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群馬県富岡市で、古民家の2階とビニールハウスを活用し、高品質な繭を生産する若き養蚕農家がいる。大学で農業経済を専攻し、国家公務員として農業を側面から支援する道を描いていた彼が、なぜ自ら現場に立ち、衰退しつつある養蚕のプレイヤーとなる決断を下したのか。
養蚕体験・研修所 大丸屋の浅井広大さんに、五感を用いた蚕の飼育技術や、次世代へ繋ぐ持続可能な農業経営の仕組みづくりについて聞く。
支援者からプレイヤーへ、現場の身体性に魅せられて
浅井さんは大学時代、農業経済を専攻し、県や国の機関で農業を側面から支援する公務員を目指していた。しかし、海外の農家を視察するなかで、テキストには表れない現場の知恵や身体性に惹かれていく。
「海外の農家さんと関わっていくうちに、この花が咲いたらこれを植えるんだとか、ここの土地はこういう動きをするといった、現場で得られる知識や知恵を吸収したいと思い、青年海外協力隊に応募しました」
ネパールでのキノコ栽培普及の活動を経て帰国した浅井さんは、富岡市で養蚕農家の金井さんと出会う。その無駄のない動きと、五感を使って蚕を飼育する姿に強い憧れを抱き、自らもプレイヤーとして養蚕の道へ進むことを決意した。
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五感で読み解く蚕の成長と、自然環境との対話
養蚕の作業は、蚕に与える桑の収穫が大部分を占める。同時に、蚕の成長段階に合わせた緻密な環境管理が求められる。浅井さんは、古民家の2階とビニールハウスを使い分け、温度や湿度を調整しながら蚕を育てている。
「蚕は温度によって成長スピードが変わり、温度が高ければ早く糸を吐き始めてしまいます。成長のスピードが違う蚕の足並みを揃える作業が必要で、その時に五感を使って見極めることが大事なんです」
蚕が糸を吐き始める前には、蚕室にアンモニア臭が漂い、蚕の体の色も白から黄色っぽく変化するという。浅井さんは、日々の些細な変化を記録しつつも、最終的な判断は自身の目と感覚に頼っている。データ化が進む現代においても、生き物を相手にする養蚕では、現場での観察眼が不可欠なのだ。

品質を追求するブランド化と、ネギ栽培による循環型農業
現在、市内では、富岡シルク推進機構が繭を全量買い取り、製品化や販売を行っている。製糸を手がける安中市の碓氷製糸では、品質の良い繭に対して加算金を支払う仕組みを導入し、質を重視した経営を支援している。特に、オスだけの品種で細い糸が取れる「プラチナボーイ」は、銀座の呉服店などから高い評価を受けている。
「しっかり生活できる水準の価格にしていこうという動きがあります。でも、それにはやっぱりそれなりの品質のものを作らないといけない。これまでは量をたくさん作ったほうが勝ちという感覚でしたが、今は質を求めて量はそこそこ取れれば、十分に良い実入りになる仕組みができてきたんです」
品質を重視する姿勢は、他の農作物との組み合わせにも生かされている。浅井さんは、大量に排出される蚕のフンを堆肥として活用し、冬場には下仁田ネギを栽培している。夏場の養蚕と冬場のネギ栽培を組み合わせることで、年間を通じて安定した収益基盤を構築している。
富岡の養蚕農家の平均年齢は75歳を超え、かつて使われていた道具の製造も終了しているなど、産業を取り巻く環境は厳しい。しかし、浅井さんは地域の農家と情報交換を行いながら、新規参入者が定着できる仕組みづくりを模索している。
初期投資や場所の確保といったハードルはあるものの、行政の支援や空き家の活用などを通じて、養蚕を農業経営の選択肢の一つとして確立しようとしている。先人たちの技術と知恵を受け継ぎながら、現代の経営感覚を取り入れた浅井さんの挑戦は、日本の養蚕業に新たな可能性を示している。








