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「畠山七宝製作所」が生み出す、光を透す東京七宝
2025.03.24
「畠山七宝製作所」が生み出す、光を透す東京七宝

東京都荒川区

畠山七宝製作所
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「畠山七宝製作所」が生み出す、光を透す東京七宝
東京都荒川区にある、小さな工房。その扉を開けると、静かな熱気とともに、七宝焼きの鮮やかな色彩が目に飛び込んでくる。東京で七宝焼きを手がける畠山七宝製作所では、200色以上の釉薬を使い、「透胎七宝(プリカジュール)」と呼ばれる難易度の高い技法にも挑戦している。
名古屋や京都の七宝焼きが広く知られるなか、「東京七宝」は工業製品にも活用されるなど、独自の発展を遂げてきた。そんな七宝焼きの魅力を現代にどう伝え、次の時代へとつないでいくのか。48年にわたって七宝焼きと向き合う代表の畠山弘さんに、その想いを聞いた。

繊細な技術が要となる東京七宝

東京七宝とはどのようなものなのでしょうか?

七宝焼きは、金属の表面にガラス質の釉薬をのせ、高温で焼成することで生まれる工芸技法です。

一般的な七宝焼きは、釉薬が盛り上がり、立体的な仕上がりになることも多いのですが、「東京七宝」は比較的フラットなデザインが特徴です。

また、七宝焼きを作る際は、土台となる金属の表面に釉薬をのせるための溝があります。一般的な七宝焼きでは、この溝の深さは約0.8mmなのに対し、東京七宝はわずか0.4mm。溝が浅いからこそ技術も求められますが、繊細なデザインが表現できるんです。

畠山七宝製作所の創業について教えてください。

この工房を立ち上げた父はもともと、勲章のリボンを作る職人でした。しかし、戦後その仕事がなくなり、新しい道を模索するなかで七宝焼きと出会います。そして、庄司七宝へ弟子入りし、修行を重ねたのち、昭和26年に独立しました。

私も小学校高学年の頃から、七宝焼きを乾燥させるために、網の上に並べるといった簡単な作業を手伝っていました。子どもながらに「七宝焼きって、きれいで面白いな」と思っていましたね。

創業当初はどんなものを作っていたのですか?

七宝焼きと聞くと、アクセサリーや美術工芸品をイメージする方が多いかもしれません。でも、父がこの工房を立ち上げた昭和の時代、七宝焼きはもっと身近なものでした。

冷蔵庫や洗濯機のロゴ、車のエンブレム、企業の社章など、身の回りの製品にも七宝焼きが使われていたんです。高度経済成長期の日本では、耐久性があり、発色の美しい七宝焼きが求められていました。

そうした工業製品としての七宝焼きは、今も作られているのでしょうか?

ほとんどなくなりましたね。樹脂や印刷技術が発達したことで、安価で大量生産できる代替品が増え、七宝焼きの需要は大きく減りました。現在はアクセサリーの製作が中心です。

ただ、特注品として企業のバッジの製作や、車のエンブレムを七宝焼きで復刻することもあります。個人のお客様からのオーダーで、特別なデザインのエンブレムを作ることもあります。 

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樹脂などの代替品が多く出回るなかで、七宝焼きならではの魅力とは何なのでしょうか?

七宝焼きの表面はガラス質なので、普通の塗装や樹脂とは異なる深みのある輝きを持っています。エンブレムやアクセサリーに七宝焼きを使うと、高級感がぐっと増します。

中でも、工業製品としての需要が高かった東京七宝は、細やかなデザインが求められてきました。その歴史があるからこそ、繊細な色彩表現や精密な線の美しさといった技術が、現在のアクセサリー製作にも生かされているんです。

光を透す七宝焼きが生まれるまで

七宝焼きの制作工程について教えてください。

七宝焼きの制作は、土台となる地金を準備することから始まります。主に銅や銀を使用し、デザインに合わせて切り出します。

次に、「ホセ」と呼ばれる細い筆で、地金の溝に釉薬をのせていきます。

七宝焼きは、800度以上の高温で焼くことで釉薬がガラス質になり、鮮やかな発色を生み出します。でも、1度の焼成では釉薬が地金に十分に付かないんです。なので、釉薬を重ね、焼き、また重ねる。この作業を繰り返します。

最後に、溝からわずかにふくらんだ釉薬を研磨し、表面を滑らかに整えます。リングなどの曲線を均一に研磨するのは難易度が高いものです。指先の感覚を頼りに行うこの作業は、特に技術と経験が必要ですが、仕上がりの美しさを左右するので重要な工程ですね。

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随所で繊細な技術が求められるのですね。畠山七宝製作所ならではのこだわりや工夫があれば教えてください。

一般的な七宝焼き工房では80色程度の釉薬を扱うことが多いですが、当工房では200色以上をそろえ、微妙な色の違いを表現できるのが特徴です。

また、伝統的な技法に加え、「透胎七宝(プリカジュール)」にも挑戦しています。透胎七宝は、下地となる金属の一部を切り取り、その上に釉薬をのせて焼き付ける技法。光を透すことでステンドグラスのような美しさが生まれ、アクセサリーなどに適した繊細な仕上がりになります。

透胎七宝の場合、土台となる金属の下地がないため、釉薬が流れ落ちてしまわないように表面張力を使って釉薬をのせていくのですが、細かな部分に釉薬を盛る作業は根気が必要ですね。

特に印象深い作品は何ですか?

『東京楽景 Tokyo Rakkei』という作品です。デザイナーとコラボし、東京の風景をジュエリーとして表現したもので、東京都知事賞をいただいた作品です。釉薬を盛り付ける位置が非常に細かく、難しかったですね。

また、透胎七宝(透ける部分)と通常の七宝焼き(透けない部分)は、焼成温度や釉薬の性質が異なるため、一緒に焼くのが非常に難しいです。そのため、焼成温度を段階的に調整し、焼成回数を増やして、最終的には16回ほど重ね焼きを行いました。

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東京七宝を未来へつなぐために

七宝焼きの伝統を継承するために、どのような取り組みをされていますか?

東京で七宝焼きを手がける伝統工芸士は、私を含めてわずか3名。技術を受け継ぐ後継者は必要ですが、それ以上に七宝焼きの魅力を知ってもらわなければ、職人は育ちません。だからこそ、まずは多くの人にその存在を知ってもらうことが大切です。

七宝焼きは、江戸切子や有田焼ほど一般には知られていませんが、実は日常の中に溶け込んでいます。たとえば、学校の校章やホテルの装飾、腕時計、カフスボタンなどにも使われているんです。「伝統工芸は敷居が高い」と感じる方も多いかもしれませんが、実はもっと身近なものなんですよ。

より多くの人に七宝焼きの魅力を届けるため、娘が中心となってホームページやSNSでの発信、オンラインショップの活用、展示会の開催にも力を入れています。

材料費の高騰も大きな課題になっていると伺いました。

はい。釉薬に使われるガラスや金属の価格が高騰しており、特に赤い釉薬は金を含むため、これまでの2倍ほどの値段に跳ね上がっています。そのため、価格設定の見直しが避けられない状況です。

そんななかで、これから挑戦してみたいことはありますか?

もっと自由に、新しいデザインに挑戦してみたいですね。先ほどお伝えしたように、東京七宝は日常のあらゆる場所に溶け込んでいる一方で、一見すると七宝焼きだと気づかないものも多い。そのため、もっとわかりやすく、でも美しくて洗練されたものも作れたらいいなと考えています。

畠山さんにとって、七宝焼きとはどんな存在ですか?

私にとって七宝焼きは、生きがいそのものですね。七宝職人の多くは普通、仕事がなくなれば休むものなのですが、私はつい、仕事がなくても新しいものを作りたくなってしまうんです。どんな釉薬の組み合わせが美しいか、新しい技法ができないか、休みの日でも研究してしまうくらい奥が深い世界です。

見る人の角度や光の当たり方で表情が変わるのも、七宝焼きの面白さだと思います。実際に手に取ると、その立体感や光の変化がよくわかると思います。機会があれば、ぜひ直接見て、一色一色の美しさを体感してもらえたらうれしいですね。

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Text by 寺田 さおり

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