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1mm単位でコンセプトを追求 アトリエ小倉染芸の考える、東京手描友禅の魅力とは?
2024.08.25
1mm単位でコンセプトを追求 アトリエ小倉染芸の考える、東京手描友禅の魅力とは?

東京都新宿区

アトリエ小倉染芸
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1mm単位でコンセプトを追求 アトリエ小倉染芸の考える、東京手描友禅の魅力とは?
吸い込まれるような細かな絵柄、深い色合い。思わず見惚れてしまうほどの品のある作品が、東京都新宿区にあるアトリエ小倉染芸の東京手描友禅の特徴だ。
東京手描友禅は、手描きであるが故にたった1mmの線にまでこだわることができるという。
今回はアトリエ小倉染芸の小倉隆さんにお話を伺い、東京手描友禅の歴史や魅力、作品に込める想いについて伺った。

洗練されていておしゃれな東京手描友禅の特徴とは?

東京手描友禅の歴史について教えてください。

そもそも友禅染とは京都で生まれた技法で、江戸時代の扇絵師・宮崎友禅が描く扇絵を小袖に応用したことから友禅模様が流行し、やがてその模様をあらわす染色技法を友禅染と呼ぶようになりました。
それまでは着物への装飾は絞り染めや刺繍が用いられていましたが、友禅染が開発されたことで装飾に輪郭が生まれ多くの色を使うことができるようになりました。

京都で生まれ広まった友禅染は、やがて参勤交代によって大名がお抱えの染師を江戸に連れてきたことで江戸にも浸透。1800年代にはその技術が根付いていたといいます。
また加賀友禅に関しては、宮崎友禅斎本人が金沢へ移り住んだ際、その技法を伝えたのではないかと言われています。

3つの友禅には、それぞれ特徴があります。
まず京友禅は、御所の周りで育つ季節草花を描く「御所時」という模様や松竹梅など、伝統的な絵柄が特徴的です。多くの色が使われるのも特徴のひとつですね。

加賀友禅は、植物や鳥といった、いわゆる花鳥風月を写実的に描写する特徴があります。そこにぼかしを入れ、印象的に仕上げます。

対して江戸の友禅、つまり東京手描友禅は、絵柄にこれといった特徴がなく、色に関しては、色数が少なくすっきりしたものが東京手描友禅の特徴といわれています。

これは江戸時代の後期に、幾度となく奢侈禁止令、つまり贅沢禁止令が発令されたことが理由です。それによって、着物に用いられる色数が制限され、華美なものが着られなくなりました。

そのなかで江戸の町人たちは、1色の中に柄を仕込んだり、裏地に絵柄をつけたりといった着物の楽しみ方をするようになりました。こうした楽しみ方から、洗練されておしゃれなものを「粋」と表現するようになったとされています。

とはいえ現在は京都や加賀で修行をして東京で活動している作家も多いので、一概には特徴をまとめきれません。染師の個性が出ることが、東京手描友禅のおもしろさかもしれませんね。

90年以上、3代の歴史を誇るアトリエ小倉染芸 特徴は品のある仕上がり

そうした東京手描友禅の歴史があるなかで、アトリエ小倉染芸はどのようにして事業を展開されてきたのでしょう?

事業を始めたのは祖父・小倉玉鳳です。90年以上前、創業当初は神田川の目の前に居を構えていたそうですが、戦争で焼けてしまい、現在の地に移転しました。

私が生まれる前に亡くなっており会ったことはないのですが、祖父は芸者の方に向けた友禅を手がけていたそうです。
これは私の憶測ですが祖父は展開的な飲兵衛で、宵越しの銭を持たないという方だったといいます。そうした背景から芸能の世界にも興味があったのかもしれません。

やがて2代目である私の父・貞右の代になると、今度はお茶をされている方へ向けた作品を創るようになりました。父は家を継ぐ前、緻密で細かい絵柄を描くのが特徴の京都の友禅の名家へ修行に出ており、その影響があったのだと思います。

父が2代目となったのち、バブル崩壊後は取引先との取引が途絶え苦しい時期もありましたが、百貨店さんとの取引を始めたことで持ち直し、今は私が3代目となって活動しています。

小倉染芸では、染料の色の良さと糸目の美しさを引き出す独自開発した渋黄色の糊を使っています。こうすることで染料と糸目、それぞれの素材の良さを引き出すことができるのです。

そうして素材の良さを生かしながら必要な絵柄だけをシンプルに描くことで、落ち着きの中に華やかさがある、品のある仕上がりとなります。
着る物と、着ていただく方が揃ってはじめて完璧な美しさとなるよう、着物や帯の柄は、極力無駄な部分をなくして引き算を心がけているのです。

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「自分がデザインした物を売るのは楽しいぞ」原点にあるのは恩師の言葉

小倉様がアトリエ小倉染芸の仕事を始められたのはいつからなのでしょうか?

私が家に入ったのは27歳のころ、今から約20年前のことです。
私はデザインが好きでデザインの仕事に就きたいと考えており、前職は「スポーツに関わるデザインがしたい!」とスポーツ用品店で働いていました。

ただもともとはデザインというより、自分のセンスで仕事をしていきたかったというか、自分が必要とされる仕事がしたかったのです。
そうして高校生のころに服に関心を持つようになったことからデザインのおもしろさを知り、デザインの仕事に就くことを目指すようになりました。

一方で私は学生のころからとてもスポーツが好きで、たとえば大学ではずっとスノーボードに力を注いでいました。そうしてデザインとスノーボードをはじめとしたスポーツを掛け合わせて考えた際に、自社でスポーツ用品もてがけようとしていた前職が就職先として浮かび上がってきたのです。

ただ会社は組織ですから、希望の仕事ができるとは限りません。そのためデザインに携われない可能性もあることから躊躇もしていました。
でもそんなとき大学の先生に「他人のデザインした物を売るのは楽しいけど、自分がデザインした物を売るのはもっと楽しいぞ」と声をかけていただいて……。
その言葉が大きな後押しとなり、前職のスポーツ用品店に入社しました。ある意味、現在にも通ずる私の原点といえる言葉かもしれませんね。

就職したスポーツ用品店には数年間勤務し、転勤も重ねながら順調にステップアップ。最終的には店舗の副店長を務めていました。しかしあるとき、会社の方針の転換で自社製品のデザインをアウトソーシングすることとなったのです。
必然的に私の夢も叶わないことが決まってしまい、今のままでいいのかと、仕事について考えるようになりました。

父に相談すると父の仕事、つまりこのアトリエ小倉染芸の仕事について教えてくれました。
東京手描友禅は日本古来のデザインと考えられること、そしてデザインに集中できる環境を整えやすいということ。父からさまざまな話を聞き、考え、私は家に入ることを決めたのです。

一方で父は複雑な想いを抱いていたようです。
職人としては文化の継承のため、後継者を育てたいと思いつつ、父親としては息子である私に安定した仕事についてもらいたいとも思っていたようでもありました。
ただでさえ市場が縮小しているなかで、先ほどもお伝えしたバブル崩壊時のような大きな変化が起こってしまったらどうするのか?そんなことを考えてくれていたようです。

そういった背景から「家に入る」と伝えた際、父からは「何かあったときのために、1年働いてお金を貯めてこい」と言われました。
そしてその1年後、27歳で、私は家に入ったのです。

代表作の訪問着 きっかけは「東京を表現したい」という想い

現在は一人の東京手描友禅の職人として活動されているのですね。

そうですね。家に入ってから5年ほどは、いわゆる下積み時代でずっと草花や動物のスケッチをしていました。友禅は写実的に物を描けなければ始まらないので。

ただその5年間はしんどかったですね。
同世代の職人は高校を出てすぐに修行を始めるので、その遅れをどうにか取り戻したくて。でも私は基礎が身についていなかったので、スケッチから始めなければいけなかった。
苦しかったですね。

現在に至るまで多くの作品を制作されてきたかと思います。もっとも印象に残っている作品についてお伺いしたいです。

2021年にイメージやデザインの原案を作り、昨年制作、完成した訪問着です。
2021年は東京オリピックがあった年で、その際、東京で活動する一人の人間として「東京都とは?」ということをずっと考えていました。
友禅において東京は産地のひとつです。ではその産地の特徴はなんなのか?

江戸で友禅が栄えたころ、同じ産地である京都や金沢との交流は現代よりもはるかに難しいものでした。そうであるにも関わらず江戸の文化は、他の地域にも大きな影響を与えています。
そうやって醸成されていった江戸らしさとはいったいなんなのだろうかと考えました。

ただ江戸が東京となった現代では、良くも悪くも個性がないといわれています。さまざまな地方から人が集まり、東京出身・東京育ちという方は意外と少ないからです。かつて江戸時代に醸成された文化は、限りなく薄まっているといっても過言ではないでしょう。

でも私はこの状態こそが、現代の東京らしさなのだと考えました。かつてあった文化が土台となり、地域・国を超えた多様な文化が混ざりあい、一つの形となっている。
そう考えたとき、そのコンセプトを表現した自身の代表作を作りたいと思ったのです。

この訪問着の制作期間は5ヶ月ほどでした。
全体にはグレーを5色、朱を2色、そして茶を2色用いて、落ち着いていながら寂しさのない、複雑な色味を作りました。
また模様には、着物によく用いられる日本ならではの雪輪紋様と、かつてヨーロッパに旅行に行った際にスケッチしたタイルの柄を参考にした模様を、それぞれ用いています。
モダンでありつつもシンプルな「粋」を表現した訪問着にできたのではないかと思っています。

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染師の個性を自由に発揮できる 目指すは期待を超えた“粋”

小倉様から見て、東京手描友禅の魅力とはどういったものがあるのでしょうか?

どんな表現も受け入れられる幅の広さでしょうか。
東京手描友禅は文字通り手で描くので、型通りではなく、すべてが自分次第です。

そのため「この模様は小さくしよう」、「この模様は少し凹ませよう」といった調整ができるのです。たった1mm線を内側に描くだけでも印象が変わりますし、たった一滴の染料を垂らしただけでも色味はガラリと変わります。
過去には異国の植物を描きつつ、ぼかしを加減し松に見えるようにして友禅らしさを演出したこともありました。
東京手描友禅はそういった、染師の個性が表れる点が魅力だと思っています。

そうやって個性を駆使し目指すのは、お客様や自分の期待を超えたカッコ良さ、粋を生み出すことです。ある意味「粋」の精神は、私の芯にあるものだといえるかもしれません。
図面を描くときには、羽織って、実際に着るところをイメージしながら細かく調整していく。
そうして生み出された世界に一つだけの着物は、きっと着る人の生活を良くするものになると思っています。

おしゃれな服を着て出かけたときに、うれしい気持ちで過ごせる。好きなアクセサリーをつけているから頑張れる。
海外には「良い靴は履き主を良い場所に連れていってくれる」ということわざがありますが、身につけるものには生活を良くする力があると思っています。ましてや、着物は日本代表する民族衣装ですから、その特徴はもっと強まるはずです。

こういった考えを込めて、私は自身の理念を「洋服では味わえない、特別な日常」をという言葉にまとめています。
東京手描友禅が描かれた着物を着て、良いことを感じていただきたい。ワクワクしていただきたい。そのために、着物を着られるお客様の期待を超える「粋」を表現したい。
それが私の大切にしている想いです。

一日一日の積み重ねがこれからに繋がる

最後にこれからについて教えてください

実はこれからについてはあえて考えないようにしているのです。反対に、一日一日を大切に過ごすことはとても大切にしていますね。

サラリーマン時代と違ってこの仕事において、毎日どのくらい働くかを決めるのは自分自身に他なりません。
だからこそ5年後、10年後の自分を決めるのは、今日の自分の頑張りだと思うのです。
毎日、一生懸命、100%、いや120%の力を出し切ること。そしてそれを積み重ねていくこと。
それこそが私の考えるこれからですね。

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Text by タカハシコウキ

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