for fontplus
Illust 3
Illust 1
唯一無二の技術で、堺市を世界に:竹野染工
2024.12.25
唯一無二の技術で、堺市を世界に:竹野染工

大阪府堺市

竹野染工株式会社
Map
唯一無二の技術で、堺市を世界に:竹野染工
ロール捺染の生地製造卸売店から自社のファクトリーブランドを立ち上げた竹野染工。伝統技術を極めてたどり着いたリバーシブル染色で、一人ひとりが喜ぶ顔を想像し、現代の生活に親しみやすいものづくりを通して、地域全体の活性化を目指している。手ぬぐいのまち、堺市の川沿いにある工房に伺い、同社代表の寺田尚志さんに話を伺った。

バックパッカーから染色工場の代表に

御社の事業の始まりについて教えてください。

堺市は100年以上続く染色産業のまちです。かつて当社では、ロール捺染(なっせん)で布おむつと寝巻き用の和晒(わざらし)を染色していました。和晒は赤ちゃんの肌に触れてもいいくらい優しい肌触りです。時代とともにそれらの需要離れが進み、90年代からは手ぬぐいの染色に移行していきました。ロール捺染は手染めより大量生産することができます。

日本には、江戸時代から受け継がれている、企業が顧客にタオルを配る「お年賀タオル」の文化がありますが、90年代は手ぬぐいを配ったり、農家でも作業中に手ぬぐいを頭や首に巻いたり、日常生活でよく手ぬぐいが使われていました。そして、2000年頃からおしゃれな手ぬぐいが販売されるようになり、一般の方々が欲しいと思える色や柄が出てきました。

家業を継がれたきっかけや経緯について教えてください。

当社の2代目だった叔父が急死し、叔父の家族も私の家族もこのまま家業が途絶えてしまうことを惜しんでいる様子を見て、26歳のときに3代目として跡を継ぐことを決心しました。まず職人として染めを覚えるところから始めましたが、マニュアルは一切ないので、仕事を見て、感じながら覚える以外に方法はありません。代表になった2005年から5年間は、染めの勉強です。代表になってから12年間は加工業社として仕事を続け、2017年に自社ブランド「hirali」を立ち上げました。

昔は晒した生地を川で洗っていました。川沿いにはロール捺染を営む企業が立ち並び、1970年代には50社以上ありましたが、次々と廃業、倒産し、今では10社ほどになりました。今では、国内で手ぬぐいを染色する小幅ロール捺染を専業としている企業は当社しかありません。

時間をかけてこそ生まれる、柔らかな風合い

和晒の魅力についてお聞かせください。

和晒は2日間ほど大きな釜に生地を入れて炊きます。何度も水と高温で繰り返し洗浄するため、布地の繊維が柔らかくなり、肌触りがとても良いのが魅力です。そのため赤ちゃんの肌にも優しく、産着やガーゼ、タオル、ハンカチなど直接肌に触れる製品によく使われます。

晒しとは生地の油分を取り、もともと黄色っぽい色をしている木綿生地を漂白する加工です。晒し加工なしでは水分を弾いてしまうため、染色できません。和晒は洋晒と比べて使用する薬品が少なく、生地の糸についている毛羽(けば)をなくさないように長時間かけて晒し加工するため、柔らかな仕上がりになります。

一方で洋晒は数時間薬品の層に生地を漬けます。薬品が強いため短時間で仕上げることができますが、糸自体が細くなってしまいます。手ぬぐいはほぼ100%和晒ですが、洋服やシーツなどの現代の日常生活で使われる布製品はほぼ洋晒です。和晒は洋晒と比べて作る工程が非効率的ですが、肌触りが良く、糸の繊維を傷めることなくふわっとした風合いのまま染色することができます。

Illust 2

職人の技術の極み、リバーシブル染色

製作工程を簡単に教えていただけますか?また技術的に難易度が高い作業や特にこだわりのある工程などがあれば教えてください。

事前準備として3つの工程があります。まずロール捺染機の刃を研義(とぎ)ます。刃は型の余分な染料を落とします。次にロール捺染金型をセッティングして、色を調合します。裏面への影響を計算した上で色作りし、裏面に染み出さないように染料の固さを調整するのも難しい作業です。

製作工程は、表裏の柄を合わせるために1度目の染色を行い、表裏をそれぞれ染色した生地を蒸し、収縮した生地をもとに戻すため熱を加えながら幅出しをします。表裏の染色では裏面に色が染み出さないよう最適な圧で染める必要があるため、熟練の技が必要です。

注染は表裏を同色に染色できますが、ロール捺染では表面しか染められません。試行錯誤の末、1990年頃にロール捺染で表裏を同色に染色する技術を開発しました。それから当社にしかできない技術としてリバーシブル染色を思いつきました。捺染と注染の両方の技術ができるからこそ可能な技術です。3年かけて和晒の軽やかさを損なわない技術を確立し、ガーゼのような透けるほど薄い素材もリバーシブルに染めることができます。

アイディアの源、参考にしているものやことなどがありましたら教えてください。

若い頃はバックパッカーをするほど国内外を旅するのが好きで、今でも旅先ではさまざまな布を見るようにしています。hiraliのコンセプトは、日本の伝統的な色や柄を現代の生活に馴染みやすいようにアレンジすることです。染めに関しては、平安時代の装束に使用されていた「襲の色目(かさねのいろめ)」を参考に色を調合しています。実際に作ってみると、意識していないにも関わらず、北欧デザインのようだといわれるようになりました。昔日本のデザインが北欧に流出し、北欧のデザイナーがその影響を受けたことで類似性が生まれたそうです。

オリジナルブランドを始めたきっかけや経緯について教えてください。

もともとロール捺染は、高度経済成長期に対応した大量生産のための機械です。近年では注文が小ロット化し、需要の減少に伴い、ロール捺染を扱う工場が減り続けている現状があります。

当社としては、創業以来専業でやってきたロール捺染を守り続けたいという想いがあり、新技術、リバーシブル染色を開発しました。それをきっかけに、自社ブランドを立ち上げ、2017年に展示会に初参加し、バイヤーや一般消費者の方と初めて触れ合うこととなります。手ぬぐいの産地、堺市で作られたストーリー性、オンリーワンの技術など自信を持って出展しました。

しかしさまざまなブランドを見渡し、産地や製法の認知度の低さ、アピールポイントのズレなど、商品を考え直す必要性を実感する大きなターニングポイントとなりました。まず堺市の産業やロール捺染を知ってもらい、いずれは今治タオルのように、堺市の手ぬぐいをブランディングしていきたいと思い描くようになりました。

自分たちで商品開発をするようになってから国内外にも広く商品が取り扱われ、メディアにも取り上げられるようになると、職人が自分たちの仕事に誇りを持てるようになってきたと感じています。
染色や手ぬぐい業界の課題は何かありますか。また、その課題を解決するためには、どのようなことが必要だと考えていますか。

昔は身近だった手ぬぐいも、今では日常使いする人が減少しています。デザイン手ぬぐいやアウトドアでの活用など、一時期よりも手ぬぐいが見直されているとは感じるものの、手ぬぐいの使い方を知らない人が多いというのが現状です。手ぬぐいの便利さは、使ってみて初めて分かると思っています。今まで手ぬぐいに馴染みのなかった人にどうやって使ってもらうかが、今直面している課題です。

現代のライフスタイルに合うようにモダンなデザインにしたり、手ぬぐいをスヌード状にして首もとをつつむ肌着「Oo(ワオ)」を開発するなど、手ぬぐいに馴染みのない層にもアプローチできる商品を考えていますが、今でも試行錯誤の連続です。

Illust 3

伝統が紡ぐ、利他的な幸せ

地域の産業や職人の連携、地域創生につながる活動や取り組みなどはあるのでしょうか。

コロナ禍以前の2017〜2019年までは、地域の手ぬぐい関係の会社が集まり「てぬぐいフェス」というイベントを年1回開催していました。1社単体の企業努力では生き残ることが難しく、手ぬぐいの産地、堺市をアピールして地域をあげて盛り上げようと始めたイベントです。2日間で3万人の集客があり盛況でした。

昔ながらの流儀や考えを打ち破って今の流れを変えるのは難しいことですが、当社のように若い世代の職人たちがより良い連携のかたちを提案していく必要性も感じています。

今後どのようなイノベーションや新しい技術への取り組みを計画されていますか?将来的な展望があれば教えてください。

ロール捺染の技術的な部分については極めつつありますが、今は円安で日本の商品を世界に広めやすく、まだ海外への販路を増やせる見込みがあるので、海外の展示会に出展したり、ECなどにも注力していきたいと考えています。

また、障がいのある方々にも当社のものづくりを通して貢献していきたいと考えています。当社はB型就労支援作業所事業も開始し、障がいのある方が主に手ぬぐいを検品してたたむ作業に携わっています。国内外に自分が関わった商品が販売されていると喜んでくれますし、メディアに紹介されることもモチベーションにつながっています。

今後もロール捺染を途絶えさせないことが、当社の使命です。手ぬぐいの産地 堺市とセットで、ロール捺染について多くの人々に知ってもらいたいと願っています。

Illust 4

Text by Riko

#Artisan#職人#大阪##伝統工芸#ロール捺染#和晒#手ぬぐい#歴史#技術
よろしければ、記事の感想を教えてください
シェア
関連する記事
つくり手を訪ねてシリーズの記事
大阪府の工芸の記事