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老舗タンナーが皮革のふるさと姫路で作る、こだわりの革:株式会社山陽
2024.07.29
老舗タンナーが皮革のふるさと姫路で作る、こだわりの革:株式会社山陽

兵庫県姫路市

株式会社山陽
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老舗タンナーが皮革のふるさと姫路で作る、こだわりの革:株式会社山陽
株式会社 山陽」は、兵庫県姫路市に本社・工場を構えるタンナー(製革業者)だ。姫路市は、広い河川と穏やかな流水、比較的温暖で雨も少ない土地柄などが関係し、昔から革産業が栄えていた。
同社は伝統的な製法を受け継ぎながら、現在まで日本の革産業を支えている企業のひとつ。最近はBtoB事業だけでなく、自社ブランド「TAANNERR(タァンネリル)」を立ち上げ、革の魅力を消費者に直接伝える取り組みにも注力しているそうだ。
今回は、同社の歩みや革の製造工程、自社ブランドを立ち上げた経緯について、代表取締役社長の戸田さんと常務取締役の塩田さん、事業推進課の森本さんにお話を伺った。

革の歴史がある姫路ならではの伝統的な革作り

御社の事業の始まりについて、教えてください。

戸田 「まず、1905年に『姫路製革所』が立ち上げられました。当時の日本は富国強兵を掲げて殖産興業を推進しており、近代的な革づくりを国策として行うことがこの製革所の目的でした。

姫路市では古くから革を作っていたことから、姫路市に設立されたんです。その後、民間企業として1911年に『山陽皮革株式会社』が創業しました。

軍事用の革製品を国内で生産するという国策があったため、もともとはそれを担うために作られたのですが、戦後は鞄や靴などの民需に応える商品作りへと移っていきました。

『株式会社山陽』に社名を変更したのは、1977年です。世の中の流れが変わりつつありましたし、高度経済成長期が終焉を迎えつつあったなかで、いろいろな可能性を踏まえたチャレンジをしたいという想いがあったため、社名変更しました」

御社で生産している革は、どのような製法で作られていますか。

戸田 「弊社では、『植物タンニン鞣し(なめし)』『クロム鞣し』『白革鞣し』の3種類の製法で革を作っています。鞣しとは、皮から革にする工程のことです。皮が腐らないようにするために行います。詳しい内容は、塩田から説明してもらいましょう。

塩田 「植物タンニン鞣しでは樹木に含まれるポリフェノール成分『タンニン』を、クロム鞣しでは『クロム鞣剤』という薬剤を使います。

植物タンニン鞣しを行っているのは、世界的に見ても、全体の20〜30%ほどです。また、弊社では、ピット槽と呼ばれる槽で植物タンニン鞣しを行っているのですが、植物タンニン鞣しを行っている国内の企業はもう数社しかありません。

私たちの白革の元になったのは「姫路白鞣し革」です。革づくりの歴史がある姫路ならではの伝統製法です。本当に貴重な鞣し方法なので、量産で作るのは難しいんです。また私たちの白革も現在ではお客様からの要望があるときにだけ行っています」

ピット槽での植物タンニン鞣しは、難易度が高いのでしょうか。

塩田 「タンニンが皮に浸透するまでに約1ヶ月間がかかるんです。牛の品種でも変わりますし、個体差もありますが。

また、気温や水温によっても浸透具合が変わるので、冬場はピット槽の液を温めながら鞣すなどの工夫が必要です」

植物タンニン鞣しとクロム鞣しでは、出来上がる革に違いがありますか?

塩田 「皮はアクションを加えてれば加えるほど繊維がほぐれて柔らかくなります。逆にアクションを加えないピット槽で鞣した革は分厚くて伸びにくい、しっかりとした革になります。

昔は乗馬の手綱や鞍(くら)として使われていましたが、現在はベルトや鞄の持ち手に使われることが多いです。

一方で、クロム鞣しで作った革は耐熱性に優れ、厚みの調整などにも対応できるのが特徴です。弊社では、クロム鞣しをした革は靴用として使われることが多いので、型崩れしにくいような革を作るようにしています。

何を作るのかによって、それぞれ鞣し方を変えています」

白鞣しは伝統的な製法だとお話しいただきましたが、具体的にはどのような方法なのでしょうか。

塩田 「白鞣しにも、いろいろな作り方があります。平安時代に行われていた本来の方法は、市川という川に皮を浸けて、バクテリアにさらして塩となたね油で揉みながら鞣す、というやり方です。

原皮はもともと白色で、特に色はついていません。塩となたね油は風合いをつけるために使っているだけなので、それ以外のもの使わなければ皮の白さがそのまま残るんです。

この製法は一旦途切れてしまったと聞いていましたが、この地域で再現されているという方もいらっしゃいます。やはり希少なものであり、文化財という側面もあるようです。

弊社では、特殊な鞣し剤を用いて独自の白革を作っています」

鞣しの工程で、難しい工程はありますか?

塩田 「“革は同じように作っても同じようなものができない。しっかり見て皮の個性に合った調整をしないから同じものができないんだ”と、昔からよく言われてきました。

そのため、植物タンニン鞣しでは、ピット槽に浸けてから出来上がるまでの間に、皮を少しカットしてどこまで浸透しているかを適宜チェックしています。

弊社には24槽のピット槽があり、各槽の中でタンニンの濃度を調整しています」

皮の仕入れから革が出来上がるまで、自社で一貫して行うよさを教えてください。

塩田 「弊社が取り引きしているお客様は、物理的な強度に対して厳しい方が多いです。

お客様が何を作られるのかで革の仕上げ方や塗装方法は変わりますが、最初から仕上げまで一貫して行っているからこそコントロールしやすく、そこが弊社の強みになっています」

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TAANNERR」を通して革の魅力を伝え、地域貢献を

自社ブランド「TAANNERR」を立ち上げた経緯を教えてください。

戸田 「革製品が作られる背景も含めて、もっと革の魅力を知っていただきたいなと思ったことが立ち上げのきっかけです。

昔に比べると、現在は革製品に触れる機会が減ってきているんじゃないかと思っています。新しい素材が出たり、置き換わったりもしていますから。

昔は今ほど素材が多くなかったので、必然的に革が使われてきたという背景もあるかもしれません。

ただ、食肉用として加工する過程で出た皮を捨てるのではなく、それを生かして革製品が作られてきたことはあまり知られていないなと。

近年は、SDGsや環境・エコへの取り組みが注目されています。私たちタンナーからすると、革製品はまさにSDGsの面も含めて魅力ある素材だと考えています。

弊社のようなタンナーはBtoBの素材メーカーで、消費者と直接関わる機会がありませんでした。革製品の製造背景や魅力を消費者に伝えるために、まずは直接お話しする機会のひとつになればと自社ブランドを立ち上げました」

「TAANNERR」では、どのような革が使用されていますか。

戸田 「本ヌメ革の最高峰『ピットヌメ・タァンネリル』、美しさを守れる安心の防水革『防水・タァンネリル』を使っています。タンナーが出しているブランドなので、革の品質には自信があります。

アイテムに合わせた革を自社で作っていますし、『TAANNERR』に関わっているスタッフも革好きの社員ばかり。革へのこだわりが100%詰まったブランドです」

お客様の反応はいかがですか。

戸田 「百貨店のポップアップストアでは、私自身も売り場に立つんですが、“すごくきれいな革だね”とお客様からよく言われます。

革らしい革は取り扱いが難しく、ブランドが大きくなればなるほど製造しやすい革を使うようになってしまうんです。そのため、弊社の製品を見ると、新鮮に見えるんだと思います。

一般の方はいい革に触れる機会が減っているとも言われているので、ぜひ実際に触れてみてほしいです。

先日、若い学生の方がふらっとポップアップストアに立ち寄ってくださったのですが、革の説明をしたらとても興味を持ってくれ、値段だけを見ると決して安くはないのですが、お財布を購入してくださいました。

若い方はあまり高価なものを買わないと思っていたのですが、価値を分かってもらえると、購入していただけるんだなと。売り場に立つ中で、新しく気付くこともたくさんありました」

森本 「今の若い方は、私たちの若い頃とは感覚が違い、リセールバリューをきちんと考えてものを買う方が多いと聞きます。だからこそ、ものの価値を見極めているのかもしれません」

戸田 「TAANNERRのビジネスバッグは、ブランドを立ち上げてから私もほぼ毎日使っているのですが、百貨店の方に見てもらったときに“新品かと思いました”と言われるほど、くたっと感がなく味が出ています。

本当にしっかりした革は、長く使っていただけて、味も出てくるものです。なので、買うときには“値段が高いな”と思うかもしれませんが、何年も使えるものだと考えると安いんです。そこは共感いただける方が多いですね。

SDGsでもロングユースは謳われているので、商品を短期間で何回も買い換えるよりも、いいものを長く使う感覚が広がっていくといいなと思っています。

売り場でお会いするお客様は、弊社のことを知った上で商品を購入すると、とてもいい笑顔で帰られます。うれしそうに帰られるお客様を見ると、人や社会にとって価値あるものを提供していかないといけないなと思いますし、共感を得られる素材を作りたくなります。

多くの方に知っていただくことが、私たちにとっても必要なことなんだなと。自社ブランドを運営することは、とても意義のあることだと実感しています」

立ち上げにあたり、苦労したことはありますか?

戸田 「弊社は中小企業なので、資金も人材もそう多くはありません。また、創業して100年以上、革素材だけを作ってきたので、ブランドとして最終製品を作ることは難しかったです。

ブランドを実現するための準備期間として、2年かかりました。“こういうことをしたいんだけどやらない?”と革製品好きの社員に声を掛けて、社内プロジェクトとして立ち上げ、そもそもブランドって何?というところからスタートしたんです。

ブランド名の『TAANNERR』は造語で、“時を超えて続いていくもの”という想いを込めてつけました。

企画からデザインまで、職人さんと相談しながら進めてきたのですが、社内の未経験者たちでやってきたので大変でした」

「TAANNERR」をどのようなブランドへ成長させたいですか。

戸田 「まだ立ち上げてから2年も経っていないので、まずは知っていただくところからはじめています。

定番となる商品から徐々に幅を広げて、ゆくゆくは“TAANNERRでこんな革製品も買えるんだ”と言っていただけるくらい商品のジャンルを増やしていけたらいいなと考えています」

森本 「姫路は昔から革産業を営んできた地域です。今でも姫路市と隣のたつの市で日本の牛革の約7割強を生産しています。自社ブランドを立ち上げたのは、SDGsも含めて革の魅力を伝えたいのはもちろんですが、革産業の聖地として地域に貢献したいという想いも背景にあります。

戸田 「姫路は、観光資源があまりありません。姫路に来てくださった方の多くは、姫路城だけ見て別の地域に移動されます。

姫路市として、いかに長い時間滞在していただくか、観光で地域を盛り上げられるのかが長年の課題です。そのため、地場産業である革を観光資源に変えられないかと考えているところです。今後は、地域ブランドを目指して成長させていきたいです」

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革に対する誤解を解き、正しい知識を伝えたい

御社はLWG(Leather Working Group)環境認証を取得されていますね。どのような認証なのか、教えてください。

戸田 「LWGは2005年にイギリスで創立された組織の名前です。その組織が、“世界的に環境にいい革を作りましょう”と認証を行うようになりました。

認証規格には、タンナー・貿易業者・下請業者・委託加工業者の4つのカテゴリーがあり、それぞれ審査項目が異なります。たとえば、タンナーとしての審査項目は、排水処理の方法、材料のトレーサビリティ、化学物質の適切な管理方法、禁止薬物の使用の有無などです」

塩田 「LWGでは独自の環境監査基準に照らして認証を行っています。認証を得るまでは、工場内の作業者の安全性や排水の成分チェックの方法など、そういったデータを集めるのが非常に大変です。

ただ、私たちは排水処理も含めて自社内で行っているので、そういった意味ではコントロールしやすかったんです。

これからは、環境対応をしていない会社は取り残されてしまいますから、こうした取り組みにも力を入れています」

消費者へのアピールポイントにもなりそうですね。

森本 「PR活動は行っているのですが、鞄や靴などの商品タグに認証マークをつけるのは難しくて。理由は、その鞄を販売している企業さんがメンバーシップになっていない認証を取得していない場合はつけられない、という運用ルールがあるのです。

しかし、メンバーシップになられている大手企業ではLWGを取得した企業としか取り引きしないというところもあります。世界的にも環境への取り組みを見る目は厳しくなってきています。

弊社としては、展示会でポップを出すなど、できるだけみなさんの目に触れるように活動を続けています」

御社が考える革の業界の課題は、何かありますか?

戸田 「弊社もそうですし、業界の課題でもあるのですが、ここ数年はSNSが発達していろいろな情報が世の中に溢れています。

その中で、革に関する誤解や間違った情報も拡散されていて、その発信を見た方が信じてしまい、さらに拡散するという悪循環も生まれているなと感じています。

誤解を解き、しっかりと正しい情報を知っていただくために、日本皮革産業連合会では『Thinking Leather Action(シンキングレザーアクション/以下、TLA)』という情報発信のプロジェクトを立ち上げられています」

誤解されている情報には、どのようなものがありますか?

戸田 「日本皮革産業連合会のアンケート調査では、革が副産物であるということを認識している方は39%ほどでした。つまり、半数以上の方が、“革は食肉牛の皮から作られている”とは認識されていないようなのです。

みなさんお肉を食べられますよね。食用のお肉をとった後には皮は絶対に出てきます。それを使わないで破棄するのにもエネルギーや費用がかかります。使わないのはもったいないことなんです。

最近、革製品が使われなくなった要因のひとつに、間違った認識があると思います。革を使うことが環境によくないことだ、倫理的にもよくないことだという誤解を解くのが、まさにTLAが取り組まれている活動です。

さらに一方向からの間違った情報を、影響力のある方が発信してしまうと、一気にその情報が広がってしまいます。そういった断片的な情報で誤解してほしくありません」

森本 「弊社が行っているワークショップや工場見学は、私たちのことを知ってもらうPRの側面もありますが、革業界への誤解を解いて、理解を深めてもらいたいという想いも込められています」

業界や地域活性のために、挑戦したいことを教えてください。

森本 「革製品をより身近に感じてもらえるような活動を行っていきたいです。現在は、『山陽レザー・デイ』という名前で工場見学企画を月に1回行っています。(詳しくはこちらへ)

革に少しでも興味のある方に革づくりの現場を見てもらい、直接知ってもらいたいと思い始めた企画で、2年半ほど続けています。

また、革を使ったワークショップも最近はじめています。父の日には、姫路駅前にある靴屋さんとコラボして、父の日の企画でお父さん用のベルト作りをしました。

実際に革について学んだり、触れたりすることで、先ほど話したような倫理的な面の誤解を解くと同時に、愛着を持ってもらえるようになっていけばと思っています。

革製品は、手軽に使えるものではなく、敷居が高いものだと思われがちです。しかし、実際はそうではありません。昔から使っているもので、加工性も非常に高いものだと思っています。

私たちも情報発信をしていきます。多くの方が手に取り、それぞれの感性で使ってもらえるようになるといいなと。世界中の方に注目していただけるとうれしいです」

塩田 「私は弊社に入社した当初から、“革づくりは、いただいた命を、もう一回蘇らせる仕事”だと言っています。そういう観点でもの作りをしていますので、いただいた命をいかに大切に使うかということを、みなさんにも意識していただけたらなと思っています」

戸田 「ファッションのトレンドには、サイクルがあると思います。今の素材は何かをリサイクルして、新しく生み出されたものが多いと感じています。

昔から使われている革はまさにそういったリサイクル素材で、とてもいいものであることを、再認識していただけたらと。ファッションを通してそのように感じていただけると、私たちもとてもうれしいです」

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Text by 奥山 りか

#Artisan#職人##レザー#兵庫#姫路#日本文化#技術#歴史
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