


「いずれは継ぐものだと思っていました」──家業との向き合い方
祥子さんは愛媛県松山市の出身。結婚前は家具やインテリアに関わる仕事をしていた。
「夫と出会ったときから、実家が和蝋燭屋だということは知っていました。だから、いつかは継ぐんだろうな、という感覚はありましたね」
家業に入ることを前提にしていたわけではない。ただ、夫の背景として、自然に受け止めていたという。
結婚を機に暮らし始めた内子町は、祥子さんにとって新しい土地だった。
「正直、あまり訪れたことがなかったんです。でも、住んでみたら自然が豊かで、子育てもしやすくて。すごくいい町だなって思いました」
家業に関わるようになったのも、「継ぐ」という言葉より先に、「ここで暮らす」という実感があったからだった。

店の外側を整える。妻が担う役割
現在、祥子さんが担っているのは、店の「外側」に関わる仕事だ。店頭での接客、仕入れや在庫の管理、オンラインショップの更新、海外からの問い合わせ対応と発送業務。職人である夫が製作に集中できるよう、外との接点を引き受けている。
「海外発送は本当に大変です。蝋は規制が多くて、コードを調べたり、許可が必要だったりします。時差もあるので、日本みたいにすぐ返事が来るわけでもなくて」
英語でのやり取りも、今では日常になった。新しいツールも取り入れながら、道具も考え方も、時代に合わせて柔軟に取り入れる。それもまた、家業を続けるための大切な姿勢だ。

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観光が止まった日、コロナ禍で訪れた転換期
大森和蝋燭屋にとって、大きな転機となったのがコロナ禍だった。
「それまでは、特別なことをしなくても観光バスが止まって、ツアーのお客さんがたくさん来てくださっていました。オンラインショップもなかったんです」
観光が止まり、人の流れが消えたとき、初めて向き合うことになった現実。
「誰も歩いていない、みたいな状態になって。どうする? って」
そのタイミングで、夫婦は店の在り方を見直すことに決めた。オンラインショップの立ち上げ、ブランドイメージの整理。不安はあったが、どこか前向きな気持ちもあったという。
「ちょうど、私たちが家業に本格的に関わるタイミングで転換期だったんだと思います。だから、新しいことをやってみようって。ワクワクもありました」
守るために、変える。その判断を、外側から支えたのが祥子さんだった。

和蝋燭を届けたい相手
これから店をどうしていきたいか。その問いに対する答えは、夫婦で共有しているという。
和蝋燭は、扱いに少し手間がかかる。芯を切り、正しい方法で消さなければ、煙が残ることもある。
「いろんなところに置いてもらえば、たくさんの人が手に取ってくれるかもしれません。かといって、手にした方が本当に使ってくれるかはわかりません。ちゃんと使ってもらえないより、本当にいいと思って使ってくださる方のところに届いたらいいなって」
広く、多く、ではなく。理解してくれる人に、きちんと届くこと。
「それで、細く長く続けばいいと思っています」
暮らしの中で灯す、和蝋燭の時間
祥子さん自身も、和蝋燭を「商品」としてだけではなく、暮らしの中で使っている。
「家族が起きてこない朝の時間ですね。まだ外が明るくなる前に和蝋燭を灯して、今日の予定を書いたり、温かいものを飲んだりします」
揺れる灯りを前にすると、自然と気持ちが整っていく。
「ざわざわしていたものが、スーッと落ち着く感じがあります。本当に、みなさんにおすすめしたいです」
工芸品を特別なものにしすぎず、生活の中へ戻す。それもまた、支える立場だからこそ伝えられる価値だ。






