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祈りの灯りを、次の時代へ:八女提灯・シラキ工芸
2026.04.07
祈りの灯りを、次の時代へ:八女提灯・シラキ工芸

福岡県八女市

有限会社 シラキ工芸
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入江 朋臣

有限会社シラキ工芸 代表。八女提灯の文化を守りながら、若い職人に場を託し新しい灯りの形を模索している。

八女提灯

竹を螺旋状に巻いて骨組みを作り、その上に和紙を張り絵付けを施す工程で制作される。素材は竹と和紙を中心に用い、内部の光が透過することで陰影を生み立体的な表現となる。用途は祖先の霊を迎える盆提灯として、家庭の仏壇や玄関に飾られる。

福岡県八女市で受け継がれてきた八女提灯。祖先を迎える祈りの灯りとして、日本人の暮らしに寄り添ってきた伝統工芸だ。需要の縮小という現実のなかで、2代目は若い職人に場を託し、新しい灯りの形を模索している。
祈りの灯りを、次の時代へ:八女提灯・シラキ工芸
福岡県八女市で受け継がれてきた八女提灯。祖先を迎える祈りの灯りとして、日本人の暮らしに寄り添ってきた伝統工芸だ。需要の縮小という現実のなかで、2代目は若い職人に場を託し、新しい灯りの形を模索している。祈りの灯を守りながら進化する、シラキ工芸の現在を追った。

祈りの灯り、八女提灯という文化

八女提灯の起源は江戸時代にさかのぼる。竹を螺旋状に巻いて骨をつくり、和紙を張り、そこに絵を描く。内部の光が透けることで、絵はわずかに陰影を帯び、立体的に浮かび上がる。

中心となるのは「火袋(ひぶくろ)」と呼ばれる部分だ。単なる覆いではない。光と絵を重ね合わせ、目に見えないものを感じさせるための装置である。

盆提灯は、祖先の霊を迎えるための灯りとして、日本の家庭に置かれてきた。玄関や仏壇のそばに吊し、帰ってくる魂の目印とする。そこには、亡き人への感謝と敬意が宿っている。

「日本人の感謝する心を表すものだと思っています」

そう語るのは、シラキ工芸2代目の入江氏だ。

電気が普及し、生活様式が変わっても、祈りの灯りの意味が消えることはない。提灯は照明器具である以前に、心を整える光なのだ。

農業から転身、2代目の覚悟

入江氏の原点は、提灯ではなく農業にあった。父は提灯屋に勤めていたが、「継げ」と言われたことはないという。

25歳で家業を引き継いだ理由を問うと、少し照れたように笑う。

「儲かっていそうだったからですよ」

冗談めかした言葉の裏には、覚悟がある。

30年前は、つくれば売れる時代だった。しかし、住宅は小さくなり、仏壇もコンパクト化し、盆提灯の需要は徐々に減少する。かつて150人いた外注職人は、20人ほどにまで減った。

分業に頼るだけでは、新しい挑戦はできない。

30代になった入江氏は、内製化に踏み切る。工房を建て、若い人材を雇い、「好きに使ってください」と場を託した。

それは大胆な賭けだった。だが、伝統を守るためには、まず変わらなければならなかった。

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若い職人が集まる工房

現在の工房には、宮崎や沖縄など県外からも若者が集まる。中心となっているのは20代、30代の女性職人たちだ。

なぜ若い世代が集まるのか。

入江氏は「何もしていないですよ」と笑うが、現場には明確な空気がある。ここでは、職人の個性が尊重される。

絵付けは指名制だ。給料制でありながら、お客様に選ばれなければ自分の仕事は増えない。静かな緊張感が流れている。

提灯の絵は、曲面の和紙に直接描かれる。勢いのある線が生命を宿す。

「シンプルな絵ほど難しい。線が一番大事なんです」

若い職人がそう語る。修復の依頼で、何十年も前の名工の絵を描き直すときには、手が震えるという。

だが、その緊張が技を育てる。

内製化によって、骨づくりから張り、絵付けまでを自分たちの手で行う体制が整った。外注任せでは生まれなかった発想も、いまは工房のなかから自然に立ち上がる。

若い感性と伝統技術が、同じ空間で呼吸している。

手書絵付
手書絵付

盆提灯だけでは終わらない

暮らしが変われば、灯りの形も変わる。

従来の盆提灯は大きく、現代の住宅には合わないことも多い。「かわいい提灯がなかった」と入江氏は振り返る。

そこで生まれたのが、ミニ提灯シリーズ「cocoran(ココラン)」だ。四季をモチーフにした小ぶりの灯りは、棚や窓辺に置かれる。祈りの象徴でありながら、インテリアとして日常に溶け込む。

盆提灯の技術を生かしながら、新しい暮らしに寄り添う灯りへ。

ホテル業界への提案や海外展開の構想もある。だが入江氏は言う。

「世界に出たい気持ちはある。でも出すぎたくはない」

伝統産業には、地域との関係性がある。急激な拡張は、均衡を崩しかねない。

進化はする。けれど、地に足はつけたままでいることを大切にする。

その慎重さもまた、八女の時間の流れに根ざしている。

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八女時間のなかで、灯りを未来へ

八女には、都市とは違う時間が流れている。急がず、抗わず、「よかよか」と受け入れる土地の感覚。

その時間のなかで、提灯は受け継がれてきた。

人の手でつくられるものには、心が宿る。大量生産では再現できない微細な揺らぎがある。

若い職人たちが描く線は、それぞれ異なる。入江氏はそれを強制しない。「好きに使ってください」という姿勢は、いまも変わらない。

祈りの灯りを守りながら、新しい灯りをつくる。伝統とは、形を固定することではない。意味を手放すことなく、姿を変えていくことだ。

火袋作り
火袋作り
八女の工房では今日も、和紙越しの光が静かにともっている。その灯りは、過去を照らし、いまを照らし、そして未来へと続いていく。
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