

ものづくりに携わっていることが誇り
御社が創業した経緯を教えてください。
弊社は、1793年に創業しました。漆琳堂の創業家である内田家は代々「漆掻き」という漆の原料の収集を生業とし、4代当主が漆塗り業をはじめました。現在は8代目である私が伝統ある漆塗りの技を受け継いでいます。
一般家庭用の漆器と合わせて、旅館や飲食店で使う業務用漆器などの製造も行っています。
また、金継ぎなどお椀の修理も行っており、曹洞宗の大本山「永平寺」の修行僧が使う漆器「応量器」の修理も担当してまいりました。
誰かが使う器を作っていることもあり、器に温かいお汁や料理が入った、会話が弾む和やかな食卓を想像しながら丁寧にものづくりをしています。
御社の一般家庭用の漆器は、現代の生活に合う色や機能性を意識されているように感じます。
カラフルな漆器を作ったのは、若い世代の人たちにも手に取っていただきたいという思いがあるからです。もともと漆器は代々受け継いで使われることが多いのですが、日本では核家族化が進んだり、単身者が増えたりしているのでなかなか若い世代まで届きません。“若い人にどのように手に取ってもらうか”が課題なんです。
そこで、弊社ではカラフルな漆を調合し、いろいろな料理を盛り付けるイメージを持ってもらえるような漆器作りをはじめました。若い世代の方にも手に取っていただけるようになりましたし、漆器をよく使う方からも、「こういう漆器を使ってみたかった」と好評をいただいています。
食洗機対応の漆器も作られていますね。
漆器は耐熱温度が75〜80度と言われており、食洗機には入れられませんでした。しかし、お客様から「食洗機で洗えたらいいのに」というお声が多かったことがきっかけで、食洗機で洗える漆器を開発したいと考えるようになったんです。福井県と福井大学との産学官連携で、漆の塗膜の耐熱性と耐久性の研究をはじめました。
漆器が食洗機にかけられるかどうかの基準は世の中になかったので、自分たちで洗浄試験を1,000回行いました。食洗機にかけたとき、漆の塗膜から溶出するものがあってはいけません。そのため、私たちが使っている漆は120度まで耐えられるようにしています。一般的な漆の1.5倍ほどの強度と、2倍の硬度を持たせているので、陶器やガラス食器などとぶつかっても凹みにくいです。
漆は温度と湿度の影響を受けて固まってしまうので、職人さんが塗りやすいように漆屋さんが成分を調整してくれているものもあります。しかし、調整された漆は塗膜がだんだん弱くなってしまうんです。
そんななか、弊社が使っている漆はまったく調整をしていません。一定の温度と湿度を保ちながら塗ることで品質を担保しており、これは私たちの技術だといえます。
内田さんは、小さい頃から家業を継ごうと考えていたのでしょうか?
もともとは継ごうと思っておらず、学校の先生になろうと県外の大学に行っていました。家業に興味を持ったのは教育実習のために地元へ戻っていたときで、両親が仕事をする姿を見たのがきっかけです。子どもの頃から漆器製造の仕事を見てきたつもりだったのですが、そのときに改めて具体的な仕事の流れを知ったんです。
「学校の先生は天職だ」とよく周りから言われていたので「いい職業だな」と思っていましたが、仕事の裁量や自由度という観点で改めて考えてみると、会社は自分次第で良くも悪くもできることを知り、「自分で頑張ってみよう」と思い、家業を継ぐ決心をしました。
以前は「職人ってあまりいい職業じゃないな」と思っていたのですが、今はものを作る技術を持っていることが誇りです。というのも、この業界に入ってから25年経ち、職人さんがどんどん減ってきています。“ものを作れることは特別なこと”という世の中になるとは思ってもみませんでしたが、こうした世の中の流れもあって、ものづくりに携わっている喜びを改めて感じています。

職人に求められるのは、“質”だけではない
越前で漆器製造が盛んになった理由を教えてください。
気候や文化的なつながりが関係していると思います。漆を硬化させるには、温度と湿度が非常に重要です。福井県は雨が多いのですが、湿気があることで漆が固まりやすくなるので、漆器製造に適した環境だといえます。また文化的な面では、浄土信宗や戦国大名の一乗谷朝倉氏などとのつながりから漆器が根付いたのだと思います。
越前漆器の産地としての特徴は、分業制が進んでいることと、業務用漆器の国内シェアが80%であることです。たくさん納品しなければならないため、戦後に分業がどんどん進んだという背景があります。
分業が進んでいくにつれて漆器製造に携わる工房が増えて、今は200軒ほどの工房があります。漆器の産地は国内にいくつかありますが、福井県は一番古い産地だと思います。
越前漆器の製造工程を教えてください。
木地製作、下地、塗り、加飾と大きく4つに分業されています。漆器の質は、下地で決まります。理由は、下地が堅牢でないと変色や変形などを起こしてしまう可能性があるからです。品質の変化の原因は下地にあることが多いので、下地の工程は特に重要です。
塗りの工程では、ホコリやゴミがつかないように注意しなければなりません。塗膜にホコリがつくと流通に出せなくなってしまうので、作業の際には気を遣います。
ホコリやゴミを入れないようにするために、工夫していることはありますか?
漆は、おおよそ1桶(約4キロ)単位で購入しています。購入したときには木の皮や土に含まれている成分などは除去されている状態ですが、使っていくうちに空気中のホコリが入ったり、固まった漆の破片が混ざったりします。そのため、毎朝必ず濾す作業を行っています。
また塗りに使った刷毛も、そのまま置いておくと固まってしまうので、使った後は油分を加えて固まらないようにしています。ただ、次に使うときに油分が残っていると漆を弾いてしまうので、使う前に油分をきれいに除去しています。これも、丁寧に行わなければならない作業です。
職人さんのなかには、自分に合う道具を作って使っている人もいると伺ったことがあります。
なかにはプラスチックが使われているような道具もありますが、越前漆器製造にはそのような道具はほとんど使われていません。たとえば、私たちが使っている刷毛には人毛が使われています。
漆は粘度が高いので、ぎゅーっと押し伸ばすように塗ります。そのため、刷毛にはある程度のコシと硬さが必要です。ペンキ用の刷毛や習字用の筆、豚の毛やしっぽ、馬のたてがみなどいろいろなものを自分で試しましたが、どれもダメでした。人毛以外に最適なものは、今のところないと思っています。
日本人の髪の毛はとても良質なのですが、毎日シャンプーやリンスをするようになったため、刷毛には向かなくなっていました。ただ、技術が進化し、最近はまた日本人の髪の毛でも作れるようになったようです。自分の髪の毛で作ったらどうなるのか気になり、私も特注で刷毛を作ってもらっているところです。
職人さんは、どのくらい経験を積めば“一人前”といえるのでしょうか?
経験を10年積んでいる人でも、習得度は6〜7割ほどだと思います。職人として会社に入るとどうしてもある程度の量を作ることを求められるので、塗る作業を習得できるかというよりも、量をこなせるかが重要になります。
たとえば、1日1個きれいに塗るのは美大や芸大の学生でもできるかもしれませんが、その子が1日100個塗れるかというと塗れないと思います。職人は、いかに工夫して一つでも多く塗るかを考えなければいけません。一人前といえるレベルになるには、長いと20年ほどかかると思います。

漆器の魅力を広げるために、新しい融合を
内田さんが考える、産地の課題を教えてください。
原料は年々価格が高騰していますし、価格転嫁がしづらい業種でもあります。そのため、どう内製で取り組むかが課題だと思っています。
戦後から分業制が進み、高度経済成長で職人さんがどんどん増えて、作れば売れるという時代があったはずです。今はその頃に活躍していた職人さんがベテランになるとともに、高齢化が進んでいます。実際のところ、職人さんが減っているというよりは、高齢化が顕著になってきている印象です。
まだ大きな影響はありませんが、これから10年の間には後継者不足の問題も如実に出てくるのかなと思っています。また職人さんがおらず、できない工程も出てきてしまうと思うので、今のうちにどう対応するのかを考えておかなければなりません。
今後、作ってみたい作品はありますか?
弊社は業務漆器の製造をすることが多いので、料理屋さんや料亭さんにとって使いやすい器の提案をたくさんしてきました。一方で、一般のお客様向けの商品は、“私たちが考えるいいもの”を作ることが多くなっています。今後は、お客様から自由な発想でオーダーをいただけるような体制を整えていきたいと思っています。お椀の木地を挽く「木地場」を新設し、木地挽きを行う職人である木地師を雇用したのもそのための取り組みのひとつです。これによって漆塗りだけではなく、お椀の形からもっと自由にデザインすることができるようになりました。
越前漆器には1,500年の歴史がありますが、現代の技術は目まぐるしく変わっていきます。伝統技術を受け継ぎつつ、漆と新しい素材を組み合わせたり、漆と科学とを融合させたりできれば、もっと漆の魅力が広がっていくのかなと思っています。未来に漆を残していくためにも、是が非でもそのチャレンジを続けていきたいです。
私自身、最初は自分が技術を習得して塗れるようになればいいと思っていたのですが、今は若いスタッフにも技術を習得してほしいと思うようになりました。漆は、若い人とつながる道具のひとつだと考えています。一緒に仕事をする上で若い世代のスタッフともコミュニケーションを取りますが、その縁は漆がつないでくれているなと感じています。
Text by 奥山 りか









