

父が愛した箔を絶やしたくない。20歳で決意した承継の裏側
最初に箔座株式会社・高岡製箔株式会社について、そして代表となられた経緯について教えてください。
会社を継ぐと決めたのは、20歳のときでした。
もともと金箔を扱う事業は、祖父が始めたものです。そのため幼い頃から家に金箔があるのが当たり前で、それが特別なものだとは思っていませんでした。祖父が初代社長を務めたのちは、父が2代目を務めました。
私は3姉妹の次女として育てられました。子どもの頃は、姉である長女が家業を継ぎ、3代目となるものだとばかり考えていました。
しかし姉はあるとき「自分のやりたいことをやる」と決意し、家業を継がないと宣言したのです。それを聞いた瞬間私は、「私がやるしかない」と覚悟を決めました。
当時の私は、金箔に特別な感情があったわけではありません。しかし子どもの頃から、父が金箔や会社に対して深い愛情を注いでいる様子を見てきました。父にとって金箔と、それを事業として展開する会社は大事な存在でした。
だからこそ、その愛を知っている者として、私は会社を絶やしたくなかったんです。
入社してからは「まずは金箔を好きにならなければやれない」とさまざまな行動をしました。身近なものに金箔をはってみたり、歴史を掘り下げてみたり……。
幸い、すぐに金箔が唯一無二の素材であることに気づき、またその金箔で挑戦し続けられることは幸せなことだと感じるようになりました。
金箔製造はかつて、職人が自宅で行うものでした。
問屋が金のインゴットを仕入れ、職人がそれを金箔にし、それを問屋が販売するというスタイルが主流でした。弊社もそんな問屋のひとつだったのです。
しかし時代が経つにつれ、宗教離れによる需要の落ち込みや社会のライフスタイルの変化により、職人の数は減少していきました。かつては1,000人以上いた金箔職人は、今では業界全体でも50人程度に。さらにその中でも高齢化が進んでいます。
そこで弊社では、従来の仕組みを見直し、職人を社員として雇用することも同時に推進。持続可能な生産体制を築く取り組みを進めています。

伝統的な「縁付金箔」、現代的な「断切金箔」
金箔には2つの製法があると伺いました。
金箔には大きく分けて「縁付金箔(えんつけきんぱく)」と「断切金箔(たちきりきんぱく)」の2種類があります。また製法の違いは仕上がりにも影響を与えます。
縁付金箔は、半年もの時間をかける伝統的な製法で作られる金箔で、2020年にはユネスコの無形文化遺産に登録されました。
この製法では専用の和紙に藁の灰汁や卵白、柿渋を含ませ、金箔を打つ機械で空打ちし、半年かけて仕込みます。こうして出来上がった和紙は、通常の和紙よりも強靭になり「箔打紙」と呼ばれます。
この箔打紙を用いることで、職人は1万分の1ミリという極限の薄さまで金を引き延ばすことが可能となるのです。
「箔打紙」は何度も使う、いわば大切な仕事道具のような存在です。そのため昔の箔職人は「もし火事になったら、箔打紙を持って逃げろ」と言われていました。祖父の話によると、箔打紙には花街の女性の名前を記しておき、使い終わった後はあぶらとり紙としてプレゼントしていたという、素敵なエピソードもあったようです。
規定の薄さに延ばされた金箔は、竹の道具で切り揃えられます。そして、最後に金箔よりも少し大きな和紙である箔合紙にのせられて、完成を迎えます。
最終的に金箔に和紙の縁がついて見えることから、この製法は縁付金箔と呼ばれるのです。
こうして出来上がった縁付金箔は、一枚一枚職人が叩いて仕上げたことから、とてもしなやかで、面にはった際はふわりと包み込むように定着します。
一方で断切金箔は、昭和40年代に登場した業界の中では新しい製法です。量産に向いており、2週間ほどで金箔を作ることが可能です。
断切金箔では、カーボンの箔打紙を用います。金を金箔となる状態まで引き延ばし、箔合紙と交互にのせていきます。イメージとしては、箔合紙と金箔のミルフィーユに近い状態でしょうか。
そして一気に断ち切ります。縁付金箔とは対照的に、断切金箔の製造で用いるカーボン紙は一度の使い切りです。
一気に打ち延ばすため、面にはった際は放射状の線が出やすくなります。
用途によっては違いが生まれない場合もありますが、長年金箔を扱ってきた職人にとっては、はられる場所によってはしなやかさに大きな差があるのです。
金箔の歴史を振り返り、価値を見つめ直す
金箔事業の近年の状況や高岡様の思う価値について教えてください。
近年、金箔の需要は落ち込んできています。
これまでの大口市場だった宗教市場が宗教離れにより勢いが弱まり、またより安価な選択肢を求めるように変わっていったからです。
その結果、金の装飾という目的でも、金の塗料が用いられるようになってしまいました。金箔は伝統工芸とはいえ伝統的工芸材料であるため、こういった市場競争的な課題に直面しやすいのです。
こうした状況の中で金箔の事業を続けていくには、金箔の価値を見つめ直す必要があると考えています。
歴史を振り返ると、金箔は単なる材料ではなく、特別な意味を持って使われてきました。
たとえば照明がなかった時代には、金箔が光を反射し、空間を明るくする役割を果たしていたといいます。また輝きを失わないという特徴から、極楽浄土の象徴として仏像や寺院に施されてきました。
金箔には人の心に作用する、精神的な魅力があるのです。それこそが金箔の持つ本質的な価値だと、私は考えています。
弊社が掲げている「“箔がそこにある”未来をつくる。」というビジョンは、そんな想いを言葉にしたものです。
無理やりに箔を使うのではなく、かといって鑑賞するだけでもない。かつての人々が箔に独自の価値を見出し活用していたように、現代だからこそ生まれる箔の価値を伝えていきたい。そして箔だからこそ、人々に愛されているという未来をつくりたいんです。
現代だからこそ生まれる箔の価値とは何なのか。
その問いに対して日々、従業員たちやステークホルダーの皆さんとお話ししています。いろいろなアイディアが出ますが、やはり共通しているのは、箔は人の心を豊かにするものだということ。
それが具体的にどんなものであるかは、計り知れません。
しかし私にとって箔は、祖父、そして父が愛情を注いできた存在です。だからこそ、私は箔のために力を尽くしていきたい。
社長になると決めたときから、箔は、私にとっても愛情を注いでいく存在なんです。少し大袈裟かもしれませんが、私の人生は箔を繋いでいくためにあるんだと、いまは強く思います。

箔の可能性を広げるために 箔WORKSという挑戦
最後にこれからについて教えてください。
これからは、箔の可能性を広げることが重要となります。
箔の可能性は本当に無限大なんです。
薄く繊細な素材なので、例えば複雑な形の器もそのニュアンスすら拾い上げます。こういった箔の可能性を広げるために、現在は箔WORKSという新規事業に挑戦しています。
これは一言で言うと箔加工オーダーを行う事業です。
弊社の持つ独自の箔加工技術を、依頼者のクリエイティブなアイディアと掛け合わせたい。そして現代ならではの箔の価値を見つけていきたい。この事業はそんな想いから始まりました。
また、現在は市場を拡大させるべく海外展開を視野に入れています。
産業の歴史を振り返ると、革新というのは需要の増加に伴って起こった面もあります。そうした学びから、箔の需要を国外にも広げていく必要があると思うのです。
ただし、単に展示会に出展するのではなく、金箔の文化や歴史を共感できるパートナーとともに展開することが大切です。
例えば欧州のように歴史を重んじる文化がある市場はとても魅力的です。今後は日本の市場に限らず、金箔の価値を理解してくれる市場を模索し、箔の新たな展開と発信にも力を入れていきたいと思っています。
単に金箔を販売する企業ではなく、箔の魅力を追求する企業として、これからも開発や事業の展開を進めていきたいと考えています。
Text by タカハシ コウキ











