

祖父が築いた「ユニークなものづくり」の原点
カネマサ莫大小の歴史は1964年、百間谷さんの祖父が編み機を導入したことから始まる。日本一の丸編み産地である和歌山において、同社の創業は後発組に属する。しかし、理系のバックグラウンドを持つ創業者は、単に生地を編むだけでなく、編み機自体に手を加え、他社には真似のできない生地を生み出すことに情熱を注いだ。この「カネマサにしかできないものを作る」という姿勢は、「ユニークなものづくり」という今なお同社の根幹を成す理念となっており、絶え間ない技術革新の出発点となった。
父が加速させた海外展開と特注機械への挑戦
創業者の精神は、現社長である父(2代目)へと受け継がれる。商社出身で機械には直接触れないものの、「ユニークなものづくり」への探求心は形を変えて加速した。この挑戦のひとつの到達点が、同社の代名詞ともいえる、たくさんの針を使って高密度に編まれる「ハイゲージ」技術である。
ニットの世界で使われるゲージとは、編み機の針の密度を示す。一般的なTシャツが18ゲージから28ゲージ程度であるのに対し、カネマサ莫大小では最大46ゲージという、世界でも類を見ない超高密度の編み機を駆使する。1インチ(約2.5cm)の間に46本もの針が並ぶこの機械は、極めて繊細な調整とメンテナンスを要するが、そこは同社の職人による高い技術力が支えている。
「編み機1周に約4,300本もの針が配置されていて、そのうちたった1本でも傷があれば生地に響き、B品となるんです。この膨大な数の針を一本一本抜いて目で見て確認し、傷を見逃さないというのも、A品を作り続けるためには必要なことなんです」
また約20年前から「プルミエール・ヴィジョン」といった国際的なテキスタイル見本市にも積極的に出展し、海外市場へもその名を広めている。これら先駆的な取り組みの積み重ねが、カネマサ莫大小を「ハイゲージニッター」としての確固たる地位へと導いたのである。

コロナ禍が生んだ逆転の一手、ファクトリーブランドの誕生
百間谷さん自身は8年前に家業へ戻った。当初は「小さな町工場」としか思っておらず、継ぐ気はなかったという。しかし、繊維商社でキャリアを積むなかで、家業が持つ技術の特異性と価値に気づく。「面白いことやってるんだよな」と感じた一方で、その技術を世に広める「売る力」が足りていないことにもどかしさを感じ、家業への参画を決意した。
大きな転換点となったのはコロナ禍であったと語る。「仕事がまったくなくなった時期が一瞬あって、守りに入るか攻めに出るかでいろんな議論をしていたんです。そこで初めてファクトリーブランド『KANEMASA PHIL.』の構想が出たんです。コロナで従来の仕事がここまでへし折れていなかったら、やってないですね」
BtoBのテキスタイルメーカーが、小売りの経験なくして自社製品を消費者に直接届ける。それは何から手を付けるべきかわからぬまま、非日常の中でただ進むしかない挑戦だった。

常識を覆す「織物ライク」を生む3つの要素
カネマサ莫大小の生地が持つ最大の特徴は、ニットでありながら織物のようなハリ感と仕立て映えを実現している点にある。Tシャツやインナーに代表される従来の丸編みニットは、しなやかで体のラインに沿うような性質を持つ一方、美しいシルエットを保つのが難しく、ジャケットやパンツといったアイテムには不向きとされてきた。この常識を、同社は独自の技術開発で覆している。
「糸、編み、最後の加工までの3点を併せ持たないと、『織物ライク』の生地はできないんです。高密度に編むという前提があって、それに合うハリ感が出るような糸の作り方だったり、風合いを決める加工があります。最後の加工ひとつとっても、圧力の高い鉄芯のロールで生地を潰すことで光沢を出したり、従来のニットでは存在しなかったような生地に反発感を与える樹脂を開発したりしています。この3点セットで初めて織物のようなニットが成り立つんです」
Makuake成功が証明した「感性」と「需要」
ハイゲージニッターとしてのプライドと「織物ライク」な生地を生む技術力をもって、百間谷さんがBtoCへの挑戦の第一歩として選んだのは、クラウドファンディングサイト「Makuake」だった。
「僕の渾身の一作でまったく世に出ていない生地がありました。それを世に問いかけたいっていうのもあったので、洋服のデザインや小売りの経験もなく、とにかくわからないけど僕がかっこいいと思うスウェットを作ろうと思って、Makuakeさんに出品しました。するといろんな方に評価いただいて、自信になったんです」
このクラウドファンディングでの成功体験が、ファクトリーブランド「KANEMASA PHIL.」誕生の確かな礎となった。

究極のシャツ地に込められた無限の方程式
同社の技術の集大成ともいえるのが、ブランドの顔でもあるシャツ地だ。ニットとは思えないほどのハリと光沢、そして洗濯後もシワになりにくいイージーケアを誇るこの生地には、これまで述べてきた技術が凝縮されている。
糸の撚りの強弱、糸を炎の先端で焼くことでけばを防ぐガス焼きの有無、紡績方法、編みの組織、そして多彩な加工。これらの要素の組み合わせは「無限にある」と百間谷さんは言う。その無限の選択肢の中から、経験則に基づき「これ以上思いつかない」という究極の方程式を導き出し、ひとつの生地として完成させる。
「着ている間の着心地だけではなくて、ずっと続く生地の上質さに一番こだわっています。消費者にとって、編物だとかメリヤス素材だとかは別に関係のないことだと思っていて。偶然いいと思って買ったシャツがメリヤス素材のシャツだった。そこから良さを実感して、手に取ってもらえるようになる。そんなものづくりを意識しています」
デザイン性だけでなく、着心地のよさや手入れのしやすさといった機能性を両立させ、長く愛用される一着を目指す。その哲学が、一枚のシャツ地に込められている。

「KANEMASA PHIL.」は、BtoCという新たな挑戦であると同時に、職人たちの誇りを映す鏡でもある。糸一本から積み上げられた技術が、どのように一着の服へと昇華するのか。その最終形を示すことで、ものづくりの現場に携わる人々は、自らの仕事の価値を実感できる。
「製造業はかっこいい」。百間谷さんの率直な思いは、同社の職人だけでなく、広く社会へ向けられている。逆境を力に変え、川上から川下までを一気通貫で手がけることで、カネマサ莫大小は製造業そのものの可能性を問い直しているのだ。
糸を設計し、編み、仕上げる。その緻密な積み重ねと、挑戦を続ける人の技。両輪が回り続ける限り、カネマサ莫大小はニットの常識を更新し続けるだろう。









