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「藍は生き物」受け継がれる津軽天然藍染の手仕事
2026.09.08
「藍は生き物」受け継がれる津軽天然藍染の手仕事

青森県弘前市

津軽天然藍染 川﨑染工場
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川崎 有哉

川﨑染工場13代目。県外で会社員として働いた後、2019年にUターンして家業を継ぐ。「藍は生き物」という考えのもと、江戸時代から受け継がれる津軽天然藍染の技術を守りながら、藍染体験や情報発信を通して、その魅力を次世代へ伝える活動にも力を注いでいる。

津軽天然藍染

青森県津軽地方で受け継がれてきた天然藍による伝統的な染色技法。発酵させた天然藍の染液に何度も浸し、空気に触れさせることで深く美しい藍色を生み出す。自然素材ならではのやわらかな風合いと、使い込むほどに増す味わいが魅力。ストールやハンカチ、衣類など暮らしの中で使う実用品として親しまれている。

川﨑染工場13代目の川崎有哉は、「藍は生き物」という考えのもと、江戸時代から受け継がれる津軽天然藍染の技術を守り続けている。天然藍の発酵や染色の仕組み、藍染体験を通して、伝統を次世代へつなぐ取り組みが紹介されている。
「藍は生き物」受け継がれる津軽天然藍染の手仕事

深く澄んだ藍色は、職人の技術だけで生まれるわけではない。自然の営みに寄り添い、日々変化する染液と向き合い続ける時間が、その一色を育てている。約250年続く津軽天然藍染川﨑染工場を訪ね、その手仕事の本質に触れた。

江戸時代から続く「津軽天然藍染」

青森県弘前市。弘前城のほど近くに、江戸時代後期から時を刻む一軒の染物屋がある。津軽天然藍染 川﨑染工場だ。

店舗兼工房の奥へ足を踏み入れると、黒光りする梁や柱が今も残り、発酵した藍が放つ独特の香りがふわりと鼻をくすぐる。ここでは、先祖から伝わる天然藍染の技法が、約250年にわたって守り継がれてきた。

江戸時代、津軽藩がこの地を治めていた頃、弘前には100軒を超える藍染の紺屋が軒を連ねていた。武士の羽織袴や庶民の暮らしを支える染物として、天然藍は人々の生活に欠かせない存在だったのだ。

しかし、明治時代の廃藩置県や化学染料の普及により、天然藍染は次第にその姿を消していく。川崎家も例外ではなく、一度は暖簾を下ろした過去がある。

復活のきっかけとなったのは、1991年の台風19号だ。強風で建物の一部が損壊したことで、奇しくも床下から、江戸時代に使われていた11基の藍甕(あいがめ)が見つかったのだ。

その発見を機に、11代目が復活を決意。建物を修復し、途絶えていた天然藍染をよみがえらせた。現在は13代目・川崎有哉さんへと受け継がれ、商品の販売を行うほか、藍染体験を通して、藍染のある暮らしや文化を伝えている。

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藍は、生き物だ

工房には、江戸時代から使われてきた藍甕が並ぶ。その中で育てられているのは、植物からつくられた天然藍の染液だ。

天然藍染は、タデ科の植物「藍」の葉を発酵させてつくる「すくも」を原料に、灰汁(あく)を加えながら藍甕の中でさらに発酵を重ねる。目には見えない微生物の働きによって、ようやく布を染められる染液が生まれる。

その微生物たちを川崎さんは、親しみを込めて「藍ちゃん」と呼ぶ。藍は、川崎さんにとって日々世話をする“生き物”なのだ。

液面の中央に「藍の花」と呼ばれる泡がしっかりと現れるのは、微生物が元気に働いているサインだ。元気がなくなれば、小麦の外皮「ふすま」をエサとして与え、ときには日本酒を与えることもあるという。働かせすぎても、休ませすぎても機嫌を損ねてしまうため、毎日、色や泡、香りを確かめながら状態を見極めている。寒ければ活動が鈍くなり、暑すぎれば美しい色が出ない。

「風邪をひくことだってあるんですよ」

藍の状態は、原料となる「すくも」の出来にも大きく左右されるという。

「だから、藍染ってどこまでいっても植物との対話なんです。自然相手なので、ごまかせないんですよね。藍の体調を毎日観察しながら、日々向き合っています」

染液の寿命は約1年。その中でも、もっとも濃く美しい藍色を生み出せるのは、わずか2〜3ヶ月ほど。職人が毎日手間と愛情をかけ、自然の力が重なり合うことで、深く美しい藍色が生まれるのだ。

世界に一枚だけの藍色ができるまで

その藍色が、どのように生まれるのか。実際に藍染を体験させてもらった。

まずは、4種類ある見本の中から「銀河花火」という技法を選んだ。真っ白なハンカチをつまんでねじり、かごに入れたらゆっくりと藍甕の中へ沈めていく。

「このまま2分待ちます。動かさないでくださいね」

中腰の姿勢でじっと待ち、ゆっくりと引き上げる。すると、ハンカチはまだ深い緑がかった色をしていた。

「空気に触れると酸化して青くなります」

その言葉どおり、空気に触れた布はみるみるうちに色を変え、緑から藍色へと変わっていく。まるで布が呼吸をしているかのようだ。

この工程を3回繰り返すことで、少しずつ藍の色が深まっていく。甕の中に長く浸ければ濃く染まるというわけではない。空気に触れて酸化させる時間があってこそ、美しい藍色が生まれるのだ。

最後は井戸水で何度も洗い流す。流れ出るのは、植物や灰汁などの余分な成分だけ。水に溶けない性質を持つ藍の青だけが布に残り、洗うほどに澄んだ色合いになっていく。これが水道水だと、塩素の影響で色が抜けてしまうのだそうだ。

乾燥を終えて手元に戻ってきたハンカチは、澄んだ藍色に染まっていた。天然藍だからこそ生まれるその色は、自然相手ゆえに二度と同じ仕上がりにはならない。

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天然藍染を次の世代へ手渡していきたい

「天然藍染は自然の力を借りたもので、虫除けや抗菌作用があるんです。汗をかいても臭くなりにくいですし、布の繊維も丈夫になります」

天然藍染は、美しい色合いだけでなく、暮らしの中で使われる実用品として親しまれてきた。武士の羽織袴や庶民の仕事着に使われてきたのも、その実用性があったからだ。

抗菌性や防臭性、耐久性は、現代の暮らしにおいても魅力的だ。ストールやハンカチ、衣類など、日常で使うほどに天然藍の良さを感じられる。

一方で、生き物を育てる天然藍染は、気の遠くなるような時間と労力がかかる。実際に藍染を体験したからこそ、その積み重ねを実感した。

それでも、なぜ川崎さんは昔ながらのやり方を貫き続けるのだろう。

「当たり前にあったものが、なくなってしまうのは寂しいです。私たちは先祖から受け継いだものを預かっているだけ。だから、このやり方を次の世代にもつないでいきたいと考えています。効率だけを考えれば、ほかにも方法はいくらでもあります。でも一番大切なのは、先人たちがしてきたように、この天然藍染を次の世代へ手渡していくことです」

その深い藍色には、人から人へ受け継がれてきた想いも宿っている。

Text by 奥村 サヤ

#職人#青森#津軽#津軽天然藍染#技術#歴史#文化#伝統
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