



建築士事務所での経験を生かしてデザインからプロモーションまで総合的に展開。領域の異なる専門家との展覧会企画を主催するなど多岐にわたり精力的に活動し、1300年間続く歴史の中でその形を変えなかった畳の新たな可能性に挑戦している。その現地工房を取材し、同社5代目を継ぐ山田 憲司さんに話を伺った。
きっかけはハイエース
事業とその始まりについてお聞かせください。
当社は、1869年(明治2年)に創業しました。700年に畳は生まれ、その歴史は1300年続いています。庶民にまで一般化したのは江戸末期から明治時代以降。それまで畳は高級品だったため、身分の高い人たちのためのものでした。ですから畳店は一般的に明治以降、創業100年〜150年の店が多いです。私は5代目として家業を継ぎました。
建築士事務所で勤務したのち家業を継いだとのことですが、そのきっかけを教えてください。
私は1983年生まれで、畳の人気が衰退してきた時代に育ちました。畳に対して少し古いイメージがあり、小学生の頃から畳よりフローリングがかっこいいと思っていました。また各家庭にも畳の部屋が少なくなってきた感覚が強くありました。また、一般住宅での畳職人の仕事は埃にまみれる作業が多く、将来畳店を継ぐことは考えていませんでした。しかし、一方で幼少期から寺社仏閣の現場は独特の雰囲気があり好きでした。
その後、建築系の大学に進学し、東京の建築士事務所に就職しました。ただ長年続いてきた歴史のある家業でもあり、店を継がないことにどこか寂しさを感じていました。
2017年に自分の建築会社を立ち上げようと思い勤めていた建築会社を辞め、起業準備のために実家に戻りました。ある程度貯金もあり、いつまでに起業しなければいけないという期限もなかったので、ゆとりある時を過ごしながら起業準備を進めていました。
そんななか、2018年に友人から「ハイエースの後ろに畳を敷いてほしい」と頼まれました。それまで畳は四角い形でしか作れないと思っていましたが、車内の形に合わせて角の曲線など自由自在に変形した畳を作ったとき、畳にはもっといろいろな可能性があると気づきました。もともとデザインが好きだったこともあり、これをアレンジすればもっと面白い展開ができると思いました。
それまで勤めていた建築士事務所での仕事の関係で、ミラノサローネなどヨーロッパ各地でインテリア関連の展示会を視察しましたが、畳を使ったプロダクトは見たことがありませんでした。そこで変形した畳を海外展開できれば面白いと感じました。
畳は日本発祥で、1300年の歴史がありますが、まだ海外の一般家庭に普及するほど広まっていません。改めてとても面白いプロダクトだと思いました。ビジネスというよりも、楽しみながら新しいことに挑戦しようと思ったのが、今に至るきっかけです。
昔から海外に憧れがあり、最終的には海外展開を目指していますが、今は畳の可能性を広げるため、制作での表現力を拡張し、国内での認知活動に注力したいと思っています。

建築会社で培った総合力、知識や経験を制作に生かす
変形畳の制作工程やこだわりについて教えてください。
最初に畳のデザインを考えますが、絵や彫刻と異なり、光の条件や人の動線を考慮する必要があります。畳は主に住宅や寺社仏閣などの床面にはめ込んでいくため、窓の位置、光の入り方などの相関性や条件を確認します。その際、現場道具としてイグサの織り目の角度を変えたリングでできた円形の畳「光のパレット」を使用します。光のパレットを床面に置いて、場所や角度によりどのリングが輝くか、光の反射による色の変化を確認します。
人の動線も重要です。入り口から入ってきたときにインパクトのあるデザインになるかどうかもチェックします。このようにさまざまな条件を確認した上でデザインをスケッチします。その後、洋服と同じように畳の型紙を作成し、それに合わせて芯材をカットしてイグサを巻きつけてパーツを制作していきます。曲線部分はスチームを当ててイグサを沿わせながら巻きつけます。


畳は家の形に合わせて制作するため、使い回しができません。長方形の畳は同じ形に見えますが、実はそれぞれの家の歪みなどに合わせてミリ単位で採寸してきっちりおさまるように制作されています。それが全国各地に畳店が存在する理由です。設置場所に合わせて畳の寸法を正確に計測して納品するため、畳店は地場産業として発展してきました。
「龍の畳」は、201枚のパーツで構成され、全て同色のイグサで作られています。布と同様に緯糸と経糸で織られており、緯糸がイグサ、経糸が綿糸(めんし)です。この角度を細かく調整することによって光の反射による色の変化を計算してデザインされています。正面から見ると龍の歯の部分は白く見えますが、立つ位置を変えると金色に見えます。時間帯や季節によっても色は変化します。
一般的な長方形の畳は織り目の幅が太く、切りっぱなしの部分をヘリで保護しています。一方で、琉球畳のようなヘリのない畳は織り目が細く折り曲げやすいため、複雑な形を作ることが可能です。
山田さんの強みを教えてください。
変形畳は琉球畳の制作方法を応用して作っています。直線は機械で対応できますが、曲線になると手作業が増え、制作時間が長くなります。また、私は自分自身で企画、プロデュースから営業、広報、制作を一貫して行うことができる総合力を強みとしています。東京での建築会社での経験を生かし、建築の素材や構造に関する知識や、デザインの経験が変形畳の制作に役立っています。

変形畳の魅力について教えてください。
変形畳の一番の魅力は、光が当たったときのイグサの美しさです。畳店の息子として何十年も畳を見て育ちましたが、光が当たったときのマテリアルの美しさに感動しました。特定の時間になると、まるで金箔を貼ったかのように輝きます。変形畳は時間帯や天候などにより、その瞬間の美しさを見せてくれます。夏になると青白っぽい色合いになり、冬になると優しい織り目の色になるといった季節感があり、また夜になると照明によって白っぽくなるなど時間帯によってもさまざまに表情を変えます。畳により日常生活の中でこういった光の変化を感じられることは、とても面白いと思います。
私は光そのものを扱っています。谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』の世界観を畳で表現し、光をどのように感じられるかがダイレクトに反映され、畳自体が光を測る装置となります。変形畳を作り織り目の角度が複雑に存在することにより、このような光と色の変化に初めて気づきました。
また一般的な長方形の畳は内部と外部の境界が明確ですが、変形畳にするとその境界が曖昧にできるのではないかと仮説を立てました。2023年に開催した東福寺光明院での展覧会では内と外を隔てる壁面を開放できたことで、室内にある鶴のデザインの畳と外部にある重森三玲の枯山水の庭園との連続性が生まれました。外光が入り、朝日が当たると鶴のクチバシが輝いたり、時間帯や季節によっても畳の色合いが変わります。


龍や鶴といった具象から円や多角形を敷き詰めた幾何学模様など幅広いデザインが特徴的ですが、アイディアの源、参考にしているものやことなどあるのでしょうか。
SNSやYouTubeを頻繁に見て、最新のトレンドやアイディアを得ています。無料で学べて、多くの情報を瞬時に獲得できる良い時代だと思います。また、美術館にも足を運び、現在は京都芸術大学で通信教育を受けています。
SNSやYouTubeでバズっているコンテンツを分析し、なぜ人気があるのかを考えることが好きです。今後は、自分の作品を使った動画を制作し、発信していきたいと思っています。
今年の夏に主催された「WAZA ART FES」の目的や経緯について教えてください。
私が発起人となり、約40名のクリエイターや専門家を集めたアートイベント「WAZA ART FES」を、名古屋にある「文化のみち橦木館(しゅもくかん)」で1ヶ月間開催しました。イベントを開催したきっかけは、変形畳の制作や展示を通じていろいろな面白い専門家に会うことが増え、メジャーでなくとも興味深い方々が多く、異文化交流をしたいと思うようになったことからです。展示だけでなく、工芸作家のワークショップや実演、ダンサーのパフォーマンス、美容師によるヘアメイクショーなど、異業種間のコラボレーションが自然と生まれ、非常に充実したイベントとなりました。

1300年間変わらなかったデザインを崩し、畳の可能性を拡張する
畳の国内生産量は年々減少傾向にあります。業界の課題とその課題を解決するためには、どのようなことが必要だと考えますか?
生産量の減少に関しては、業界全体でのアピールだけでは解決が難しいと感じています。個人的に取り組みたいことはアートと海外展開です。まずは畳の面白さを伝えたり、感動を与えられるような魅力のある畳の制作を追求したりしていくことが、課題解決の一助になると考えています。
正確な統計はありませんが、40年以上前の一軒家では5部屋のうち4部屋以上が畳の部屋でした。しかし今では畳の部屋は1部屋あるかないか、あるいはまったくない家も増えています。畳の部屋の数を増やすのは難しいかもしれませんが、リビングの隣に続き間で和室のある間取りは比較的多く、日常生活のメインの区画で必然的に目に入る部屋に畳で床面をデザインすると面白いのではないでしょうか。壁に絵画をかける感覚で畳を楽しむ、装飾でもあり実用的でもあるものとして、畳を新しい形で提案できると面白いなと思います。具象的なデザインでなくとも、多角形の幾何学的なパターンなどは、よりインテリアに取り入れやすいかもしれないですね。
今後どのようなイノベーションや新しい技術への取り組みを計画されていますか?また将来的な展望があれば教えてください。
WAZA ART FESでは慶應義塾大学理工学部杉浦裕太研究室とのコラボレーションで、光と回転モーターを使って表現する作品を制作しました。光の反射だけを使って具象的なものを表現する畳のデバイス「TataPixel(タタピクセル)」を、さらに大きな規模で制作したいと思っています。
そして壁と床の兼用で使える作品も制作していきたいです。
畳の部屋を作るとなると購入できる層が限られますが、畳で作った作品を絵画のように販売することも考えています。
また技術的な面では、染色を使った表現にも取り組みたいです。色を使うと光の反射がわかりにくくなるため、これまでは光の反射で複数色に見せられるように天然色のイグサのみで制作していましたが、次のステップとしては染色技術を探求し、壁掛け作品にも応用していきたいと考えています。
そして最終的に、これはとても大きな夢ですが、いつかベルサイユ宮殿と桂離宮での展覧会を開催したいと願っています。まだ訪れたことはないですが、いろいろと建築を見てきたなかで、ベルサイユ宮殿は世界一豪華な装飾が施されている建築物だと思います。装飾には石やガラスなど世界中のさまざまな素材が使われていますが、唯一畳は使われていないのではないかと思います。その豪華絢爛な空間に、畳がマッチするのではないかと考えています。もしルイ14世が畳の存在を知っていたら、どのような提案ができるだろうと想像することも楽しいです。
また桂離宮には茶室がたくさんあるので、茶室ごとにテーマを設定し、異なるデザインで展覧会が開催できれば面白いだろうと考えています。
京都の東福寺光明院のように、今後も壁のない抜けのある空間での展示は継続していきたいです。壁に絵をかけたり彫刻を置いたりすると、内部と外部が遮断されますが、床面を使った作品では借景のように連続性が生まれます。内部と外部の連続性は畳ならではの表現方法です。畳の作品として完結させるのではなく、屋外にまで広がる、どこまでも拡張していく表現に挑戦していきたいです。


Text by Riko








