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日本の絞り染め:工芸に息づく伝統、未来へ紡ぐ物語(リッディ・ジェイン)
2025.07.31
日本の絞り染め:工芸に息づく伝統、未来へ紡ぐ物語(リッディ・ジェイン)
日本の絞り染め:工芸に息づく伝統、未来へ紡ぐ物語(リッディ・ジェイン)

日本の絞りとの出会い

有松の駅を降りた瞬間から、それは始まります。絞り染めの模様が型押しされたガラスの手すり、絞った反物を模したコンクリート製の車止め、大きな絞り染めの魚が建物の正面を彩り、この町がまさに「絞り」とともに生きていることを実感するのです。

私はインド出身のテキスタイルデザイナーで、インドの伝統的な絞り染め技法「バンダニ」は私たちの暮らしの中に息づいています。私は第11回国際絞り会議(ISS)に参加するため、日本を訪れ、絞り染め、有松絞り、その他の技法(レジスト・ダイイング)を学びました。

他のどの国よりも現代性と技術を取り入れた国であるこの日本で、伝統がいかに生き続けているのかを知りたかったのです。そこで見つけたのは、故郷のインドと同様に、職人技とプロセスへの深い敬意であり、私のファッションデザインブランド「STUDIO MEDIUM」のビジョンを形作る哲学となりました。それは、精密さへのこだわり、意志をもって行動すること、そして素材に対する謙虚さです。

絞り染めの模様が型押しされたガラスの手すり
絞り染めの模様が型押しされたガラスの手すり

日本の工芸哲学から学んだこと

日本における工芸のすばらしさは、単に作品そのものにとどまらず、それを生み出す過程や取り巻く全てにおいて、真摯に向き合う姿にあります。道具を大切にし、プロセスを丁寧に守り、知識は世代を超えて受け継がれていきます。その背景には、みんなで守るという意識があります。これはインドにも似たような側面がありますが、この30年で状況は大きく変化しました。

滞在中に出会った職人たちは、何十年にもわたり絞りを手がけてきた方々でした。その一針一針、一折、一折が、彼らの身体に染み込んでいます。藍染の甕(かめ)はまるで生き物のように日々見守られ、手入れされていました。仕上げることに時間と労力をかける様子からは、プロセスそのものが、出来上がった製品と同じくらい大切にされていることがよくわかりました。

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山形でのサフラワー染め
山形でのサフラワー染め

スタジオ・ミディアムにおける染色の実践

スタジオ・ミディアムでは、バンダニや日本の絞り染め、有松絞りといった技法を現代のファッションやテキスタイルデザインの中で再解釈し、実践しています。私たちの目標は、単にこれらの伝統を模倣することではありません。その精神を現代の暮らしや服装に合わせて生かし続けることです。

日本の絞り染めは、緻密さや反復を重視して多層的な模様を作るのが多いのに対し、インドのバンダニは、職人の日常の風景や文脈を表現することに重きを置いています。こうしたアプローチの違いを横断的に取り入れることで、私たちは染めがいかに「緻密さ」と「直感」を共存させうるかを探っています。テキスタイルを第一に考え、まず生地の持つ可能性を最大限に引き出すことによって、最終的な形を導き出すようにしています。日本の絞り染めやバンダニの技術を使うことで、平面のテキスタイルが立体的な質感へと変わるプロセスは、本当に驚くべきものです。

テキスタイルは「手の記憶」と、それが変容するのにかかった時間を宿しています。それはモノの世界に命を吹き込む美しいプロセスなのです。

インディゴで自然染めされた、絞りシルクスカーフ "A kumo"
インディゴで自然染めされた、絞りシルクスカーフ "A kumo"

日本の伝統工芸が直面する課題

これほど深く文化的意義を持ちながらも、日本の伝統工芸は今日、いくつかの大きな課題に直面しています。

まずは「世代継承」の問題です。多くの絞り染め職人は高齢化の一途をたどっており、若い世代は、経済的な理由や都市部への移住で違う道を選ぶことが多くなっています。何年もの時間を必要とする徒弟制度は、すぐに結果を求められる現代社会では維持が難しくなっています。

次に、「大量生産の模倣品」による圧力です。これらは本物の工芸品の価値を希薄化させ、職人が生活できるだけの必要な適正価格の設定も難しくなっています。グローバル市場で求められる安価な商品への需要は、手仕事で生み出されるテキスタイルに込められた本物の価値が見過ごされてしまうのです。

さらに、「環境問題」も重要になっています。藍自体は天然染料ですが、水の使用や排水の管理は、伝統的な手法と環境への責任とのバランスが求められるようになっています。

こうした問題はインドの私たち自身のコミュニティにも共通して見られます。サステナビリティ、公正な評価、そして無形の伝統の保存──これらに関する問いは、国や文化を超えた共通の課題です。今こそ対話を通じて、新しい発想や解決策を見つけていくべきだと感じています。

インドの伝統的な絞り染め技法「バンダニ」
インドの伝統的な絞り染め技法「バンダニ」

未来を切り拓く工芸

明確なのは、伝統工芸品は決して過去の遺物ではなく、「生きている仕組み」であるということです。それは私たちを、よりよい未来へと導いてくれるものだと思います。

スタジオ・ミディアムにおける、日本の絞り染めやバンダニとの関わりは、ただ美しいものを作るだけでなく、ファッションにおける「生産」や「消費」のあり方そのものを見つめ直すことでもあります。意志を持って何かを作ることは、その行為が、世界に異なる痕跡を残すのです。

日本で学んだ絞り染めの技法は、テキスタイルを単なる「表面の技法」としてではなく、「時間・記憶・文化を運ぶもの」としてとらえることを教えてくれました。スピードや斬新さが重視されがちなファッション業界において、伝統工芸はその対極を示し、素材やプロセス、それらに込められた意味と再び深くつながるきっかけを与えてくれます。

つまり工芸とは、過去を振り返るためではなく、より深い意識を持って未来に向けて前進するためのものなのです。

日本での展示
日本での展示

本文はリッディ・ジェインによって執筆。

共著者:スタジオ・ミディアムの共同創設者であるドルーヴ・サティジャの寄稿による。

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