

400年続く家業を継ぐという選択
清原織物の歴史は室町末期にさかのぼる。創業期の詳細は残っていないものの、清原家が織物業に携わっていたことは古文書からも確認され、明治6年には「清原商店」として旗揚げした記録が残る。京都・御室から滋賀へ移転した後も、皇室献上品や全国の祭礼幕、寺社仏閣の装飾など、晴れの場を彩る織物を手がけてきた。
しかし代々続く工房といっても、豪壮な蔵があるわけではない。清原さんは「サバイブし続ける家だった」と笑う。戦争やバブル崩壊など何度も経済の波に直面しながら、“残すべきは技術”という一点だけを頼りに家業はつながれてきた。
建築業界で長く働いていた清原さんは、もともと家業を継ぐつもりはなかった。家族も誰も彼が継ぐとは思っていなかったという。ただ、職場で「自分の裁量が届かない部分」を感じ始めた頃、ふと家業を見つめ直した。誰も継ぎ手がいない工房。自分が入れば、いずれはすべてを自分の判断で動かせる。「好きにできる未来がある」と思った瞬間、工芸への興味が一気に開いた。
そして2年をかけて転身。技術ゼロからのスタートだったが、“残すために動く”という明確な意志だけはあった。
つづれ織は「美の欲求」に応える技術
つづれ織は、日本に1400年前から伝わる技法で、爪をギザギザに削り、その爪で横糸を寄せていく手法をとる。経糸が見えないほど強く糸を打ち込むことで、鱗のような凹凸が生まれ、光の陰影や発色の美しさを際立たせる。
曲線の表現も得意で、職人は図案を透かしながら「どの段で色を積み、どの段で移るか」を読み取る。一本一本の糸の“読み”が作品の出来を左右する、極めて知的で高度な手仕事だ。
清原さんはこの技法について、「人は美を捨てられない生き物だ」と語る。
食べ物や道具とは異なり、美という概念は生きるために直接必要なものではない。それでも私たちは花を買い、桜を見に行き、美しいものの前で立ち止まる。古代から壁画や装飾が絶えなかったように、人は本能的に美を求めるという。
帯や緞帳の需要が落ち、業界が急速に縮小した時代を体験した清原さんにとって、それでも残すべき技術とは何か──その答えのひとつが、つづれ織という「美の欲求に応える技術」だった。
「絶滅危惧種みたいなものだけど、死なない。人が美を求める限り、工芸は残る」

国内唯一級の技術から生まれる作品
清原織物の特色は、“極端な密度”を可能にする織りの構造にある。一般的な織物に比べて横糸をゆるく張り、強く打ち込むことで縦糸が隠れ、鮮やかな面がつくられる。遠くからの視認性が高く、祭の山車や神輿の幕や神社仏閣の装飾に適しているのはこのためだ。
山車の幕の復元では、1日わずか数ミリしか進まないこともある。織り幅は2メートルを超え、色も100色を優に超える。機械織りでは不可能な複雑さだ。
また、緞帳に用いられる太い糸づくりや、シルク糸を何本も撚り合わせて独自の色味をつくる撚糸(ねんし)など、清原織物ならではの素材開発も続けている。建築業界で培った知識を生かし、倉庫に眠っていた木製織機を自ら図面に起こして3メートル幅の織機として蘇らせたことも象徴的だ。
「図面も資料もない。でも必要ならつくればいい」
伝統と現代の技術を自在に行き来しながら、工房の可能性を広げてきた。
海外ブランドとの協業が拓いた新境地
清原織物の新しい挑戦の象徴が、2021年にパリのユニクロで常設展示された巨大タペストリーだ。ユニクロのリサイクルボックスに集まった服を裂いて糸状にし、織り込むという前例のない依頼。さらに「リサイクル和紙を使用したい」との要望に応え、製紙メーカーと協働して“リサイクル和紙”という概念そのものを開発した。
近年は海外デザイナーとのコラボレーションも進む。スイスのテキスタイルデザイナー、アメリカ出身で京都在住の画家など、多様な表現者が清原織物の技術に惹かれ、新しい布作品が次々と生まれている。
アートパネル、ラグ、インテリア用途の大型作品など、領域は確実に広がっている。
「いつか海外に届けたいと思っていた。それが一本でも実現したことは大きい」と清原さんは語る。

若手育成、発信、そして工芸のこれから
清原さんが重視するのは、技術だけでなく“動機”を職人と共有することだ。
「この作品はどこに飾られ、どんな価値をもつのか」を職人に丁寧に伝える。完成後は写真を見せ、評価の声も共有する。自分たちの仕事がどのように世界へ届いているのかを実感してもらうためだ。
ワークショップを通じた子どもたちとの接点づくり、若手職人の育成、インテリア分野への展開──いずれも“工房の未来”をつくるためのアクションである。
そして来年には、ユネスコの無形文化遺産にも関わる祭礼の装飾について復元依頼が予定されている。これまで名前を出せなかった文化財の仕事も、今回は「清原織物」の名で残る。
200年先まで残る仕事に、いま手を入れる。その重みを感じつつも、清原さんの表情は明るい。










