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三味線に穴を開けた日から。上妻宏光が世界と共演するための相棒の形【後編】
2026.07.03
三味線に穴を開けた日から。上妻宏光が世界と共演するための相棒の形【後編】

上妻 宏光

幼少期から数々の津軽三味線大会で優勝し、純邦楽界で高い評価を得てきた三味線奏者。国内外アーティストとの共演や世界35ヵ国以上での公演を重ね、伝統を基盤にしながら異ジャンルとの融合や舞台・映像作品への楽曲提供を通じて、津軽三味線の“伝統と革新”を追求している。

三味線奏者の上妻宏光は、ロックバンドとの共演や海外公演を通じて、三味線の構造や素材、演奏方法を独自に再設計している。伝統を守るだけでなく、現代の環境で音を成立させるために更新を続ける姿勢が描かれている。
三味線に穴を開けた日から。上妻宏光が世界と共演するための相棒の形【後編】

前編では、撥という道具を入り口に、上妻宏光が音を「設計」してきた思考の一端をたどった。後編では、その設計思想が三味線そのものへと広がっていく。

マイクを仕込み、穴を開け、立って弾く。古典的にはタブーとされてきた行為の先に上妻が見てきたのは、三味線が世界と共演するための、現実的な相棒の姿だった。

マイクを仕込む、という選択

三味線は、本来マイクを内蔵した楽器ではない。だが、ロックバンドや電気楽器と共演するなかで、上妻は一つの課題に直面した。

「音量は出るんですけど、三味線の周辺の空気感を拾えなかったんですよね」

最初に試したのは、胴の中にマイクを仕込む方法だった。音を増幅すること自体はできる。けれど、撥が革に当たる瞬間のニュアンスや、三味線特有の空気の揺れが、どうしても伝わらない。

「だったら、欲しい音が拾える場所に、マイクを置けばいい」

上妻は、三味線に穴を開けることを選んだ。

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タブーよりも、「この音が欲しい」

三味線に穴を開ける。それは、古典的な価値観からすれば、間違いなくタブーに近い行為だ。だが、上妻に迷いはなかった。

「この音が欲しい、ただそれだけだったんです」

マイクを2つにし、チャンネルを分けてミックスする。会場や日によって、バランスを細かく調整する。その作業は、伝統を壊すためではなく、三味線の音を、現代の環境で成立させるための手段だった。

立って弾くための再設計

上妻の三味線演奏は、立奏が一つの特徴でもある。だが、三味線は、本来立って弾くために作られた楽器ではない。ストラップを付ける位置一つで、バランスは大きく変わる。位置を間違えれば、演奏そのものが不安定になる。

「ギターやベースと同じ感覚で、三味線も立って弾けたら、と思ったんですよね」

ストラップの位置を見直し、重心を調整する。その結果、立って弾くことを前提としたフレーズが、自然と生まれていった。姿勢が変われば、奏でる音楽も変わる。

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海外に出るための素材選択

海外公演を重ねる中で、もう一つの現実にも直面した。三味線に使われてきた素材は、海外では説明が難しいものが多い。動物皮やべっ甲。ワシントン条約に関わる素材もある。

「日本の伝統文化を伝えたいのに、素材の説明だけで止まってしまうことがある」

上妻は、人工素材への切り替えも積極的に進めてきた。音だけをとれば、自然素材のすごさを感じる場面も多い。それでも、世界と共演するためには選択を迫られる。

「伝えるために、変えなきゃいけないこともある」

その判断もまた、相棒と向き合う一つの形だった。

新品は、少しよそよそしい

上妻は、新しい楽器について、こう語る。

「新品って、ちょっとよそよそしいんですよね(笑)」

時間を共にすることで、距離は少しずつ縮まっていく。体の一部のように感じられる瞬間が、やがて訪れる。

「使っていくなかで、会話できるようになるというか」

だからこそ、無駄に皮を張り替えることはしない。撥も、三味線も、大切に使い続ける。自然素材の偉大さを感じながら、人の手が加わった楽器と、現実の世界で折り合いをつけていく。

相棒とは、更新され続ける存在

上妻宏光にとって相棒とは、その形を守るべき存在ではない。音を成立させ続けるために、必要に応じて更新される存在だ。

撥を替え、角度を変え、三味線に穴を開ける。その一つひとつは、革新のためではなく、共演し、共存するための選択だった。

「三味線って、こんなこともできるんだな、って思ってもらえたらうれしいですね」

上妻の相棒は、世界と出会うたびに、少しずつ形を変えながら、今も鳴り続けている。

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取材中の上妻さんは、終始笑顔だった。

撥や三味線の話も、「じゃあ、こうしてみたらどうなるかな」と、新しい可能性を試すこと自体を楽しんでいるように感じられた。

「出したい音があるから、手で弾いてみる」「ギターみたいに、肩に担いで弾いてみる」。

前例やタブーがあるかどうかより、理想の音に近づくことを優先する姿勢が、どこかロックだなと感じられた。

取材の終わりに、「ラーメンみたいに、三味線が当たり前になってほしい」と笑って話してくれた。これから三味線を知る世代にとって、その入り口はすでにここにあるのだと思う。上妻宏光は、三味線を特別なものとして守るのではなく、これからの当たり前を作ろうとしている人なのだと感じた。

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#上妻宏光#津軽三味線##道具#相棒#あの人の愛用品
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