



京都・宇治で400年以上にわたり、茶の湯や煎茶のための器を作り続けてきた陶窯「朝日焼」。彼らがコペンハーゲンのデザインイベント「3daysofdesign」で発表した新作「osaa」は、茶器ではなく、現代の食卓に向けたテーブルウエアだった。
北欧のデザインスタジオ、そして3つのレストランとの対話から生まれた器には、伝統を守りながらも、使い手とともに変化していく朝日焼の思想が宿っている。ブランドディレクター・松林俊幸氏の言葉から、茶文化の外側にひらかれていく、これからの器のかたちを紐解く。

茶文化の壁を越えるための「小さな階段」
ヨーロッパの生活文化に、日本の茶器をどう根付かせるか。遠州七窯の一つに数えられ、日本でもっとも古い陶窯の一つである朝日焼にとって、海外市場へのアプローチは長年にわたる挑戦の連続だった。12代の頃にはイギリスの陶芸家バーナード・リーチとの交流を持つなど、海外との対話の歴史は長い。近年はヨーロッパ各地で茶会を開き、急須のプレゼンテーションを行うなど、日本の茶の文化を伝える地道な活動を続けてきた。
しかし、日本のような茶の湯や煎茶に親しむ文脈を持たない地域において、日常的に茶器を使ってもらうことの難しさに直面していた。お茶を淹れるという行為自体が、現地の生活習慣からは距離があったのだ。松林俊幸は、その壁を越えるためにはこれまでにないアプローチが必要だったと振り返る。
「普段はお茶のための道具を作る窯元なのですが、デザインされた茶器がヨーロッパの人に受け入れられ、お店で使ってもらうというハードルの高さに何度もくじかれていました。どういうステップで進めていけばいいのか。もう少し小さな階段を作って、私たちの茶器を欲しいと思ってもらうためのステップとして、テーブルウエアに挑戦してみるのが一つの方法だと思ったのです」
いきなり茶器を提案するのではなく、日常の食事で使うテーブルウエアを通じて、まずは朝日焼の器に触れる機会を創出する戦略が取られた。それが、今回の新コレクション「osaa」の開発へとつながる起点となったのである。


レストランとの対話で探る現代のフォルム
「osaa」コレクションは、ヘルシンキを拠点とするデザインスタジオ「Kaksikko」との協業によって生まれた。さらに、コペンハーゲンの「Admiralgade 26」、ヘルシンキの「Grön」、京都の「そ/s/KAWAHIGASHI」という3つの気鋭のレストランとの対話を通じて、現代の食卓に適した形へとデザインが練り上げられていった。
そのプロセスは、単なる形のデザインにとどまらず、朝日焼が持つ技術と作り手の哲学を現代の用途にどう適応させるかという試行錯誤の連続だった。すべての器は職人によるろくろ引きで作られ、表面には朝日焼特有の模様である「燔師」などの表現が取り入れられている。
「今回は八寸に使うための器を作りたいということになりました。当初は四角いお皿を要望されたのですが、私たちはろくろを得意としている窯元なので、丸でも大丈夫かと提案しました。縁に丸みをつけるのではなくまっすぐに立ち上げることで、山のものと海のものを置いたときに見栄えがするデザインにしています」
コレクションのユニークな点は、それぞれの器の用途を意図的に限定していないことにある。たとえば、茶碗蒸し碗や味噌汁碗を想定してデザインされた器は、サイドプレートとしても機能するように作られている。また、日本の伝統的な円筒形の器である筒向付は、北欧のフォルムの解釈を通じて再構築された。
「あえて用途を限定しないことで、レストランそれぞれが自分たちの料理に合わせて自由に使えるようにしています。デザイナーといろいろな意見を交換しながら、一つの用途に縛られないような要素を器に入れ込んでいきました」
松林が語るこの設計思想は、フィンランド語で「全体を形成していない一部や断片」を意味する「osaa」という名前に結実している。これらの器は一つの答えに落ち着くことなく、使い手と料理によってその役割を柔軟に変えていくのである。

未完の美学と北欧デザインの共鳴
今回のコペンハーゲンでの展示では、「そ/s/KAWAHIGASHI」のシェフである中東篤志による特別なディナーイベントも開催され、参加者が実際に「osaa」の器で食事を楽しむ機会が設けられた。会場では単に器を並べるだけでなく、日本の茶道における「茶花」のように四季の花を生け替える演出も取り入れ、空間全体で日本のお茶の楽しみ方を提案していく構えだ。
コペンハーゲンと日本は、古くから互いのデザインや工芸分野において影響を与え合ってきた。松林は、これまでの現地との対話を通して、北欧という土地における受容性の高さを実感している。
「私たちが大切にしたいものを守りながら、現代的な部分に挑戦し、レストランの中でどう使いたいかという要望を取り入れていきました。コペンハーゲン自体、日本のデザインや工芸と影響し合い、キャッチボールを何度も繰り返している場所なので、日本の要素をうまく取り入れることに長けています」
松林が語るこの共鳴の背景には、朝日焼の哲学がある。宇治の陶土特有の吸水性を生かし、「焼き上がりは8割の完成で、残り2割は使い手が育てる」という考え方だ。器は窯から出た時点で完成するのではなく、人々の手に触れ、使われることによって初めて本来の姿に近づいていく。「今掘った土は孫の代に使う」という時間感覚で採掘後50年以上寝かせた土を用い、長い時間をかけて形作られた器は、さらに長い時間をかけて使い手とともに変化していく。
この思想は、機能的で日常に寄り添う北欧のデザイン哲学と深く結びついている。「osaa」の器は、Kaksikkoの静かで機能的なデザインと、朝日焼の職人による伝統技術が交差することで、新たな広がりを見せようとしている。
「3daysofdesign」への出展は、朝日焼にとってヨーロッパ市場に向けた新たな「階段」を上がる第一歩となる。茶器という枠組みにとらわれず、レストランの食卓という日常的な接点を持つことで、彼らの器は文化の壁を越えて新たな使い手のもとへと届き始めるだろう。
完成を目標とせず、使い手との関係性の中で変化し続ける「osaa」の器。400年の歴史を持つ窯元は、伝統を固定化するのではなく、対話を通じて柔軟に形を変えながら、次の時代の日常へとその歩みを進めていく。








