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縁の下の力持ちから、プレイフルなテキスタイルの世界へ:播州織・株式会社丸萬の挑戦
2025.04.21
縁の下の力持ちから、プレイフルなテキスタイルの世界へ:播州織・株式会社丸萬の挑戦

兵庫県西脇市

株式会社丸萬
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縁の下の力持ちから、プレイフルなテキスタイルの世界へ:播州織・株式会社丸萬の挑戦
兵庫県の北播磨地域で生産されている播州織。自然な風合いと豊かな色彩が特徴的な、糸から染める先染めの綿織物だ。その多くは衣類メーカーやブランドにわたるため、製品となった際に播州織の名が表に出ることは稀だが、実は私たちの日常の衣類や雑貨にも多く使われている。今回は播州織産地の西脇から新たなものづくりに挑戦する株式会社丸萬を訪ね、お話を伺った。

日常を下支えした、表に名の出ない織物の存在

事業とその始まりについて教えてください。

丸山 1901年に初代 丸山萬右衛門が丸萬商店を設立し、ジャカード織機400台の織布工場と縫製工場を併設して事業を始めました。戦後は機屋・染色工場・加工場の分業制で、製品を紡績会社や商社、問屋へ納め、シャツ生地メーカーとして栄えましたが、次第に製造がコストの安い海外に流出し生産が減少。また時代とともに働く男性の服装はスーツにネクタイからカジュアルへと変化し、既存のビジネスの枠組みでシャツ生地だけを作っていてはダメだと感じました。そこでテキスタイルデザイナー梶原加奈子ディレクションのもと、2015年に自社ブランド「POLS(ポルス)」をリリースするなどアパレル商品の幅を広げていき、2024年には素材ブランド「MARUMAN JACQUARD(マルマンジャカード)」をスタートしました。

家業を継承したきっかけや経緯についてお聞かせください。

丸山 中高生の頃にインターネットが普及し、世の中に変革をもたらす新たな力に魅力を感じ、大学では通信ネットワーク工学を専攻してインターネットの仕組みを研究しました。卒業後は約6年間LED照明を企画販売するベンチャー企業に勤務し、建築業界への営業を担当。祖母が好きだったということもあり、家業の播州織を通して新たに面白いことができるのではと考え、2011年に丸萬に入社しました。2012〜2013年には取引先の米国三井物産株式会社ニューヨーク本店でインターンとしてテキスタイルビジネスに触れ、昔の日本デニム特有のビンテージ感の再現などに取り組みました。輸出入の仕組みについても学び、その後の当社での輸出事業の立ち上げと、海外との取引拡大にもつながります。
梶原さんと出会うまでは既存のデザインのコピーばかりでしたが、独創的で面白いテキスタイル制作について教えてもらったことがきっかけで、「テキスタイルの楽しみ」を発信するブランドPOLSを立ち上げました。

播州織の魅力とはなんでしょうか?

上田 西脇は北播磨の豊かな自然に囲まれ、ここを流れる水質は綿の染色に適しており、産地としての発展を遂げました。糸から染める先染織物で多色多彩、表現力豊かな織が魅力で、天然繊維の風合いの良さもあります。お客様には播州織という認識なく手にとっていただくことも多いですが、プリントにはない織物の表現力や、播州織ならではの良さを広めていきたいです。

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POLSワンピース
POLSワンピース

紋紙のコンピュータ化で、複雑な表現を実現

独自の特徴や競合優位性があれば教えてください。

丸山 当社のジャカードテクニックは非常に繊細で高品質、国内テキスタイルコンテストでの受賞歴もあります。フリンジのある生地などの独特のテクスチャーを実現するため、実際のカット作業を可能にする紋紙をコンピュータで作成します。

上田 デザインと紋紙づくりは分業する企業が多いなか、当社ではデザインから紋紙データを一貫して作成できるためコストカットでき、複雑な表現をスピーディーにできる効率化も他社にはできない強みです。また織物の組織や素材を考慮し、分業先と連携を図りものづくりをしています。横の信頼関係が構築できているため、たとえば通常1ヶ月かかるサンプルも、早ければ1週間で納品できます。こういったスピーディーな対応の評判が口コミで広がるのも特徴です。

自社ブランドを立ち上げたきっかけやターゲット、目指す方向性などについて教えてください。

丸山 国内の有名ブランドに当社の生地が採用されたことがきっかけで事業が広がり始めました。急な生産増で納期に対応することが大変になりましたが、それに合わせて織布工場が織機の台数を増加してくれたことで、生産のスピードアップを実現しました。また紋紙をコンピュータ化することで織物を立体的に4層で考えられ、写真の画素数が上がるようなイメージで、これまでできなかった細かい表現のテキスタイル制作が可能となります。その技術を利用してPOLSを立ち上げました。

その後POLSとは異なる表現の追求を目指して「MARUMAN JACQUARD」を立ち上げ、アーティストとコラボレーションしてテキスタイルを制作しています。ギフトショーで出会ったレコード会社とコラボレーションして作ったレコード仕様の商品は、パッケージのまま飾ったり、小さなスカーフとして巻いたり、風呂敷のように包んだりできます。このような幅広い用途の商品を開発し、ギフト需要の開拓を目指しています。

MARUMAN JACQUARD商品
MARUMAN JACQUARD商品

大きな変革で、若者が希望の持てるまちへ

播州織業界の課題と、課題解決に向けての取り組みについて教えてください。

上田 もともと播州織は薄利多売の産業で、「播州織は安い」という昔のイメージを覆すのは難しいと感じています。工場は家族経営が多く、職人の高齢化にともない技術継承には新たな人材育成が必要ですが、雇用する余裕がないのが現状です。行政の施策により職人志望の若者が来てもステップアップの土台として数年で転職し、継承には至らないことがほとんどです。

西脇ではノコギリ状の屋根の建物を見ると、播州織の工房だったと分かります。かつては1,000軒以上あった播州織の企業も今では半分ほど。産地として生き残るためにも、独自の生地開発やブランディングなど新たな展開の必要性を感じています。

織物業界のPR活動やブランディングについて感じていることやお考えをお聞かせください。

丸山 ハイブランドでは莫大な広告費を計上し、影響力のある人物を広告塔にして認知度を高めます。同様にはできませんが、自社ブランドではInstagramで認知度向上を図っています。新規の方にも見てもらえるリール動画を頻繁に投稿したり、自分ごとに置き換えられるコンテンツを作ったりするのも大事なポイントです。今年の1月からは大阪にいるSNS専任担当者が、当社の商品を実際に使えるさまざまなシチュエーションを想定し、ショートコント風の動画を投稿しています。登録者数は以前の倍に増加しました。何がバズるのか分かりませんが、方程式がないからこそ面白味を感じています。

興成工業有限会社
興成工業有限会社
全国有数の織物産地として、西脇市では行政や地域の企業、職人との連携はありますか?

丸山 以前播州織の織機の販売に携わっていた西脇市長は、「西脇ファッション都市構想」と称して若手クリエイターの人材育成や移住、まちのブランディングに取り組んでいます。播州織はこれまで生地としての販売が主でしたが、イタリアのヴィエラ地区を見習い、最終製品の生産を増加する目標もあります。またプロ仕様の縫製設備を備えた一般市民が利用できるコワーキングスペース「CONCENT(コンセント)」もオープンし、クリエイティビティを醸成する環境を整備しています。

今後計画している取り組み、将来的な目標やビジョンがあれば教えてください。

丸山 1907年に建てられた祖父母の家を改装し、2026年にPOLSの新店舗としてオープン予定です。将来的には播州織の既存の問題を改善し、産地全体にもっと若者が増え、希望が持てるまちとして生まれ変わることが目標です。西脇市は1901年に播州織で大きな過渡期を迎えました。このような大きな変化がないと、土地全体が衰退すると感じています。自社だけが潤うのではなく地域全体のことを考え、新世代の職人たちが持続的に活動できる未来を提示していきたいです。

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取材協力:東播染工株式会社、遠孫織布株式会社、興成工業有限会社

Text & Photo by Riko

#Artisan#職人#兵庫#伝統工芸#播州織#歴史#日本文化#技術
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