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編集者の視点で、伝統を未来へ。高岡銅器・能作5代目がひらく鋳物の可能性
2026.09.01
編集者の視点で、伝統を未来へ。高岡銅器・能作5代目がひらく鋳物の可能性

富山県高岡市

株式会社能作
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能作 千春

株式会社能作代表取締役社長。通販雑誌の編集者として働いたのち、2011年に家業である能作へ入社。生産管理や産業観光事業、錫婚式などの新規事業を手がけ、2023年に5代目社長へ就任。

高岡銅器

富山県高岡市で約400年以上受け継がれる伝統工芸で、江戸時代に加賀藩主・前田利長が鋳物師を招いたことに始まる。鋳造技術を生かし、仏具や茶道具、花器などを製作して発展してきた。

能作千春は、編集者として培った視点を生かし、株式会社能作で産業観光や新規事業を推進しながら高岡銅器の魅力を発信している。職人が働きやすい環境づくりと地域資源を編集する発想で、伝統産業を未来へつなぐ挑戦を続けている。
編集者の視点で、伝統を未来へ。高岡銅器・能作5代目がひらく鋳物の可能性

400年以上の歴史を持つ鋳物のまちである富山県高岡市に、年間13万もの人が訪れる鋳物工場がある。創業110年を超える高岡銅器の鋳物メーカー・能作だ。

多くの人が集まる産業観光事業を立ち上げ、5代目として家業を受け継いだ能作千春さんは、もともと編集者として働いていた経歴のある人物だ。人やもの、地域の魅力を見つけ、つなぎ、価値として届ける編集の視点が、経営の根幹に息づいている。

高岡の伝統産業を未来へつなぐために、挑戦を続ける能作の歩みを聞いた。

株式会社能作 本社工場
株式会社能作 本社工場

鋳物のまち高岡で、時代と共に変化し続ける

鋳物のまちとして知られる富山県・高岡市。400年以上の歴史を誇る高岡銅器は、江戸時代、2代目加賀藩主であった前田利長が産業を振興するために、鋳物で名高い大坂から7人の職人を呼び寄せたことがルーツにある。

「最初は農具や鍋など日用品の鉄器生産から始まり、時代と共に変化して、お寺の釣り鐘や銅像、小さいものでは茶道具・華道具・仏具など、日本伝統の道具の産地として発展していきました」

能作の創業は、1916年。分業体制で行われる鋳物づくりで、原型師が作った型を元に、金属を流し込み鋳造する生地屋(きじや)として代々続いてきた。

「父は新聞社のフォトグラファーとして働いたのちに、事業を継ぎました。デザインセンスがあり、下請けから一転して自社ブランド『能作』を2003年に立ち上げたのです」

仏具のおりんを製造していた技術を生かした真鍮のベルは、販売員のアドバイスで風鈴にして売り出したところ、毎月1,000個以上が売れる人気商品に。さらに生活に馴染む製品を作ろうと食器の素材として着目したのが、錫だった。

「錫は、やわらかくて人の手でも曲げられるため、他産地では他の金属を混ぜて錫合金の食器を作っています。同じものを作るのでは他産地に申し訳ないうえに、革新性もない。そこで父は、誰もやったことがない錫100%の食器に挑戦したんです」

こうして誕生した「KAGO」は、手で力を加えることで変形し、かご状にしてフルーツバスケットや菓子器などに利用できる。そのデザイン性が高く評価され、2017年にはニューヨーク近代美術館『MoMA Design Store』の販売品にも認定された。

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通販雑誌の編集者になり、家業の魅力に気づく

3姉妹の長女として生まれ、父によく懐き、土日には工場で職人さんたちに可愛がってもらったという千春さん。楽しそうに働く父の背中には憧れを抱きつつ、伝統産業に対しては古めかしい印象を持っており、どこか恥ずかしさがあったのだという。

「富山から神戸に出て、大学卒業後に通販雑誌の編集者になりました。洋服の良さを見せて、伝えて、売っていく。PRやマーケティング要素も学び、とにかく毎日仕事が刺激的で、楽しくてしかたなかったですね」

職場で家業の話をすることはなかったという千春さん。ある日会社の先輩が「神戸の雑貨店で見つけたんだけど、おしゃれだよね」と持ってきた製品が、驚くことに能作の錫のトレーだったのだ。

「びっくりしましたね。売り場を見に行ったら、都会の素敵な雑貨屋にうちの製品が並んでいて、『富山・高岡の能作』と紹介されていたんです」

アンテナの高い人が伝統工芸に関心を持ってくれることに驚いた。久しぶりに工場を見に行きたいと実家に連絡して、夏に行われるバーベキューに参加することになった。

「伝統工芸を未来に届けたいという熱い想いを持つ若い職人が増えていました。目を輝かせながら『次は何を作る?』と父と話していて、0から1を作ることはこんなにも楽しくてワクワクすることなんだと、大きな衝撃を受けました」

休暇を終えて神戸に戻ると、能作の錫製品の魅力をいろいろな人に伝えるようになった。能作のECサイトがまだない時代で、「どこで買えるの?」と聞かれれば、注文を取り次ぐ。家業のサポートができることがとにかくうれしかったという。

「半年ほど経ったときに、お世話になった編集長が『きっとあなたは富山に帰ったほうが幸せになると思うよ』と背中を押してくださったんです。編集の仕事も大好きだったけれど、能作で仕事がしたい。純粋にそう思えたので、父に電話して富山に戻ることを決めました」

「FACTORY TOUR」は「鋳造や仕上げの作業工程」をガイドが案内してくれる。参加費無料で、毎日工場見学が開催されている。
「FACTORY TOUR」は「鋳造や仕上げの作業工程」をガイドが案内してくれる。参加費無料で、毎日工場見学が開催されている。

生産管理を担当し、軌道に乗っていく

まずは鋳物を知ろうと、工場で鋳造や仕上げなど一通りの工程を学ぶことにした千春さん。3ヵ月ほど学ぶうちに、次にやるべきことを見つけたのだという。

「鍛錬された技術を伝承していくことは並大抵のことじゃない。私は器用なほうではないですし、父のようにデザインや物づくりが得意ではない。私ができることは他にもあると思ったんです」

納品書が散乱し、製品管理が追いついていないという課題に気づいた千春さん。棚で製品を保管し、エクセルで在庫数を管理するなど、生産管理などの事務作業の改善を担うようになった。

展示会に出展して販路を開拓し、少しずつ軌道に乗って取り扱い店舗も増え、生産量も上がって社員の数も増えていく。順調に歩みを進める最中、千春さんは自身の結婚・出産も重なり、方向性に葛藤することもあった。

「製薬会社で働いていた主人が、家業に入って職人として歩むことを決心してくれました。2人の子どもの子育てをするなかで、自分自身が家業に対し、次にどのような貢献ができるかわからなくなっていました」

そんな時、「工場のキャパが足りなくなってきているから、社屋を移転したい」と父から相談がある。それは編集者の経験が生かされるプロジェクトだった。

エントランスには、実際に使用されている約2,500種もの木型が収納を兼ねて展示されている。時折職人がそれらを取りに来る様子もうかがえる。
エントランスには、実際に使用されている約2,500種もの木型が収納を兼ねて展示されている。時折職人がそれらを取りに来る様子もうかがえる。

職人たちを明るく照らし、魅力を多くの人に伝える工場へ

工場の新社屋の建設には、先代である父の想いが込められている。それは、能作の職人たちの仕事の魅力を伝える産業観光に特化した工場を建てるということだった。

「父は、昔、工場見学に来たお子さん連れのお母さまの『よく見なさい、勉強しないと将来こんな仕事をする大人になるよ』という心ない言葉にショックを受けたことがあります。一方で、自分たちが地域の伝統産業の魅力を伝えきれていないことが課題にあるのではないか。そう考えた父は、長年産業観光事業の展開を目標にしてきました」

デザイナーと共に、新社屋建設プロジェクトが始まった。掲げたのは、職人が安心してコミュニケーションを取りながら仕事ができる環境を整えること、そして多くの方が訪れて、五感で高岡銅器の魅力を楽しむ“魅せる工場”をつくること。

「女性の職人でも安心して働けるよう更衣室は男女別に作り 、ランチルームは景色のいいところに設定しました。母が昔から言っていた『職人たちは私たちの宝だからね』という想いを受け継ぎ、彼らを明るく照らし地位を高める工場にしたいと思いました」

さらに、多くの方が能作や地元高岡の魅力に触れられるように、鋳物製作体験「NOUSAKU LAB」、観光案内「TOYAMA DOORS」、カフェ「IMONO KITCHEN」、ショップ「FACTORY SHOP」など、さまざまな機能を持つ複合型施設の立ち上げを考えた。

「IMONO KITCHENは、編集者としての経験が生かされた場だと思うんです。自分と同世代の方をターゲットにし、SNSを使いこなして、宣伝してくれる人が好きな料理はなんだろうと考えました」

2017年、新社屋が完成。メディアやSNSなどで大きな話題を呼び、初年度で10万人と多くの観光客が能作の本社に訪れるように。反響もあり、JR高岡駅・新高岡駅と工場をつなぐ「能作前」というバス停もできるほどにもなった。

IMONO KITCHENにて、14時から数量限定販売の「能サクッ!アップルパイ」。KAGOを象った網目状のサクサクパイ生地に、リンゴのコンポートが包まれている。
IMONO KITCHENにて、14時から数量限定販売の「能サクッ!アップルパイ」。KAGOを象った網目状のサクサクパイ生地に、リンゴのコンポートが包まれている。

編集視点で、高岡の職人を憧れの仕事に

産業観光が大きな話題を呼んだことで、地域のメーカーや旅館などからも相談されるようになり、ツアーや地産地消プロジェクトなど、異業種とのコラボレーションも増えた。さらに自社で扱う素材である錫に注目し、結婚10年の節目である「錫婚式」を祝うブライダル事業も立ち上げた。家族水入らずで挙げるセレモニー、錫の食器を使った食事、錫の記念品づくりで記念日を祝うサービスだ。

さまざまな取り組みを手がけるなかで、千春さんは事業を継承し、2023年に能作5代目社長に就任する。

「きっかけは、2019年に父が大病で入院して、代わりに私が1年間、会社を見ることになったことです。これまで能作は婿養子で継いで来たので、娘の私が社長になるとは考えもしなかったんです。ただこの緊急事態の中で、社長をやりたい、父のことを一番わかっているのは私だという自信が生まれました」

能作の挑戦は、とまることはない。2020年、台湾に現地法人を設立し、現在、台北でブランドコンセプトストアや直営店を運営している。海外進出は10年以上前から行っているが、今後はその勢いを加速させていく。2024年には世界初の錫のジュエリー専門ブランド「NS by NOUSAKU」を立ち上げた。錫と金を配合した独自素材を開発し、今までになかった質感のジュエリーをファッション業界に提案していく。

「どうしてここまでさまざまなことに挑戦できるのでしょう?」と問うと、「経営も編集と同じなんですよ」と千春さんは答える。

「点と点を結んで、つなぎ合わせて、見せることで価値を創造していく。でもその全ては伝統文化を守ることのためです。産地で廃業が相次いでいる危機の中で、新しいことにチャレンジしていかなければ、守ることはできないんです」

千春さんは、最後に高岡への想いを語ってくれた。グローバルに発展しても、富山・高岡の地を大切にしたい。子どもたちが地域の伝統工芸を誇りに思い、憧れの仕事と思ってもらえるように。受け継がれた想いは、鋳物の未来の可能性を、今大きくひらき始めている。

Text by 荒田詩乃

#職人#富山#高岡#鋳物#高岡銅器#技術#歴史#文化#伝統
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