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着物に囚われず、伝統技術の可能性を追求する金彩上田
2023.10.12
着物に囚われず、伝統技術の可能性を追求する金彩上田

京都府京都市

金彩上田
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着物に囚われず、伝統技術の可能性を追求する金彩上田
金や銀の箔、金粉などを糊で接着し、装飾する技術を「金彩」と呼ぶ。きらめく金の美しさや、繊細かつ力強い表現は、見る人の心を魅了する。
友禅の仕上げとしてよく活用されている金彩だが、時代の流れとともに着物を手に取る機会が減り、近年はこの技術を知らない人も多い。「金彩の認知度を上げて技術をつなぎたい」と、その可能性を追求しているのが、京都府北区にある金彩上田だ。
今回は、金彩上田で職人として活動している上田奈津子さんにインタビューを実施。同工房を立ち上げた経緯や現在の活動、金彩の魅力について話を伺った。

伝統工芸を残すため、母と娘で立ち上げた金彩上田

金彩上田が誕生した経緯を教えてください。

金彩上田は、私と私の母で営んでいる金彩工房です。母は、18歳頃から京友禅の工房で働いていました。結婚や出産を経て一般的な仕事に就いていたのですが、新しく立ち上げられた金彩工房から声をかけていただいたのをきっかけに、再び職人として働くようになりました。

一方で私は、物心ついた頃から母が職人として働いていたので、伝統工芸というものが身近にありました。当時はこの仕事が守り継いでゆくような特別なものだとは感じていなかったので、周りのみんなと同じように進学後、アパレル会社に就職したのです。

アパレルの会社で販売員として働いていたときは、母と離れて暮らしていたので、お互いの近況報告や仕事で大変なことなど、電話でいろいろな話をしていました。

母と話をするなかで、次第に一般企業と伝統工芸の世界の違いを感じるようになってきて。たとえば、伝統工芸の職人は技術があるのに、賃金がそれに見合っていません。また、着物に施す金彩は古典デザインの美しさを活かしたり、時代に合わせたデザインを取り入れたりと工夫をしていますが、もっと多様なデザインに金彩を施せるのではないかと感じました。

いろいろ考えているうちに、私たち自身で何かを始めた方が、金彩という伝統工芸を残すことを含めてよりよい形を目指せるのではないかと思い始めたのです。そのため、着物の金彩だけに囚われない可能性を求めて、2人で当工房を立ち上げました。

「着物の金彩に囚われないで」とのことですが、そのように考えられた理由は何ですか?

着物は、私ですら「年に何回か着るかな」という感じですし、若い方たちならなおさら「京都旅行でアンティーク系の着物を着る」くらいの機会しかないと思います。呉服屋でオーダーメイドの着物を作るなんて、人によっては一生に一回あるかないかの頻度ですよね。

ただ、「自分の祖母や母から譲り受けた着物を着たい」という人は増えています。新品のものを作るまではせずとも、「剥がれている金をきれいにしたい」「黄ばみを直したい」という依頼は多いですよ。

現在は、どのようなお客様が多く利用されていますか?

年齢層でいうと、60代以上の人たちが多いと思います。また、お客様からお願いされた企業が当工房に依頼してくるパターンが多く、個人的に依頼してくださる人は少ないですね。

工房に直接依頼に行くのは、やはりハードルが高いのだと思います。みなさんにとって金彩工房は身近にない場所なので気軽に行けないですし、敷居が高いと感じるのかなと。

しかし、当工房は「誰でも気軽に来てください」というスタンスなので、まずはそのことを知ってもらいたいと思っています。

工房に直接お願いするイメージのない方も多いと思いますが、直接お願いするメリットは何でしょうか?

工房に来ていただくと、職人と直接意思の疎通ができるので、仕上がりに対する認識のズレをなくせることがメリットです。

職人は、これまでの経験からアイディアの引き出しをたくさん持っています。特に私の母は、経験も技術もある。そのため、お客様が考えている一つのプランだけでなく、複数のプランを提示して選択してもらえます。

また、お客様の要望を汲むだけでなく、使用する場面を考慮しながら、予算内でよりよく仕上げるための提案も可能ですね。もちろん、仲介を挟まないので金額も抑えられますよ。

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作業工程を見ることで、「金彩」という技術を知ってもらいたい

金彩を身近に感じてもらうために、何か取り組んでいることはありますか。

私は X(旧Twitter)で作業工程を発信したり、Instagramに出来上がった作品を載せたりと、発信に力を入れているところです。

作業工程を載せているのは、まず金彩に触れる機会を作ろうと思ったからです。「金彩」と聞いてすぐイメージできる人は、本当に少なくなっています。私自身、初めて合う方に「何の仕事をしているの?」と聞かれると、説明に困ることもあります。

そういった機会に説明することも大事ですが、シンプルに作業工程を見て、できるだけ多くの人に興味を持ってもらうことが一番だと考えました。

発信する際に、工夫していることはありますか?

作品を出すときは、着物ではないものを出すようにしています。もちろん、着物をリペアしたものはそのまま載せることもあるのですが、作品や資料として見せるときはものの形にしないことが多いですね。

理由は、当工房は呉服屋ではなく、金彩という技術を売っているからです。一般の方に向けて「着物はとってもいいですよ」「着物を着ましょう」という活動をしているわけではありません。

金彩が心に刺さったときに、さまざまな視点からアイディアが生まれるといいなと考えているのです。「これは映像に使えるな」「ドレスに使えそうだな」と、見た人に思い思いのイメージを膨らませてほしいな、という私の期待を込めています。

これまでに、金彩を活用してどのようなものを製作されましたか?

インテリアとしてお店の壁面にしたり、アクセサリーにしたりしましたね。

その他にも、楽器店から「楽器に金彩をしてほしい」と依頼をいただいたこともあります。金彩後のコーティングは、楽器に詳しい方の別の技術が必要ですから、そこは相手にお任せしました。

他の業界の方とコラボすると、自分たちだけではできないものが出来上がるので楽しいですよ。

金彩はいろいろなものに施せるのですね。できないものはあるのでしょうか?

基本的には、革やシルクなど何にでも加工できます。私は貝にも行ったことがあります。依頼をいただいたときに初めてやる素材でも、「どうやったらできるか」を考えて取り組んでいるのです。

しかし、金彩は糊で箔を付けるので水に弱く、頻繁に洗濯するようなものは長持ちさせることができません。また、撥水・防水加工が施されているものは、加工が少し難しいですね。防水加工がしてあると、糊が素材に馴染まず付きにくくなるからです。薄い層を重ねれば金彩は行えますが、どれだけ持つか、使用していくうちにどういった状態になるかは素材によるので、素材ごとにある程度検証する必要があります。

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工夫次第でさまざまなものにチャレンジできるのですね。オーダーが入った際の、作業工程を教えてください。

本来、金彩は友禅をより華やかに仕上げるために最終工程で使われます。「お化粧係」とも呼ばれているほどです。

ただ、当工房は金彩加工だけでなく、エアブラシを使う「ピース加工染め」という特殊な技法で絵柄を付ける工程から行えます。

絵付けから希望されている場合は、まずはお客様とデザインを決め、それに合わせて絵付けを行います。絵付けの際には、絵柄や陰影を出すために、切り絵のようにパーツごとにマスキング用の紙をカットします。これだけでも、とても時間がかかるのです。

絵柄が完成したら、金を入れたい部分に合わせて改めて紙を切ります。その後、絞り器のような筒を使って糊を絞り出しながら柄を描く「筒描き」を行い、箔を載せます。最後に絵柄を縁取ったり、葉脈のように線を描いたりと細かい部分を仕上げて完成です。

絵柄の凹凸をはっきり出したい場合は、筒描きの際に調整しています。膨らみを出すのは「盛り金」、平たくするのは「平金」と言います。盛り上がりを作ると、その部分が浮き上がるので光が反射しキラキラとして見えますよ。

特に重要な工程はありますか?

どの工程も重要ですが、リペアの場合は直す部分だけが新品のようになると浮いてしまうため、もともとある柄と調和するように配慮しなければなりません。そのような場合は、色合わせが重要になってきますね。

金といっても種類はたくさんあるので、その時々に応じた微妙な色の調整を行うよう心掛けています。

いろいろな取り組みをされてきたと思いますが、活動するなかでうれしかったことを教えてください。

「金彩を初めて知りました」「とてもきれいですね」と言ってもらえることはうれしいですね。特に、アパレルのブランドと協業してイヤーアクセサリーを出したときは、私たちが普段あまり関わらなかった世代の方々から反応をいただくことができました。

知らなかったことを知ってもらうきっかけになれると、活動していてよかったなと思います。

金彩は特別な一日に華を添え、気持ちを上げてくれるもの

上田様が考える、金彩の課題は何かありますか?

どの業界も同じかもしれませんが、職人のなり手不足は大きな問題だと思いますし、本当に深刻です。特に新型コロナウイルス感染症が流行ってからは、「おじいちゃんたち辞めちゃったよ」という話が多くて。「もう店たたんだよ」「あの工房もなくなったよ」と、頻繁に耳にします。

そのなかで新しい人が増えたかといえば、そうではありません。今のままでは、今後も増えることはないと思うのです。それは、やはり産業としての広がりのなさに問題があるから。だからこそ、私たちの世代が着物に特化することなく技術を残したり、発信したりすることで、興味を持ってもらいたいなと。

ただ、現実はやはり若い人たちが安定して仕事を得られるような、安心できる職場ではないと思うので、現状のままでは「いい仕事ですよ」とは口が裂けても言えません。

私たちが自信を持って若い人たちの将来を預かれるような、また親御さんたちからも「いい仕事だね」と背中を押してもらえるような、そんな環境を作り上げていく必要があります。

本当に小さなことかもしれませんが、金彩を誰かに見つけてもらうことは、とても大事なことなのです。技術だけを見てもらうのではなく、技術の先にある可能性を見てもらいたい。そのために、私たちの発信をいろいろな角度から見ていただきたいなと思っています。

「発信する」という活動は、課題解決への思いにもつながっているのですね。

そうですね。金彩に携わる人が増えるような環境にしていくためには、私たちが新しいことにチャレンジしていくしかないと思うのです。今後、着物を着る人が急に増えるかといったら、そうはならないので。

「あれに使いたいな」「これは新しいな」と考えてもらえるように、他の業界とのコラボをはじめ、個人的にはアート作品の制作にも力を入れています。アート作品だと、一番シンプルに金彩の魅力を感じてもらえるのです。これがみなさんの目に留まるように、今は動いています。

どのようなアート作品を作られているのでしょうか?

その時々によって変わるのですが、ポップなときもあれば、クラシカルなときもあります。ただ、金彩の魅力が一番よく伝わり、見ている人の気持ちが上がるものを作れたらなと。絵を飾るように、金彩を使った作品が生活のインテリアになれたらいいなと思っているのです。

立体感のあるものや、角度によって光り方に違いが出るものなど、金彩はさまざまな表現ができます。金彩の多様な技法を使い分ければ、シンプルにもゴージャスにもなるのです。

また、箔の色も金や銀だけではありません。本当にいろいろな表現ができるので、好みによってどのような仕上がりにもできますよ。

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最後に、上田様が考える金彩の魅力を教えてください。

金彩の魅力は、特別な一日に華を添えたり、気持ちを上げたりできることです。金彩が施される着物は、結婚式やお祝いの席で着るもの、成人式に着る振袖など、晴れの日に関わるものが多くなっています。そのため、華やかさは基本になるところなのです。いいものができたときには、私たちもとても気分が上がります。

最近は世の中がシンプル思考の傾向にあるので、普段着もナチュラルなものが多いですよね。しかし、特別なことがあるときは、やはり華やかな自分でいてもいいと思うのです。金彩をドレスアップに使ったり、家に飾ったりして、気分を上げるアイテムのひとつとして取り入れていただきたいと思います。

伝統というと、堅苦しいもの、縁遠いもののように感じる方も多いと思いますが、みなさん華やかなものはきっと好きなはず。赤ちゃんですら、金は大好きなのです。たくさんの折り紙の中からどれを選ぶかというと、金を選ぶ子が多くいますから。そのくらい金は魅力的で、人の心を動かすものなので、難しく考えずに「きれいだな」と思って見てもらえると、私たちとしてもうれしいです。

金彩上田のInstagramでは金彩を施す様子を、私のInstagramではアート作品としての金彩を載せています。ぜひ一度ご覧いただき、金彩をあなたらしく活用するイメージを膨らませてみてください。

Photo by renacnatta
Photo by renacnatta

Text by 奥山 りか

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