



京で生まれ、江戸で発展した木目込人形
雛人形には、種類があることをはじめて知りました。
雛人形は、大きく2種類に分かれます。木や藁などの芯でできた胴体に衣裳を着せつける衣裳着人形と、木目込人形。木目込人形は、おがくずや正麩糊(しょうふのり)などを固めた桐塑(とうそ)を型抜きした土台に筋彫りを施し、そこに布を押し込む木目込という技法を使った人形です。土台があるので型崩れしにくく、桐塑を変化させてさまざまな造形ができることが特徴です。
そのルーツは、元文年間(1736~41年)の京都・上賀茂神社にあります。祭り道具の木っ端を彫刻して、祭りの衣裳着の端切れを着せつけた人形が加茂人形として愛されていました。それが江戸に流れ、桐塑を型抜きして量産できる製造方法に変化したのが、江戸木目込人形です。
柿沼人形店は、埼玉・越谷で人形を作り続けてきたのでしょうか?
柿沼人形店は、1950年創業です。木工を営む家に生まれた祖父が、戦後に工房を訪ねて人形師になり、東京・荒川区で独立しました。本社は現在も荒川区ですが、40年ほど前に大きな工場を求めて生産拠点を越谷に移しました。人形作りで有名な埼玉県・岩槻に近いこの場所で、職人と関係を築くために、越谷を選んだようです。

木目込人形は多くの職人との分業で作られるんですね。
そうです。桐塑を型抜きする職人、木目込をするための筋を彫る職人、衣裳を着せる木目込職人、顔に筆で目や口などを描く面相師(めんそうし)、髪の毛を植える毛髪師(けっぱつし)など、多様な職人の技術を結集して、魂のこもった木目込人形が作られていきます。


伝統だけでは、選ばれない。時代に流されるだけでは、個性が失われる
人形職人の道に進んだきっかけは何でしょうか?
長男ではないので、もともと家業を継ぐつもりはありませんでした。医者やパイロットを志した期間を経て、大学卒業後は警察官として働き始めました。数年働いた後、工場の責任者が引退するので「働いてみないか」と先代から話があり、色々と考えた結果家業に入ることになりました。
現在は、代表取締役の兄とともに、常務取締役として人形づくりの現場責任者を担っています。
柿沼さんは、独自のセンスで、マンションでも飾りやすいコンパクトなサイズの雛人形など、現代に合わせたものづくりを進めてこられたそうですね。
伝統だけを追い求めても、現代のお客様には選ばれない。「雛人形は大きくて、飾る場所がない」という声をもとに、小さく収納しやすい、インテリアに馴染む雛人形を作ってきました。
しかし、ここが難しい点ですが、時代に合わせすぎても個性が失われてしまう。トレンドに合わせて、筆描きの目ではなく、ガラス玉の目や明るい色を基調とした雛人形も作っていたのですが、逆に柿沼人形店らしさが損なわれてしまいました。
原点回帰をして、日本の伝統を再発見しながら、現在のライフスタイルにも受け入れられる、新しさと遊び心を取り入れた華やかな人形を提案する必要があると思っています。

伝統と新しさを兼ね備えた人形は、海外の展示会に出展するなど、国際的にも評価されていますね。
工業デザイナー・大沼敦さんとコラボレーションして、集合住宅などでも飾りやすいコンパクトなデザインや収納しやすいといった利便性を備えつつ、秋田杉の網代編みや麻の葉模様の鹿沼組子の収納飾りといった伝統技術を駆使した「貴雛PARIS」シリーズを作り続けています。
この人形は、2015年にパリの宝飾品の名門「Christofle(クリストフル)」の本店ギャラリーで行われた「MEET MY PROJECT at SALONS Christofle」でお披露目しました。
展示会の反応は良かったです。海外には雛人形の文化がないので、理解してもらうのが難しい部分もありましたが、木目込人形の魅力は海外にも伝わる可能性があると感じました。


伝統が新しさと出会う、世界のKIMEKOMIへ
さらに、江戸木目込の技術を生かした招き猫が、海外のバイヤーに取り上げられたり、国内でもコラボレーションを行ったりと話題を呼んでいますね。
木目込を知ってもらうきっかけを作りたいと、最近は節句以外の商品開発にも力を入れています。特に、江戸木目込の技術を使った招き猫は、コラボレーションなどいろいろな展開が生まれています。
10年ほど前に、デザイナーとコラボレーションをする東京手仕事プロジェクトで江戸木目込の「招き猫」が採択されました。それを機に、海外の展示会に出展することとなり、思い切って、100体持っていったんですね。そのビジュアルに注目が集まり、「面白い!」とアメリカのバイヤーが招き猫を仕入れてくれました。
その後、フランス「メゾン・エ・オブジェ」、ドイツ「アンビエンテ」など、海外の展覧会に出展するように。特に2016年のアンビエンテでは、翌年の流行を読む「トレンドセレクション」に選出いただき、大変話題になりました。そこから、経済産業省の"The Wonder 500"(世界にまだ知られていない、日本が誇るべき優れた地方産品)にも選出されて、メディアでも取り上げていただくようになりました。木目込から「KIMEKOMI」へと、その世界が広がりつつあります。
国内の企業でも、雑誌、食べ物やお菓子のキャラクター、ゆるキャラ、都内の有名ホテルなど、色んなキャラクターとコラボレーションした木目込人形を作っています。盛り上がりを見せた大阪・関西万博のPASONA NATUREVERSE内オフィシャルショップでも、「木目込人形 ブラック・ジャック PASONA×ATOM & B・J」が発売されています。

招き猫の人気は、コラボレーションができる江戸木目込の新たな可能性を拡げたように思います。
木目込人形は、桐塑や布を変化させることでさまざまな造形が可能になります。招き猫から生まれた多様なコラボレーションを通して、もともと持っていた木目込の魅力を改めて感じています。
伝統工芸とは異なる分野と関わる展開も生まれているんです。国内男子プロバスケットボールリーグ『B.LEAGUE』に所属する越谷アルファーズとコラボレーションした招き猫を作るなど、地域活動とのコラボレーションもありました。
さらに、今年は一点もののアートピースの制作にも挑戦しました。スカルのデザインで、西陣織の布を木目込み、錫の鋳物で輝く歯を表現しています。布や宝飾品などに手を加えて、日本全国の職人とコラボレーションしてみたいと思っています。


今後挑戦したいことなど、これからの展望をお聞かせください。
職人の高齢化問題を新しい技術で解決したいと考えています。長く携わる職人さんは弟子を取らない方が多く、このままでは技術が廃れてしまう。それに対する取り組みの一貫として、3Dプリンターを取り入れた作品を作り、将来的に職人不足を補える技術にできないかと模索しています。ただ、データ作りの難しさや、素材のフィラメントを何にするかなど、技術をどう落とし込むかを考える必要がある段階です。
新しい技術を取り入れることで、江戸木目込の可能性が拡がっていると感じます。
ここ10年を振り返ると、伝統を守るだけでなく、積極的に先端的な技術や知識を学ぶことで、生き抜く力がついてきた実感があります。柔軟な考えや発想がなければ、現代社会で生き残るのは難しい。職人は、新しい情報を取り入れてこそ、現代に合ったものづくりが可能になる。
知ることが大事なんですよね。きちんと理解していれば、伝統技術を使うか、新しい技術を使うかは、選ぶことができる。これからも、伝統と新しさが融合した驚きのあるものづくりを通して、江戸木目込の可能性を拡げていきたいと思っています。

Text by 荒田 詩乃










