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福井洋傘が目指す“世界で一番やさしい傘”
2026.02.04
福井洋傘が目指す“世界で一番やさしい傘”

福井県福井市

株式会社 福井洋傘
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橋本 肇

代表取締役社長 福井洋傘。日本でしか造れない傘を追求し、伝統技術と新しい素材開発を組み合わせたものづくりを行っている。

福井洋傘

骨組みの設計・生地裁断・縫製・組み立てまでを手作業で行い、骨数を増やして丸みのある形状を作る工程が特徴。素材には高密度ポリエステルやカーボンファイバー、セラミックス繊維などを使用し、軽量性と耐久性、撥水性を高めている。雨傘や日傘として使用され、快適な使い勝手と高い機能性を備えた生活道具として用いられる。

かつて福井から石川にかけて860社以上が軒を連ねた洋傘産業。現代では唯一の生産拠点となった福井洋傘は、産業を残すためではなく新しい傘文化をつくるために研究開発を続けている。
福井洋傘が目指す“世界で一番やさしい傘”
かつて福井から石川にかけて860社以上が軒を連ねた洋傘産業。現代では唯一の生産拠点となった「福井洋傘」は、ただ産業を残すためではなく、“新しい傘文化”をつくるために日々研究と開発を続けている。天然素材の伝統技術から、カーボンやセラミックスを用いた革新的な構造まで──創業50年の歴史を受け継ぎながら、使い手に寄り添う傘づくりを探求する代表・橋本肇氏に、その思想と未来像を聞いた。

洋傘の産地としての福井──860社から“最後の1社”へ

福井洋傘の歴史は、地域の暮らしと深く結びついている。創業は昭和47年。冬になると仕事がなくなる農家の女性たちに内職を生み出すため、洋傘づくりを導入したのが始まりだった。当時、福井・鯖江周辺は繊維産業が盛んで、傘生地の調達にも適した土地柄。こうして地域産業としての傘づくりが根づいた。

しかし時代が変わり、洋傘メーカーの多くは生産拠点を中国へ移す。大量生産・低価格化の波に押され、多くの工場が姿を消した。福井洋傘も例外ではなく、OEMの仕事がすべてなくなる局面に直面する。それでも創業者は、「ゼロになったら復活できない。どこか1社だけでも残らないといけない」と踏みとどまった。

仕事が途絶えた工場に残ったのは、職人が積み上げてきた技術と、地域に根ざしたものづくり精神だった。やがて「品質で勝負するしかない」と覚悟を固め、同社は独自ブランドの傘づくりへと舵を切る。

生地を裁断するために使用する型。傘ごとに使い分けをしている。
生地を裁断するために使用する型。傘ごとに使い分けをしている。

“儲からないものをつくる”という逆転の発想

ブランドづくりの第一歩は、徹底的な品質追求だった。洋傘業界が軽量化と低価格化に走る中、あえて逆方向へ進んだ。「軽くしたいから骨を減らす」という常識を捨て、伝統的な蛇の目傘のように骨数を増やし、丸く美しいシルエットを追求したのである。

その背景には、代表・橋本氏独自の美学がある。かつて音響の世界に身を置いていた彼は、「完璧な音色のスピーカーには歪みのないシルエットが必要」という経験則を傘づくりに重ねた。開いたときの姿が美しくなければ、本当の意味で“良い傘”ではない──その哲学が、職人技の方向性を決定づけた。

当然、効率は悪くなる。材料費も、手間も増える。だが橋本氏は言い切る。

「資金力のある企業が大量生産で勝つ領域では戦えない。だからこそ、他のメーカーがやりたがらない“儲からない傘”をつくる。それが僕らの存在意義なんです」

その覚悟が、同社のブランドを唯一無二のものへと押し上げていった。

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一本一本手作業で制作が行われる
一本一本手作業で制作が行われる

使い手の声から生まれる技術革新──ヌレンザ、なつめ、ユニバーサルデザイン

福井洋傘の革新は、常に「使い手の困りごと」から生まれる。象徴的なのが超撥水傘「ヌレンザ」だ。

きっかけは「電車で閉じた傘がぬれて迷惑」という“苦情”だった。この声を受け、従来の撥水加工ではなく、「生地そのものがぬれない」という構造を探求。繊維メーカーと協力し、数々の試作を経て開発した。しかし完成前にメディアが殺到し、大きな注目を浴びる。発売予定を報じられ、引くに引けなくなった中で誕生した傘である。

一方、世代や体の状態を問わず、誰もが無理なく扱える傘を目指した開発を続けてきた。日光アレルギーの相談から生まれた日傘「なつめ」、握力の弱い人や指先に障害のある人でも扱えるユニバーサルデザインの持ち手など、ユーザーの声に耳を傾けてきた。素材開発にも挑み、紫外線を遮るセラミックス繊維や、空気を浄化する備長炭コーティングなど、多岐にわたる研究を進めている。

「あらゆる人に心地よい使い勝手を届けるデザイン。それがものづくりの基本です」

その言葉に、工芸と技術が共存する同社らしい視点が息づいている。

ヌレンザ
ヌレンザ

伝統と先端技術の融合──福井の地場産業を束ねる傘

福井洋傘の強みは、地域の多様な産業技術を“傘”という一つのプロダクトに統合できる点にある。鯖江のメガネフレームで培われたカーボン加工技術、河田地区の漆器の塗り技術、福井繊維の高度な織りと染色。これらを掛け合わせて生まれた同社の傘は、工芸品でありながら最先端素材の集合体でもある。

とりわけカーボン骨の開発は象徴的だ。自社で裁断をし、鯖江市のメガネフレーム技術を応用し骨組を組み立てていく。中棒(シャフト)までカーボンファイバー製になっており、軽量で強靭な骨組となっている。また、高密度ポリエステルを使用し、「ハスの葉」のような超撥水能力を再現した「ヌレンザ」がレクサスコレクションに採用された。高級車のレザーシートをぬらさないため、傘に求められる耐水性・耐久性は極めて高い。そこで同社は生地の平面構造を調整し、接地面積を減らすことで“ぬれにくさ”を実現した。

橋本氏は言う。

「伝統は古いものを守る行為ではない。昔からの技を土台に、現代の最先端技術を融合し、次の時代へつなげること。守るだけでは、それは古典になってしまう」

その言葉どおり、福井洋傘の傘は、伝統の技を核にしながら進化を続けている。

骨組み1本にもこだわりを持って制作している
骨組み1本にもこだわりを持って制作している

傘を文化に──次世代へつなぐ“傘の村”構想

今、橋本氏が見据えるのは、単なる企業の成長ではない。「傘という文化そのものを残すこと」。そのために、地域に点在する工房や職人を束ね、「傘の村」をつくる構想を描いている。

すでに海外の織物作家との交流や、地域住民の活動「盛り上げ隊」と連携した展示など、外に開かれた地域づくりを実践している。「傘の村」が実現すれば、若い職人が集まり、技術を学び、世界へ羽ばたく循環を生むことができる。北陸の地で、スイスの時計工房のような“職人の聖地”をつくりたい──それは、産地が消えゆく時代に生き残ったからこそ描ける未来像だ。

大量生産・大量消費が前提となった時代にあって、福井洋傘の姿勢は一貫している。「傘だけは、いいものを持ってほしい」。その想いを実現するために、伝統技術と最新の素材研究を掛け合わせ、使い手の小さな痛みに耳を澄ませる。

橋本氏が語る「傘は文化である」という言葉は、単なる比喩ではない。生活の道具を超え、工芸と技術の粋を結集し、人と地域をつなぐ存在として、一本の傘が静かに輝いている。北陸の小さな工房で生まれるその光は、今日も新たな文化を照らし続けている。
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