



草木染めの醍醐味は、自分自身で育てた植物を使うこと
お店を立ち上げた経緯を教えてください。
政子 「草木染めを始めたきっかけは、40年程前に草木染めの中でも紅花を専門にしている先生と出会ったことです。子育てが一段落した頃に、その先生から紅花染めを習いました。
本格的にお店を開いたのは、自宅の建て替えの話が出たとき。建て替えとともにお店を作ることになりました。33年前に草木染めのお店を構えたものの、趣味でやっていたこともあり、初めは『収入を上げよう』という気持ちは薄く、純粋に草木染めが楽しくて『畑仕事をしながら暮らそう』と思っていたのです。」
浩 「以前はコンピューター関係の仕事をしていましたが、元々ものを作る事が好きだった事と、『母が作り上げた染料畑を残したい』と考えたのをきっかけに、母の仕事を手伝うことにしました。私は東北芸術工科大学に研究生として入り、1年かけて草木染めについて学びました。」
現在、お店ではどのような草木を使用して染色されているのでしょうか。
政子 「当店が所有する染料畑で無農薬栽培した紅花や藍、日本茜などの草木を使い、主に山形の和紙やシルク、山形県産繭、麻などを染め上げています。当店の作品や商品は、すべて手仕事で仕上げているのが特徴ですね。
まず畑で育てたのは、ハーブです。娘が東京でハーブの勉強をしていたので、いろいろ教わりながら育て始めました。初めて植えたのは今から30年以上前なのですが、当時は山形で育つ植物なのかどうかさえ分からなくて。とにかくいろいろな場所に植えていたため、「ここでは育ったけど、ここでは育たないな」という経験もたくさんしました。試行錯誤の末、今の畑が出来上がったのです。
私が育ててきたハーブなどの草花の他、息子が大学で習った染料植物も少しずつ取り入れてくれたので、育てる草木の種類が徐々に増えていきました。
今は息子が管理する畑と合わせ2,000坪ほどの畑があるので、紅花の他にもいろいろな植物を育て、古典的な染めから現代的な染めまで幅広く行っています。畑を作った理由は、自分で育てた草木を使って染めたかったから。草木染めを行っている人は、そう考える人が多いと思います。ただ、育てるための場所がないことがほとんど。幸い田舎ですので、多くの草木を植えることができました。」
少しずつ栽培する草木が増えたとのことですが、畑に植える品種はどのように選定されているのでしょうか?
政子 「染めたくて植えるものもあれば、畑全体の色のバランスを見て決めることもあります。畑自体が私のキャンバスみたいなものなので、『ここにこの色の花がほしい』『こんな木があるといいな』というアイディアから植えてみることもあるのです。
紅花は連作障害が出てしまうため、前年度の紅花畑は1年間休ませ、次の年はそこの畑に全く違う品種のウコンやバジルなどを植えています。ウコンは、私の希望で植えました。ウコンの産地としては沖縄が有名で、濃い色が出るのが特徴です。一方で、山形のものは少し色が薄くなるのですが、染料畑で育てる量が多いので十分に染められています。
日本茜は、色を安定させるために媒染剤としてミョウバンを使用するのが一般的ですが、当店では染料畑の椿を燃やして灰にし、煮出して媒染剤にしており、これは日本古来の手法でもあります。
当店のモットーは、『自分たちでできることは、自分たちでやろう』です。とにかく草木染めを楽しんでいます。平清水の地で育てた草木で山形の素材を染める。以前は、そのような商品を都心部に出したいと思いながら草木染めの作品や商品を作っていました。
ただ、近年はインターネットを使って販売できるので、山形にいながらにして都心へ商品を届けることも簡単になりました。それでも画面越しには伝えきれない色や風合いが多くあるので、やはり実際に見てお買い求めいただきたいと言う気持も多くあります。」


現在は、どのような商品を作られているのでしょうか。
政子 「当店の定番商品は、二色染めのスカーフです。主に山形県鶴岡市の松ヶ岡シルクを、当店の染料畑で育てた草木で染め上げています。当店は薬品などの染料や色止めを使用していません。時と共に色が移ろって行くのは当たり前のことで、その時は染め足しをして更に長くお使い頂いています。そのため染料が浸透しやすいよう、生地の端の処理は手絎け(てぐけ)仕様になっています。とても柔らかで肌触りのいいスカーフです。
その他にも、絹製品としてはポーチやショール留めなどもあります。また、草木染めした県産手漉き和紙に同じ和紙で縒った紙縒り(こより)で繋いだ和紙タペストリーや和紙カーテン、柿渋で染めた麻地に1本1本和紙を縒った紙縒りを刺した暖簾を作ったり、縁起物でもある県産繭玉を染め上げて正月飾りや節句飾りなどを作ったりしています。
畑で育つ植物はとにかく植えてみているので、育ったもので何かを染めて作ってみるという感じです。気に入れば商品にしたり多めに育てたりしますが、気に入らなかったら観賞用になることも。
当店の染料畑は、お店から車で5分ほどの場所にあるので、場合によってはスカーフなどお買い上げいただいたお客様を染料畑にお連れして草木の故郷をご案内することもあります。また、お客様が商品をギフト発送されるときには、当店の染料畑の季節の花束をサービスで添えることもありますね。」

紅花に含まれる赤い色素は、たった1%
草木染めの面白さや特徴を教えてください。
浩 「植物は季節で移り行くものですよね。そのため、その移ろいを楽しめることが草木染めの面白さです。
近年は、化学染めで染められたものが多いため、色が変わらないことは当たり前だと思われています。しかし、草木染めの色は、時と共に少しずつ色が移ろっていきます。特に紅花で染めたものは日光や汗でも色が変わるので、もともと一般的な洋服のように着て歩くものには向きません。
また、植物はその年の気候などにより色素成分の含有量が変わってくるのです。染色後だけでなく、染めている最中でも色が変化します。最初の原液は色が濃くても、何枚も染めていくうちに液中に含まれる色素の量が減れば色が薄くなっていくのです。
当店は、染め上げたものはすぐにはお店に並べません。1年ほど箪笥で寝かせてから、商品として出すのです。需要があるから出すのではなく、私たちが『そろそろいいかな』と思ったタイミングで商品をお出ししています。
草木染めは、染め足ししながら長く使えることも魅力のひとつです。スカーフも使っているうちに色が薄くなり、汚れてしまう場合もあります。その時は色を重ねて染め足しを行い新しい色との出会いを楽しみ、また汚れは消すことが出来ないので絞りをかけて柄を作り、汚れを柄の中に入れこんでしまいます。そして更に長くお気に入りのスカーフをお楽しみいただいています。実際、10年ほどスカーフをお使い頂いてから染め足しをご希望されるお客様も多いです。最終的には、黒に染め替えをする。黒く染めたシルクの商品は少ないので普段使いの他、仏事の際にも使用できて重宝されています。」


山形県は紅花が有名ですが、紅花で染色する工程や難しい点について教えてください。
浩 「収穫した紅花を水洗いすると、洗った水にも色素が含まれているので、当店では廃棄せずそこからも色を取り出し染めていきます。
花弁は、紅餅を作るために水気を切って布巾に包んで数日寝かせることにより、より鮮やかな紅の赤色ができます。紅餅にする理由は保存がしやすいという他、昔は紅餅を北前船で江戸などに運ぶ際、運搬に適した形であったためです。紅餅を作り天日干しをする工程も全て手作業で行っています。
紅花染めの難しい点は、純粋な紅の赤を取り出すのに手間もコストもかかることですね。紅花の色素成分は、赤は1%しかなく残りの99%が黄色なのです。
紅餅から抽出した赤には黄色の色素も含まれているので、そのまま染めると黄色を含んだ柔らかい赤に仕上がります。純粋に赤だけで染めたいときは、黄色を吸収しない植物繊維で赤だけを取り出し、そこから絹布に赤を移し、紅の赤のみで染め上げていきます。
たとえば、反物1反を染める場合、『寒中染め』といって、色が一気に入らないように、あえて糸が締まって染まりづらい冬場に冷たい染め液の中でゆっくり染めます。液の中に反物を頭から入れても、最後の方を染める頃には液の色素濃度が薄くなり仕上がりにムラが出てしまうので、そうならないように反物の端を交互に入れて染めるといった工夫も必要ですね。
反物1反を染める場合、100坪1年分の紅花の赤い色素だけで染めても淡いピンクにしか染まりません。もっと濃い赤に染めるには何倍もの赤い色素を要します。紅餅も金と同じくらいの価値があったようなので、紅花で染められたものは、昔は贅沢品だったと言われています。」
純粋な紅色はとても貴重なうえ、取り扱い方も難しいのですね。
浩 「紅花の赤い色素は紫外線の他、人の汗や唾液で色が移ろい無くなってしまうので、使用時だけでなく保管する際にも注意が必要です。しかし、きちんと管理さえしていれば、何百年でも美しい色のまま保つことが出来ます。」
お店には、どのようなお客様が多くいらっしゃるのでしょうか?
浩 「県内外のお客様の他、最近では海外の方も来店され、商品を購入、ギフト発送されることも多くなりました。ホームページ内通販からのお申し込みも多くなりましたね。また、生前にお母様が使用していたスカーフを複数お持ちになり、『染め替えてほしい』と依頼を受けたこともありました。染め替えた後は、お母様のことを大切に思っていた知り合いの方々に1枚ずつお渡しされたそうです。とても喜んでいただけたようで、私たちとしてもよかったなと思う出来事でした。」
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「移ろうものの美しさ」を、次の世代へ伝えたい
草木染めの魅力を伝えるために、取り組んでいることはありますか?
政子 「山形の博物館などで常設できたらいいなとは思っています。
紅花についてなかなか伝える場所の確保ができずに悩んでいたのですが、7月にはNHKの『新日本風土記』で取り上げていただくことができました。」
浩 「当店としてもホームページやInstagramで染料畑の様子や草木染めの作品や商品などを発信し、草木染めの魅力をお伝えているところです。これからも、紅花をはじめとする草木で染めた天然染料100%の商品や作品作りに取り組んでいきます。
また最近は、SDGs(持続可能な開発目標)を意識する時代になってきており、「移ろうものは悪いことではない」と考える人が増えてきました。多くの方々にお伝えしていけるよう、私たちも『移ろうものの美しさ』を草木染めで表現し続けていきたいです。」


Text by 奥山 りか







