



山梨県には、伝統技法を受け継いできた打ち上げ花火「甲州花火」がある。
甲府城の狼煙番をルーツに持ち、150年以上も花火を作り続ける株式会社山内煙火店。「大曲全国花火競技大会」内閣総理大臣賞受賞など、全国にその名を轟かせ続ける老舗の花火メーカーだ。
日本の夏を彩る風物詩の裏側には、丹精込めた日々の職人仕事がある。5代目の若き花火師山内祐一さんに、受け継がれてきた花火職人の技術と想いを聞く。

甲府城の狼煙番にルーツを持つ甲州花火
葡萄や桃など、山梨が誇る果樹園帯を抜けるフルーツライン。その近くにある山梨百名山のひとつ、兜山の山中に、甲州花火を作り続ける山内煙火店・春日居工場がある。山道を登り工場にたどり着くと、5代目山内祐一さんが甲州花火にまつわる古い資料を用意してくれていた。
「甲州花火が山梨県郷土伝統工芸品に認定されたのは、2023年。認定のために、僕も県内各地の花火業者に関する古い資料を調べたり、多くの方にお話を聞いたりしたんですよ」
山内煙火店の創業は、明治元年。山梨県内で、今のような打ち上げ花火の一番古い記録として残るのは、明治6年に行われた花火大会なのだという。
「山梨日日新聞の前身である新聞社が、付録として配布した花火大会のプログラムが残っているんです。昔は地元の名士が玉を買い、その人の名で花火を打ち上げていたようです。プログラムには初代が書いたであろう、自分の玉の評価が記されています」
甲州花火のルーツには、この地を治めた武田信玄公が大きく関係している。山内煙火店の祖先は、もともとは甲府城で狼煙や火薬を扱う狼煙番の役割を担っていたのだという。
「火薬や狼煙を扱う仕事だった旭流火術の入門証も残っています。戦時中に売られてしまったのですが、お役目を果たすための番傘と入城手形もあったようで。火薬を扱う火術師から初代宗次郎が現在の山内煙火店を始めました」
明治には火薬を扱う国の法律ができた。それに伴い山内煙火店が山梨県ではじめて花火の製造許可を取得した記録も残る。山内さんは、古くからの伝統技術をいまに受け継ぐ花火職人なのだ。
「やまなし伝統花火組合には、3社が加盟しています。そのなかで、迫力のある2尺玉を作り続けてきたのは山内煙火店だけ。2尺玉は技術がないと高確率で過早発や低空開発など、失敗がつきもののシビアな玉なんです」


明治から続く家業を、自然と受け継いだ
花火職人を家業とする家に生まれた山内さん。大学時代には、夏休みや冬休みなどを利用して、少しずつ花火づくりを手伝ってきたのだという。
「家業を継ぐことを決めたのはいつですか?」と問うと、少し考え込んだのちに「自然とそうなっていましたね」と山内さん。
「ひとつは、周りに天才が多すぎたこともあるかもしれません。中学高校と頭のいい同級生ばかりで、彼らとまともに戦っても勝ち目はないぞと思っていました。
一方で、幼いころから見てきた花火であれば、自分の考えややりたいことをひとつの作品に詰め込めるし、頂点を目指せるという気持ちがあったんです。何事もやるからには一番になりたいと思っていますので」
大学で学んだのは、応用化学。それは花火会社を経営していく管理者として必要な資格を得るときに、様々な科目免除があることが理由だった。
「化学を学んだことにより、原料の物性等の配合において重要になってくることがわかる。たとえば、火付きが悪くても、闇雲に火薬の配合をいじるのではなく原理を理解してアプローチできる。それはプラスだったなと思いますね」
山内さんが学生のころは、先代の浩行さんが目覚ましい活躍をしていた。2012年、全国の花火師が技を競い合う「大曲全国花火競技大会」で内閣総理大臣賞を受賞。2017年には、世界各国から37地域の煙火関係者が集結する「国際花火シンポジウム」で花火を打ち上げたのだ。
「うちの花火を打ち上げた次の日に、以前知り合ったドイツの打ち上げに用いる点火機の業者から『あんな花火は見たことがない、すごかった!』と言われて。それはやっぱり誇りになり、この道を志すきっかけになりますよね」

美しい円を描き出すことが、一番難しい
ここからは受け継がれてきた伝統の花火づくりを見ていこう。山内煙火店の山の斜面を利用した工場では、その一番上にあるところから作業が始まり、作業が進むにつれて下りてくるよう効率的に設計されている。山梨は平地に工場を作るのが難しく、山の中に作るパターンが多いという。
始めに、配合工室で酸化剤と可燃剤を混ぜ合わせ色の元となる火薬を作る。直径3mmの芯に、水で火薬を溶いた「トロ」と粉の火薬を交互に掛け、少しずつ大きくしていく作業が「星掛け」。大きなたらいを回して攪拌する「ガランガラン」という音が、気持ちよく響く。
「トロが多すぎても少なすぎてもうまくいきません。気温によっても変化するので、トロの濃さや量の感覚を掴むことが大事です。たらいを回す音で、今の星の状態がわかるようになるんです。粉が少ないなと感じたら、そこに粉を振りかけ、またタライを回します」
星掛けと天日干しを繰り返し大きくなった星は、手作業で玉込めされていく。
「星の隙間が空いてしまうと、打ち上げたときにそこだけ色が抜けてしまう。火薬の間に挟む和紙も、シワが均一になるよう美しく折る。花火の仕事において、何事も均一にすることが大切なんですよね」
「地味な作業が多いんですよ」と、山内さん。ひとつひとつ丁寧に丹念に作業をしても、必ず美しく打ち上がるとは限らないのだという。
「同じ星や割薬を用いて、花火を2つ作っても、打ち上げて同じように上がることはない。最終的には打ってみないとわからない部分もあるんです。花火において、美しい円を描き出すのが、一番難しいんです」

安全に効率よく、花火を打ち上げるために
花火職人は作るだけで終わりではない。その花火を夜空に打ち上げるまでが仕事なのだ。せわしない日々のなかで、それでも事故なく安全第一で美しい花火を打ち上げる。そのためには、段取りがなによりも大切なのだという。
「準備の際、ほんのささいな気遣いで全ての玉が出残ることなく打ち上げられるかが決まってくる。終わったときに、道具の片付けを綺麗にしておけば、次の場所に行くときにロスなく向かえる。効率よく次のことを考えて仕事をすることが、本当に大切なんです」
さらに打ち上げの現場では、予想外のことが起きたときの対応も必要とされる。滅多にあることではないが、電気制御で打ち上げてもうまくいかないときは、防護板を持って自ら直接点火をしなければならない。
「花火は打ち上がらないのが一番まずいので、なんとしても打ち上げなければいけない。安全に打ち上げるために、総合的な経験や技術が必要とされるんです。『打ち上げられませんでした』では、花火屋はダメなので」
経験を長く積んできても、「万全だっただろうか」と打ち上げの瞬間はいつも落ち着かない。それでも無事に上がった時のお客さんの反応が、花火職人をねぎらってくれるのだという。
「花火を打ち上げた後に、お客さんの歓声がこちらまで聞こえてくるんです。自分の作ったものにダイレクトに反応が返ってくる。そういう仕事はなかなかないんじゃないかなと思いますね」

一生かけても、満足できる玉は作れないかもしれない
全国の花火コンクールで受賞するなど、山内煙火店の名前は全国各地に轟いている。「大曲の花火 春の章~新作花火コレクション2026〜」では「百鬼夜行~未知との遭遇~」と名付けた玉を打ち上げ、新作花火の部で優勝を果たした。
「Netflixの『ストレンジャー・シングス 未知の世界』というドラマを見て、その怪しさを花火で表現できないかと思いついたんです。あのドラマの中の得体の知れない不気味なものが迫ってくる感じの恐ろしさを、花火にしたかったんですね」
自分の考えていることを何十万人もの人の前で表現することができるのは、花火職人の面白さだという山内さん。技術を重ね続ける職人に、「今後の目標は?」と問うてみた。
「自分が満足できる玉を作ることですね。まだまだ8割くらいです。もっと秒数をかけてから次の色に展開したかったとか、粗探しをするときりがない。一生かかったとしても、満足できる玉が2~3発あればいいんじゃないかと思うくらいです」
原料等が受注停止で手に入らない状況や、玉込めの際に必要な昔ながらの手漉きの和紙が足りないなど、技術的なところ以外にもさまざまな課題がある。山内煙火店は若い職人が入社したが、後継者がいなくて事業を畳んでしまう同業者も多いという。
「課題はありますが、まず作り手を増やすことが必要ですよね。そのためにどうやって自分の仕事を伝えられるかと模索し続ける日々です。あとは自分たちの手で作ること。とにかく、地道に技術を高めていくことが大切だと思うんです」
夏の夜空を彩る打ち上げ花火。その一瞬一瞬には、伝統を受け継ぎ丹精込めた技術が込められている。そんなことも思いながら、今年の花火を楽しみたい。職人たちに聞こえるように、大きな歓声をあげて。
第62回 石和温泉花火大会 8月22日土曜日(予備日23日) 19時30分~21時
場所:笛吹市役所前笛吹川河川敷(鵜飼橋上流及び下流)
Text by 荒田詩乃








