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日本の工芸:久留米絣と織物のネットワーク(ベラ・ブラックロ)
2025.01.25
日本の工芸:久留米絣と織物のネットワーク(ベラ・ブラックロ)
日本の工芸:久留米絣と織物のネットワーク(ベラ・ブラックロ)

私が初めて日本の工芸品と出会ったのは、2019年に交換留学生として広島市立大学を訪れたときでした。授業を通じて知った職人たちの献身的な姿勢と正確さに深く感銘を受け、この分野についてもっと学びたいと思うようになりました。

それ以来、高い技術と知識を必要とする伝統工芸に従事する職人たちに深い敬意を抱くようになりました。テキスタイルデザイナーとして、特に織物に強い関心を持つ私は、2023年の秋、日本の着物文化に根ざしたテキスタイル技法を学ぶために再び日本を訪れました。

2024年の春、福岡県八女市にある久留米絣の織元、下川織物に約1ヶ月間滞在し、久留米絣の製作工程を学ぶ機会を得ました。久留米絣の製作工程は非常に複雑で時間がかかります。機械織りの場合、合計で約30の工程があり、完成までに少なくとも2~3ヶ月を要します。 この地域の織物は200年以上の歴史を持ち、何世代にもわたって受け継がれてきました。

絣模様は経糸と緯糸の糸を括り止めることで表現されます。その後、括られた糸は何度も藍で染められ、手織りされていきます。この伝統的な生産方法は1957年に「重要無形文化財」として認定され、現在も久留米周辺の複数の工房で続けられています。久留米絣の特徴的のひとつは、機械織りと手織りが共存し、互いに協力しながら支え合っている点です。

1948年に創業した下川織物は、力織機や機械による経糸・緯糸の結い取り機を使用して久留米絣を生産する織元のひとつです。 これらの技術を生産工程に導入することで、現代的な商品を低コストで生産しながら市場で競争力を維持することが可能になりました。しかし、作業工程全体に膨大な時間と労力が必要であることに変わりはありません。

たとえば、力織機を使用する場合でも、職人は細心の注意を払いながら監視しなければなりません。経糸と緯糸の張力を均一に保つことが重要であり、熟練した職人は竹の棒をどこに差し込めば張力を調整できるかを熟知しています。特に久留米絣では二重の絣模様を織っているため、この作業はとても複雑です。私は工房で職人たちの仕事ぶりを見学し、その高い技術力に深く感銘を受けました。

日本の工芸品は、自然とのつながりに深く根ざしています。機械織りの久留米絣でも、藍染めのほか化学染料が使用されていますが、それでも自然との関わりが感じられる場面は多くありました。たとえば、朝には糊付けされた絣の糸は工房の外で干され、括り糸は工房近くの野原でほどかれるのが普通です。

私が下川織物に滞在していたのは2月から3月にかけての時期で、寒い朝も何度かありました。この滞在を通じて、工芸品の製作が季節や天候と密接に関わっていることを実感しました。一方で、工業的な大量生産のプロセスでは、こうした自然や天候とのつながりが失われていることが多いように感じます。

下川織物は、職人である下川強臓さんが3代目として経営しています。下川さんは、久留米絣の技術を広めたいという思いから、職人として柔軟かつ前向きに仕事に取り組んでいます。国内外から久留米絣に興味を持つ人々を積極的に受け入れ、親切丁寧に知識を教えています。下川さんや他の職人たちが、自らの技術や歴史、伝統を惜しみなく分かち合う姿勢は、若い世代が地元の織物や関連するコミュニティとの関係を見直すきっかけになるでしょう。

現代では、織物の生産工程について知る人は少なくなっています。こうした知識をより多くの人が得られる環境を作ることで、織物や職人たちへの理解が深まり、消費に対する持続可能なアプローチにもつながると私は信じています。

下川織物は、久留米絣の知識を共有するだけでなく、さまざまな企業、デザイナー、アーティストとコラボレーションしています。これらを通じて、多くの人々が久留米絣に触れ、深い理解と広く評価を得られるようになったと感じています。

八女市に滞在していた間、工房や地域全体が過去を尊重しながら、伝統工芸を未来へと引き継ぐ方法を模索する場であることを実感しました。この場所は創造性や情熱に満ちており、志を同じくする人たちとテキスタイルについて語り合う時間は非常に充実したものでした。また、地域の歴史や文化を知ることが、その工芸の本質を理解するうえでいかに重要かを学びました。

久留米絣と下川織物の作品は、人と人とのつながりやパートナーシップと深く結びついています。滞在中、私は職人、家族、地元の人々、ファッションデザイナー、テキスタイルデザイナーなど、さまざまな背景を持つ多くの人々と交流する機会がありました。彼らは皆、久留米絣の伝統を継承し発展させるうえで重要な役割を果たしています。このコミュニティの意識こそが、今後、各産地の織物の重要性を伝えるうえで目指すべき姿だと思います。

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現在の課題

日本の繊維産業を含む多くの伝統工芸は、現在、大きな転換期を迎えています。多くの伝統的な織物は高齢化した職人たちによって継承されていますが、後継者の目処は立っていないというのが現状です。

さらに、若い世代の都市部への移住が顕著であることや、工業製品が伝統的な技術を侵食している現状も、繊維産業の衰退に拍車をかけています。こうした問題は地域や工芸の種類ごとに異なる課題を抱えており、全国レベルでの包括的な解決策を見つけるのは容易ではありません。

久留米絣の場合、伝統的な力織機を使用する点に課題があります。地元の織り子たちは、100年以上前に製造された豊田自動織機を使い続けていますが、新しい機種の入手が難しく、既存の織機を何度も修理ながら使用しています。スペアパーツを入手するためには、古い織機の部品を購入するしかなく、部品が手に入らなくなったときには修理ができなくなるというリスクがあります。

職人たちへの支援は、彼らが将来、必要な道具を確保できるかどうかに密接に関わっています(なお、久留米市ではこの問題に取り組むプロジェクトが進行中です)。 また、需要の低下や職人の高齢化によって、道具そのものが生産されなくなるという問題は、ほかの工芸品にも共通しています。

日本の工芸品は、「日常生活の一部であるべき」という信念に基づいています。しかし、織物が着物に関連することが多い一方で、現代の生活において着物を目にする機会は少なくなっています。着物文化を大切にしながら、伝統的な織物を現代のライフスタイルに融合させる方法を見つけることが重要です。

これは、織物のデザインや用途を見直すだけでなく、伝統的な徒弟制度の改善や、若い職人たちが魅力を感じるような仕組み作りを含みます。

また、工芸に携わる人々には、技術面だけでなく、ビジネスの専門家や自身の技術を提唱する役割も求められている時代です。工芸に関する知識を共有しながら、工芸ビジネスを経済的に持続可能にするためのスキルを提供することも欠かせません。

工芸を未来に継承していくことは、職人だけでなく、私たちすべてが関わるべきプロジェクトであると考えています。この責任を職人だけに押し付けるべきではありません。一般の人々に工芸の重要性を理解してもらい、織物生産の価値を再評価してもらうためには、私たちの協力が不可欠です。

社会的構造

日本の伝統工芸に携わる中で得られた経験は、これまで出会ってきた多くの方々の寛大さと親切心のおかげです。職人たちの忍耐と献身、そして「工芸の重要性を伝えたい」という地元の方々の思いが、織物を今日まで存続させてきました。

久留米絣との出会いは、私にとって特別なものでした。それは、伝統工芸がインスピレーションやモチベーションを与え、関わるすべての人々をつなぐ源となる可能性を示してくれたからです。伝統工芸を維持し、新たな世代がその分野で働く意欲を持つように促すには、それに関わりたいと望む人々と知識や技術を共有することが鍵となるでしょう。私自身もこのように動機づけられました。また、歴史的な発展や地域における重要性を伝えると同時に、現代の生活様式に織物の実践を定着させることが、いかに重要であるかを教えてくれました。

伝統的な繊維工芸を取り巻く状況には確かに複雑な問題があります。しかし、社会の持続可能性の観点や、より広範な持続可能な消費パターンを促進するという観点から見ると、繊維工芸は非常に大きな価値を持っています。 地域の繊維工芸を支援し、それによって工芸に携わる人々の生活を支えることは、私たち皆が努力すべき課題です。

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