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「過去の肩書では、飯は食えない」高取焼鬼丸雪山窯元が伝統の外側で切りひらく、次の100年
2026.06.09
「過去の肩書では、飯は食えない」高取焼鬼丸雪山窯元が伝統の外側で切りひらく、次の100年

福岡県朝倉郡

高取焼鬼丸雪山窯元
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鬼丸 碧山

二代 鬼丸碧山。1972年生まれ。初代碧山の長男として生まれ、大阪芸術大学工芸学科卒業後、福岡・小石原で作陶。日本伝統工芸展入選、正会員。国内外で個展・受賞多数、フランスやドイツ・ベルギーなど海外展にも出展し高い評価を得る。

高取焼

福岡県朝倉郡東峰村を中心に作られる陶器で、約400年前に黒田藩の御用窯として始まった。木灰釉を用いた柔らかな風合いや、薪窯による自然な焼成表現が特徴で、茶陶をはじめ器や酒器など日常使いの陶器として発展してきた。鬼丸碧山は伝統技法を基盤に、音響機器やワイングラスなど現代用途への応用も進めている。

高取焼鬼丸雪山窯元の鬼丸碧山は、伝統工芸が抱える後継者不足や制度的課題に向き合いながら、海外展開や異業種連携によって新たな価値創出を進めている。九州大学との陶器スピーカー開発や地域活性化活動を通じ、工芸を未来につなぐ実践を続けている。
「過去の肩書では、飯は食えない」高取焼鬼丸雪山窯元が伝統の外側で切りひらく、次の100年

福岡県の山あいに、400年の歴史を持つ高取焼と小石原焼の窯元が点在する場所がある。しかしながら、その担い手は年々減り続けている。弟子を取りたくても取れない制度の壁、規模拡大を前提とした補助金体制のずれ。国内の伝統工芸が静かに縮んでいくなかで、高取焼鬼丸雪山窯元の鬼丸碧山さんは、従来とはまったく異なるアプローチで未来を描こうとしていた。パリで個展を開き、ベトナムで窯を設計し、九州大学とスピーカーを開発する。その軌跡を追った。

弟子を取れない時代に、組合の「定年」を決めた

高取焼および小石原焼の作陶を行う鬼丸碧山さんは、地域の協同組合で要職を務めながら、伝統工芸産業が抱える構造的な課題と正面から向き合ってきた。もっとも深刻なのは、関係人口の減少と後継者育成の困難さだ。

かつて機能していた徒弟制度は、現代の労働法規との間に大きなかい離が生じている。未経験者を雇い、技術を習得させるまでの数年間、最低賃金や労働時間を遵守しながら育成を続けることは、小規模な窯元にとって極めて重い負担になる。結果として、多くの工房が家族経営の範囲にとどまらざるを得ない。

行政の支援策と現場のニーズにもずれがある。国の補助金制度の多くは事業規模の拡大や売り上げの増加を前提としているが、現場が本当に求めているのは技術の確実な継承だ。規模の拡大より自身の成長と一期一会の経験を望む職人にとって現行の制度は使いにくく、一部では補助金に依存した持続性の低い事業運営が常態化するリスクも抱えている。

こうした課題を前に、鬼丸さんがまず手をつけたのは組織そのものの改革だった。陶器組合の意思決定層を65歳以下に制限し、10年後の業界を担う世代が自ら方針を決定する体制を提案した。さらに、地域に大学を誘致する活動や、音楽家を滞在させて文化を根付かせるプロジェクトなど、行政の枠組みを超え、外部からの新しい風を地域に取り込む民間主導の地域づくりを行なっている。地域全体が活気づき、住民が陶芸と一緒に地域の発展を目指す環境と流れを整えることが、結果としてその地に根付く工芸の持続可能性を高める。いつの時代も地域の協力無しでは伝統工芸は成り立たないという考え方なのである。

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小石原焼伝統産業会館
小石原焼伝統産業会館

パリで見た「世界の組み方」、ベトナムで証明した仮説

国内市場の縮小を見据え、鬼丸さんは30代でヨーロッパ市場への展開を始めた。パリでの個展やギャラリーとの契約を通じて、世界のビジネスの最前線に身を置くなかで、ある構造に目が留まった。アパレル業界のトップデザイナーたちが、多様な文化的背景を持つスタッフ(専門家)を集め、世界で売れる世界共通の価値観を元に商品を開発している会社組織つくりの手法だ。

そこから、日本の伝統工芸品が海外で評価される本質的な理由について一つの仮説を立てた。単なるデザインの良し悪しだけではない。木の灰を用いた釉薬、伝統的な材料の精製手法、薪窯での焼成。自然由来の製法が生む不規則なゆらぎが、人に本能的な安心感を与えているのではないか。

この仮説を実証する機会は、思わぬかたちで訪れた。JICAのプログラムを通じてベトナムの陶器産地に赴き、現地の土壌と環境に最適化した窯の設計と技術指導を行った。大型陶器制作と熱効率の良くない窯の構造による陶土や薪といった資源の枯渇リスクを回避しながら、付加価値の高いものづくりへの転換を支援した結果、現地職人の収入は大幅に向上。その影響は観光客を呼び込むインフラ整備にまで波及し、地域経済全体の活性化につながった。

海外での交渉術にも独自の哲学がある。相手の服装や持ち物から価値観を読み取り、環境保護や地域経済の活性化といった相手の利益に直結する提案から入る。職人としての技術力だけでなく、こうしたビジネスコミュニケーションの精度が、海外展開の成功を支えている。

陶器スピーカーをつくる。九州大学との異色の共同研究

40歳を機に、鬼丸さんは活動の重心を個人の創作から業界全体の価値向上へと移した。素材研究では植物の原種(古代種)に着目し、品種改良されていない植物の灰が釉薬の品質に与える影響を検証。このアプローチから生まれた器は、著名な料理人からも高い評価を得るほどの違いが確認された。

異業種との連携も積極的に進めている。九州大学との共同研究で開発したのが、陶器製のオーディオスピーカーだ。粘土が持つ音響特性の優位性を科学的に数値化し、エビデンスに基づく製品化を実現した。このスピーカーはヨーロッパのオーディオ研究者が集まるミーティングでも高く評価され、ヨーロッパの美術館での展示・販売にもつながっている。

地域の赤土が持つ高い耐火度と鉄分を生かした陶器製ワイングラスも開発した。ワインの香りを引き立てる形状と素材の機能性がフランスの専門家に認められ、国内外のミシュラン星付きレストランや公的機関のレセプションで採用されている。現在は、陶器の調湿性を生かした建築プロジェクトも構想中だ。湿度を自然にコントロールできるレンガ造りの空間を通じて、地域資源の新たな活用を模索している。

これらの研究開発に共通するのは、外部に丸投げしない徹底した現場主義だ。自ら足を運び、一次情報を集め、過去の成功体験に甘んじない。危機感を常に持ち続けることが、次々と新しい領域を切りひらく原動力になっている。

陶器スピーカー「BREATH」
陶器スピーカー「BREATH」

「謙遜は美徳だが、黙っていては伝わらない」

高取焼振興会の代表として、鬼丸さんは若手育成と業界の意識改革にも力を注ぐ。伝統工芸の世界で散見される、家柄や歴史といった既存の権威への依存。それを明確に否定し、改めて問いかける。先人から受け継いだ遺産を誇るのではなく、その技術で現代社会にどんな価値を届けられるか。過去ではなく未来を語れるかどうかが、これからの職人には問われている。

日本の伝統的な美徳とされる謙遜が、ビジネスの場では障壁になることも指摘する。自分の技術や実績を正確に、自信を持って発信しなければ、グローバルな市場で対等な交渉はできない。事実に基づく明確な主張と、相手の価値観を理解した論理的な提案が、新たな事業機会を生む基盤になるという考え方だ。

長期的な目標として掲げるのは、モロッコでの工房設立。文化的な成熟度が高いパリ・ロンドンの近郊に拠点を構え、世界をリードする文化人と交流を促進する事で、日本の工芸家が世界市場へ出ていくための実践的なプラットフォームをつくる計画を進めている。

さらに、福祉の観点からも陶芸の可能性を探り始めた。粘土に触れることが人の心理状態や心拍数にどう影響するかを科学的に証明し、高齢者施設や障害者支援の現場で活用する構想だ。つくって売るだけではない。社会課題の解決に寄与する、工芸の新しい役割を定義しようとしている。

常に新しい事業領域を切りひらき、伝統工芸が持つビジネスとしての可能性を提示し続けること。それこそが、次の世代への最大の継承になる。鬼丸碧山さんの歩みは、その信念を行動で証明し続けている。

ベトナムフーラン村で安南焼の復興
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#職人#福岡#高取焼#小石原焼#技術#歴史#文化#伝統#継承#地域活性化
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