、現代的な風呂敷のデザインを世界へ発信している独自のブランド「Link Collective」とのコラボレーションが始まりました。私は数年前から、この風呂敷のためのアートワークを制作しています。

風呂敷とは、歴史的には湯屋(銭湯)へ行く際の着替えを包むために、現代では贈り物を包むために使われる、多機能な正方形の布という日本伝統の形式です。私の手がけるデザインは、自分にとって個人的に意味のある場所を描き出した「主観的な地図」のようなものです。持ち運びができる布という風呂敷が持つ実用的な「携帯性」と、どこへでも移動できる「ノマド(放浪)的な性質」を、ひとつの表現として追求しています。

2019年、私はLink Collectiveから、日本の伝統的な染色技法である「筒描き」のためのデザインを依頼されました。筒描きとは、文字通り「筒で(模様を)描く」ことを意味します。米糊を防染剤として使い、天然の藍染めと組み合わせることで、ひとつのテキスタイル作品を創り上げる技法です。

歴史的には、婚礼の贈り物としての夜着(よぎ)や壁掛け、あるいは空間へと誘う「のれん」などの形で親しまれてきました。私は、喜んでこの依頼を引き受けました。幸運なことに、Link Collectiveの京子・ボウスキルさんと共に出雲にある長田染工場の工房を訪ねることができたのです。

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出雲に息づく伝統の灯火:長田染工場で見た「日本のものづくり」

長田染工場は出雲の郊外、高瀬川沿いに佇む、この地域で唯一現存する筒描きの工房です。5月のある朝、工房を訪れると、長田重信さんと息子の雅夫さん、そして人懐っこい愛犬のベックが温かく迎えてくれ、居心地のよい一角へと案内してくれました。そこには壁掛けや風呂敷、幟(のぼり)、テーブルクロスなど、彼らの手仕事が至るところに飾られていました。日本茶をいただきながらの1時間、京子さんと親子2人の職人は、技法の細部や日本の染織工芸の現状、道具、顧客、そして出雲の豊かな文化について言葉を交わしました。

5代目となる彼らが見せてくれたのは、明治時代の先祖による作品です。緻密な装飾が施された産着(うぶぎ)、夕日の雲の下を舞う鶴と亀の縁起絵、そして4枚の布を継ぎ合わせた家紋入りの夜着。数世紀の時を経てもなお、その藍の色は鮮烈な輝きを放っていました。

その後、一連の実演を通して工程を案内していただきました。ふと見上げると、そこには宙に吊された私のアートワークがありました。重信さんは筒状の道具に糊を詰め、鉛筆であらかじめ下書きされていた私のデザインをなぞるように「描き」始めました。数分おきに筒を吸って気泡を抜くその仕草。朝の光が差し込む中、畳の上に静かに座り、一筆一筆丁寧に防染糊を布に載せていく姿。ひとつの箇所を描き終えるたびに、彼は米ぬかを振りかけ、作品全体に広げていきました。こうすることで、糊を布にしっかりと定着させるのだそうです。

続いて案内されたのは染色室です。木製の甕とその周囲には、長い染色の歴史が刻まれた独特の風合いが染み付いています。ここは息子の雅夫さんの領域です。準備の整った布地を、彼が慎重に甕のひとつへと沈めていく様子を、私たちは静かに見守りました。

数分後、長年の修練に裏打ちされた熟練の動きで、彼は布をそっと引き上げました。甕の中の液体が滴りによって余計な酸素に触れ、状態が変わってしまわないよう、細心の注意を払った見事な身のこなしです。酸素に触れた布がみるみるうちに酸化し、ターコイズグリーンから深いスカイブルーへと美しく変化する様子に、私たちは思わず感嘆の声を漏らしました。

私のデザインが筒描きの全工程を経ていくのを見て印象的だったのは、これらの工程がいかに穏やかであるかということでした。米糊、米ぬか、金属の先端がついた紙筒、発酵した天然藍以外何も加えられていない藍の甕。大きな布の塊は、工房のそばにある運河へと運ばれ、川の流れが天然の藍を洗い流します。少なくとも10回の浸染が必要で、その都度、数時間の乾燥を挟み、丁寧に洗い、乾かし、アイロンをかけ、その場で縫製が施されます。

温かい別れの挨拶の後、新幹線で京都へと戻りました。数世紀にわたって発展し維持されてきた工程のために、これほどまでに献身的な職人たちと出会い、共作できたことへの深い感謝の念を抱きながら、私たちはその地を後にしました。

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地面に埋め込まれた6つの藍の甕(かめ)が並ぶ染色室
地面に埋め込まれた6つの藍の甕(かめ)が並ぶ染色室

世界と私たちを編み直す、織物の力

ものづくりの工程から私たちがますます遠ざけられ、自らの手で素材と向き合う関係の中に宿る人間性が失われつつある現代。こうした世界において、染めや防染といった織物の技法が存在し続けていること。それ自体が、まさに「消滅への抵抗(Resisting Erasure)」そのものなのです。

これらの工芸は、効率を優先する現代の仕組みから「人間らしさ」を守り、素材の世界(そこには私たち自身も含まれます)の奥底に息づく「生きた世界」とのつながりの中に、私たちを再び編み込んでくれます。そしてそれは、この世界に対するより深い畏敬と、この世界が秘めるさらなる神秘へと導いてくれるのです。

だからこそ、私は織物の世界へと立ち戻り続けるのです。

長田染色工場を訪問し、当社ののれんコラボレーションの「筒描き」工程を見学 <br>写真提供:マーティン・ホルトカンプ&LINK
長田染色工場を訪問し、当社ののれんコラボレーションの「筒描き」工程を見学
写真提供:マーティン・ホルトカンプ&LINK

筒描き写真提供:Link Collective & Martin Holtkamp

絣写真提供:Hannah Waldron

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