



回り道が拓いた、ものづくりの道標
木工の道に進むきっかけを教えてください。
家業は代々、木材業を営み、幼少期はゲームをするより山にある木材倉庫や自然の中で遊んでいました。今のアトリエは、かつての祖父の作業場です。
学生の頃はファッションに興味があり、洋服のリメイクや、バッグ、レザーの財布を制作。また大学時代から登山が好きでよく海外に旅していました。
大学卒業後は約5年間アパレル業界で働きますが、自然とものづくりに関わる仕事がしたいと思いを巡らせていました。
27歳のとき、登山の道すがら山麓にある山小屋風レストランを訪れ、オーナー自作の家具や小物を見て、その瞬間、幼少期の原体験やものづくりへの憧れといった点と点がつながり、木でものづくりをするため、家具職人になることを決めました。
2014年から2年間、森林たくみ塾で、釘を使わずに木材を組み合わせてつくる伝統的な木工技法、指物(さしもの)技術を習得。得た経験や学びについて教えてください。
森林たくみ塾は、実践力を身につけられると思い直感的に選びました。実際に販売する製品を学びながらつくりますが、入塾して初日から手がパンパンになるまで小物を磨くなど、訓練の毎日でした。
「100年かけて育った木は、100年使えるものへ」という理念のもとで木工の基礎を学び、今では、作品が100年間そのかたちをとどめる気概でものづくりをしています。

2016年から3年間、アイルランドのジョセフ・ウォルシュ・スタジオで学んだこと、また技術以外にも影響を受けたことを教えてください。
ジョセフ・ウォルシュは、アイルランドを代表するアーティストです。森林たくみ塾での講座では、彼の特徴的な曲線の造形美に衝撃を受け、職人としてその技術を身につけたいと思いました。
当時、塾の卒業生2名がスタジオで働いていましたが、偶然にも私が卒業する頃、その内の1人が日本に帰国するため、私が引き継いでアイルランドの小さな港町キンセールで働くことになりました。
ジョセフの技術的な特徴は、従来の曲木と異なり成型用の型を使わず、薄板を積層させた部材を曲げることで、制限のない自由な曲線で造形できること。彼の美意識に触れ、技術的に「どうつくるか」だけでなく造形的に「何をつくるか」を意識して自己の内面と向き合うようになりました。
またアイルランドで暮らす中で、より一層日本文化を意識するようになり、日本的な美意識や感覚でものづくりがしたいと思うようになりました。同時に自然に関する写真集を集めたり、日々印象に残るものを記録しました。
もともと登山、クライミングやフィッシングが好きで、壮大な自然に惹かれますが、写真集ではスケール感のある風景だけでなく、花びらや葉など小さな植物の造形、木の樹皮の表情など自然の緻密な構造にも自然の妙を感じます。

帰国後、2020年から中川木工芸で働いたきっかけ、またその経験から作品制作に受けた影響は?
ジョセフが世界各地からものづくりの専門家を招聘してセミナーを開催していましたが、そのゲストの1人が中川木工芸比良工房主宰の中川周士さんでした。
中川さんが持参した檜の材料と、通常は使わない節のある木材で制作した作品「依り代(よりしろ)」に衝撃を受けました。一般的に木桶は真っ直ぐ割れる柾目(まさめ)の木材でつくります。しかし中川さんは捨てられてしまうような木片に美を見出し、素材そのものの魅力を生かす日本的な佇まいを作品に宿していました。
それは同じ曲線でも、理想のイメージやフォルムに近づけるために着色したり、手を加えることを重視するジョセフとは異なる木工造形へのアプローチでした。
帰国後は独立する予定でしたが、中川さんの素材への深い洞察力やものづくりへの姿勢を学ぶため、中川木工芸で約2年半、木桶制作に携わりました。その中で、檜の素木がもつ魅力に深く引き込まれていきました。
そして卓越した技をもって、真に素材を生かすことこそが、日本的、工芸的なものづくりの本質だと感じました。この精神は現在の作品に大きく影響しています。

身体の動きを宿す曲木の技
作品制作における革新性、独自の特徴はなんですか?
伝統的な素材、吉野檜と特殊な曲木技法によって生まれる曲線美が特徴です。
檜は古来より神聖な木とされ、寺社仏閣をはじめとして日本文化を象徴する木だと思います。その中でも吉野檜は人工林で管理され、密植、多間伐で、日光を制限した状態でゆっくり育成され、枝打ちを繰り返してつくられた無節の木で、通直で緻密な木目が特徴です。
その吉野檜を薄くスライスしたものを積層し、成形用の型を用いずに木の柔軟性と繊維の強さを生かして、人力で曲げていきます。節や目切れした部分があると曲線がいびつになったり割れてしまうため、この曲木技法には吉野檜という素材が欠かせません。
木工の歴史において、人類はこれまで道具を用いて木を成形してきましたが、道具を介さずに自己の身体性を直接的、直感的に木にうつして成形するこの曲木技法を極めることで、木造形の新たな可能性を見出しています。


制作工程と制作におけるこだわりを教えてください。
制作工程は簡単に言うと、手で曲げて、手で削り、それらを組むという流れです。そのなかでも曲げの工程は特に時間をかけています。
ラフにスケッチすることはありますが、緻密なデザイン画は作成しません。まずどう曲げたら思い描くイメージを具現化できるかを試すため、1/3スケールのマケットをつくり、次に1/1スケールで修正しながらバランスを確認します。
そうして曲げた部材は作品の骨格となります。それらをグラインダーと鉋(かんな)を用いて理想のラインに削り上げ、指物技術とボルトなどの金物を組み合わせ、構造的な強度を担保した上で組み上げます。
また素木の柔らかな色味と質感が何よりも美しいと考えているので、それらを損なわない塗料を染み込ませて仕上げています。
完成形を固めないままひとつのアングルのイメージのみを頼りに木と対話し、心と身体のおもむくままにパーツを曲げていきます。これまで蓄積された経験や記憶が身体を通してかたちになり、それが制作の道標となっています。

表現の源は、センス・オブ・ワンダー
アイディアの源泉はどこにありますか?
造形的には自然の法則から着想を得たり、手を動かして直感的に決めることもあります。制作中にふと現れる曲線から、次の作品のインスピレーションを得ることも少なくありません。
「蕾環(らいかん)」シリーズは植物の輪生(りんせい)という構造的法則から着想を得ています。一方、「鏡像の破れ」シリーズは、物理学や生物学の「対称性の破れ」という言葉を比喩的に表現したタイトルで、わずかに崩れた対称性の中にある美しさの模索をテーマとしています。
たとえば、人の顔や蝶の羽も、一見すると左右対称ですが、歪みや個体差があります。そうした生物の『不均一さ』や『非対称性』に宿る心地よさや美しさを、作品に昇華しています。
不均一の中に宿る調和は、身体性を直接うつす曲木技法ならではのもの。再現不可能な一瞬の美を作品にとどめることができるのです。


また石の素材感も好きで、川や海岸でよく石を拾い集めています。石は大地を象徴する存在であり、大地の上に木がある姿は本来の自然そのものだと思います。
台座に自然石を用いた「自然(じねん)」シリーズは、コンセプトやイメージを持たない無心の状態で木を手に取り、身体が赴くままに曲げる中で現れた曲線を作品にとどめたシリーズです。
自然(じねん)とは、「あるがまま」の状態を意味する仏教思想に由来する言葉で、人は自然の一部として存在するという、古来からある日本人の自然観を表しています。
将来的な展望や思い描く夢があれば教えてください。
先のことはなかなか想像できませんが、吉野檜と曲木造形で美しい作品をつくり続けたいという思いは変わりません。
今、子育てを通して、子どもの目線で世界を再発見し、自然と対峙したときの純粋な心の動きを大切にしています。私の作品を通してその感覚と共鳴し、自身の中にある木や自然との深いつながりを呼び起こしてもらいたいと思っています。
木であると一目で分かるのに自然界には存在しない不思議な造形。それが、時を超えて自然の神秘と魅力を伝える作品となることを心から願っています。

Text by Riko








