



業界随一の腕前を持つ先々代の技術を受け継ぐ
龍泉刃物の歴史は、1901年にスタートした。増谷さんの祖父にあたる先々代が、刃付け業を営んでいたのがはじまりだ。
「会社を立ち上げたのは、2代目の父です。父はいろいろな鍛冶屋さんのもとで研ぎなどの仕事をしていたのですが、『うちでステンレス包丁を作ろう』と、ステンレス鋼を使用した包丁の研究・開発に着手したんです。ダマスカス包丁(木目のような波紋模様が特徴の包丁)と呼ばれる包丁の製造で事業を拡大していきました」
龍泉刃物では、伝統技法を基本にしたステンレス複合鍛造包丁の製造販売を全国に先駆けてスタート。これは業界初の取り組みだったそうだ。
「その後、2008年に兄が3代目社長に就任し、ステーキナイフやステーショナリーなど、製造する刃物の幅を広げていきました。私が4代目に就任したのは、創業70周年のときです」

越前には、刃先をはまぐりの貝殻のように丸みを持たせて研ぐ「はまぐり研ぎ」という技術がある。他産地には、両面をほぼ真っすぐ平らに研いだ状態で、小刃を付けている包丁もあるそうだが、そうすると摩擦抵抗を受けて食材が刃物に密着してしまい、切れなくなってしまうそうだ。
はまぐり研ぎは、それを防ぐ効果がある。しかし、本当のはまぐりの貝殻のように厚みがあると切れ味が落ちてしまうため、極力薄く、かつ丸みを持たせなければならない。
「先々代は越前打刃物の研ぎをしていたのですが、業界では随一の腕前だったと聞いており、弊社ではその技術を代々受け継いでいます。これは長年培われた、弊社独自の技術のひとつです。
近年は技術の発達により、機械でもある程度まで薄い刃物を作れるようになってきています。しかし、職人の目で一つ一つ鋼の状態を見極め、長年の経験により培われた高度な知識や技術で手砥ぎされたものは格段に切れ味が変わります。長期的に使うことを考えると、手研ぎされている刃物の方が切れ味が長持ちします」
龍泉刃物の越前打刃物には、長年の経験に裏打ちされた技術が詰まっている。その高い技術力で、長きにわたって伝統を支えているのだ。


世界から評価された“切れ味とデザイン”
龍泉刃物が生み出す刃物は、国内だけでなく海外にも愛用者が多い。海外に名を広めるきっかけになったのは、フランスで行われた「ボキューズ・ドール世界料理大会」にて日本代表をサポートしたことがきっかけだったという。
「ボキューズ・ドール世界料理大会では、ボキューズ・ドール仕様のステーキナイフを限定販売したのですが、開発当時、原価を試算していったところ、約2万円の売値になってしまいました。
海外にもいろいろなナイフがありますが、そこまで価格が高いものはなかなかありません。『開発しても売れないんじゃないか』とも思いましたし、シェフからの要望を叶えるのにも苦労しました。何度か挫折しかけましたが、好評をいただけるステーキナイフを作ることができました。
そのステーキナイフを使った審査員の半数以上の方が気に入って持ち帰ったことが、メディアで報道されたのです。それを機に、大きな注目を浴びるようになりました。また、同時期にオランダのナイフ販売店から取引の話をいただいたことも、転機のひとつになりました」
現在は15ヶ国に展開しており、特に各国の料理人から熱い支持を得ている。切れ味はもちろんだが、ハンドルの素材やデザインも人気の理由になっているそうだ。
「シェフの方からは、『このハンドルに変えてほしい』などの要望をよくいただきます。最近はオープンキッチンになっている飲食店が多いので、お客さんから見られたときに、スタイリッシュできれいなハンドルの包丁の方が見栄えがいいからではないでしょうか」

ハンドルの素材を豊富に取り揃えているのは、増谷さん自身のこだわりでもある。天然木がお気に入りなのだそうだ。
「天然木のなかでも、特にきれいな模様のものを使うようにしています。ただ、昔から和包丁でよく使われている白い木は、そのままハンドルにすると使っていくうちに水が染み込み、木の黒ずみが目立ってきてしまいます。
そうならないよう、弊社ではハンドルに特殊な樹脂が含浸されているスタビライズドウッドを使っています。水の染み込みを防げますし、カビも生えにくくなります。
また、100%樹脂のハンドルも用意しています。これも水が染み込まず、さっと拭くだけで汚れが取れるので、清潔な状態を維持しやすくなっています」
機能性と美しさが備わった同社の包丁は、あらゆる料理シーンで最高のパフォーマンスを発揮する。手にするたびに、そのこだわりと品質の確かさを実感できることが、プロの料理人からも愛される理由なのだ。

細部にまでこだわりが宿るブランドを目指して
龍泉刃物のダマスカス包丁は、刃のデザインも多様だ。なかには、ハンドルの根元から炎が立ち上がっているかのような模様が描かれているものもある。
「先が尖っている『切り付け』というデザインは、海外のシェフに人気です。また海外では和式の包丁が流行っているので、昔ながらのデザインの和ハンドルが付いている包丁を選ばれる方が多くなっています。反対に、日本では洋ハンドルのものを選ばれる方が多いです」
海外ユーザーは、硬い包丁を好む傾向もあるそうだ。また、いろいろな観点から調べた上で問い合わせをする人が多く、新素材の鋼材や研ぎ方などについて質問されることも多々あるという。

同社の刃物は国内外から注文が入り、現在は半年~1年待ちの状態だ。「手元に届いて箱を開けたときに、感動してもらえるようなものを提供するため、妥協したものづくりはしない」と増谷さんは語る。
「現状、越前打刃物の認知度はまだ低いですが、既存のお客さんからは高い評価をいただいています。今後はさらに認知度を上げ、産地内で重要視されるブランドへと成長させていきたいです。
弊社は、『包丁をきれいに仕上げればそれでいい』とは考えていません。包丁を入れる箱、それを入れる紙袋など細部にまでこだわり、『このブランドはすごい』と思っていただけるようになりたいです。その実現に向けて、しっかりと歩みを進めていきます」
国内外の多くの人々を魅了し続ける龍泉刃物。その妥協なきものづくりは、伝統工芸の新たな価値と可能性を提示し、現代に息づく工芸のあり方を再定義する存在となるだろう。


Text by 奥山 りか








