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籐工芸の未来を編む──暮らしを彩るラタン家具の新潮流
2025.06.29
籐工芸の未来を編む──暮らしを彩るラタン家具の新潮流

東京都文京区

木内籐材工業
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籐工芸の未来を編む──暮らしを彩るラタン家具の新潮流
通気性・軽さ・美しい艶──自然素材・籐(ラタン)を用いた家具や雑貨が、再び注目を集めている。木内籐材工業株式会社は、東京・文京区で、1931年から3代にわたり籐製品の製造、卸売業を手がけている。
3代目の木内秀樹さんは、自ら海外に出向くほどの素材へのこだわりと、培ってきた伝統技術を生かして、若者・海外向けに愛されるこれからの籐工芸を模索し続けている。

古くから愛され続けてきた籐工芸を現代へ

籐工芸の歴史を教えてください。

籐(とう)は、熱帯雨林のジャングルでゴムの木などに絡みついて育つツル性の植物で、籐工芸は、敷物や椅子などの家具、籠や鞄などを作ります。

歴史は古く、紀元前4000年頃のエジプトのレリーフに籐の椅子が描かれています。さらに、大航海時代のヨーロッパで、東南アジアのラタンの家具が大流行しました。

日本にやってきたのは約1,000年以上前。弓やなぎなたなど、武器の持ち手に巻かれました。

御社は何年頃から事業をはじめたのでしょうか?

昭和6年創業、私で3代目になります。初代が上京したことをきっかけに事業をはじめました。最初は原料を加工して、皮籐・丸芯などの販売を行っていたようです。

バブルの時代には、温泉やゴルフ場の脱衣場の敷物などの人気が高かった。しかし、時代の変化と共に需要が減り、30年ほど前からは、籐家具の制作・販売も手がけています。

木内さんが家業を継がれることとなった経緯をお聞かせください。

学生のときから家業を手伝っていて「いずれ事業を継ぐのだろうな」と思っていたので、自然と会社に入り込んでいきましたね。

その頃はバブルで、たくさんの職人が工場で籐の敷物を作っていました。私は一度サラリーマンとして就職したのですが、高齢化や廃業を選ぶ職人の姿を見て、本格的に家業を継ぐことを決心しました。

長く使うことで味が出る、サステナブルな工芸品

天然の素材である、籐の魅力とは?

天然素材で、木と同じように無数の管が通っているので、通気性に優れています。湿気を吸湿して、夏でもべたつかずさらっとした肌触りで使うことができる。

軽量なのも魅力です。一度持っていただければわかるのですが、籐製品はとにかく軽い。椅子などの大きな家具も、ご年配の方でも無理なく持ち運ぶことができる。

さらに、素材としての耐久性も強い。籐は何十年も使い続けることができます。

でも、一番の魅力は天然の艶。日本の籐製品は仕上げに薬品を塗らないので「硝子質」と呼ばれる自然の艶を味わうことができる。何十年も使うことで、時間をかけて美しい飴色へと変化していきます。

長く使うことで、味わいを楽しめるものなのですね。

日本の伝統技術を使ったものは、修理しながら長く使えるように作られています。何十年も前に購入した籐製品を修理するお客様も多い。座面が切れてしまった椅子も、編みなおしてまた使うことができます。

一方海外製の籐製品は、日本製よりも安く購入できるのですが、木枠などが接着されて、壊れても修理できないことが多い。日本製は、使い捨てではないんです。

一度買ってしまうと、お客様は何十年も新しいものを買わないので、商売としては儲かりにくいんですけどね(笑)

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素材の特性を生かした、製造工程を教えてください。

籐工芸は、多様な技術が必要です。原料の加工、編む、骨組みを作る、染めるなど、さまざまな工程があります。

特に難しいのは、原料加工。椅子の座面や籠などを編む「皮籐」は、1mmほどの厚さに割いていきます。薄いので、節の部分で切れないよう一定の厚みにする高い技術が求められます。

また籐は、火や蒸気で柔らかくなる性質を持ちます。スチーマーで蒸したり火であぶったりして柔らかくしたものを、型に入れて用途に合わせた形に加工します。

さまざまな技術を身につけなければならないため、職人の育成にも時間がかかるんです。

より質のいい原料を求めて、インドネシアに渡る

原料を海外で買い付けるほどのこだわりがあるそうですね。

インドネシアの工場と直接取引して、原料を輸入しています。新型コロナウイルスの感染拡大前は、年に数回ほど現地で原料の買い付けを行っていました。

原料の輸入業者が引退されて、原料調達が難しくなり、思い切って自分で行くようになったことがきっかけです。最初は言葉もわからなかったのですが、大学のインドネシア語講座などで学んで、いろいろな方と出会い、さまざまな工場と取引するようになりました。

質の高い籐をどう見極めているのでしょうか?

日本の籐工芸は、天然の硝子質が命です。敷物や家具の味わいを出したり、汚れを予防したりするのに、この硝子質が欠かせない。艶が綺麗なもの、シミがない貴重な原料を見極めています。

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伝統技術を生かした、新しい籐工芸製品を開発

籐の素材や技術を生かした、うちわ、扇子、イヤリング、デュフューザーなど、新しい商品を開発されていますね。

10年ぐらい前から、贈呈用に選んでいただける籐製品を制作するようになりました。

現代は、昔ほど大きな家具を家に置かないのかもしれないですね。百貨店でも家具の取り扱いは、少しずつ減ってしまっています。

一方でうちわや扇子は、お客様がその場で選んで持ち帰ることができる。デザイナーや学生など、さまざまな方とコラボレーションして、若い世代や海外のお客様をターゲットにした籐製品の開発を行っています。

『籐と和紙のうちわ』は、伝統工芸とデザイナーがコラボレーションする「東京手仕事プロジェクト」で東京都知事賞を受賞したとか。

『籐と和紙のうちわ』は、ユネスコ無形文化遺産に登録された細川紙と籐を組み合わせたうちわです。とにかく軽く、仰いだときのしなりが魅力です。

通常のうちわのように放射状ではなく、渦を巻くように骨組みを作り、グリップに手触りの良い籐を巻きました。和紙と籐の貼り付けに苦労しましたが、レーザーなどの技術を用いて、伝統を生かした新しいうちわが誕生しました。東京オリンピック、大阪・関西万博のライセンス商品としても展開しています。

さらに「籐と和紙のうちわを持ち歩きたい」というお客様の要望に応えて『籐扇子』を開発。リサイクル素材のポリエステル繊維を使った和紙『ナオロン』を使用して、素材の強度を保ちながら、サステナビリティも意識しました。

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海外で原料を買い付けたり、意欲的に商品を開発したり、木内さんが挑戦し続ける原動力はどこにあるのでしょう?

さまざまな課題が目の前にあるからだと思います。

職人も高齢化して、平均年齢75歳ぐらいですが、育成する余裕はない。天然素材の籐も安定的に供給するのは難しい。ジャングルの奥に生える棘だらけの籐は、収穫作業が大変で、籐の仕事を離れてしまう現地の方もいます。

さらに、伝統工芸は値段が高く、ご年配の方が買うイメージが定着していることも課題です。家具など、昔売れたものも売れなくなってしまっている。時代の変化なのだと思います。

そういった課題を打開したい。そのために技術を生かした新しい籐工芸を考えたいと思っています。続けるためには、変化し続けないといけない。先のことはわからないですが、これまでも時代と共に挑戦をしてきたので、今度の壁も乗り越えたいと思っています。

Text by 荒田 詩乃

#Artisan#職人#東京#伝統工芸#籐工芸#歴史#日本文化#技術
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