

着物を飾ったときも、着たときも美しくなるように
まず、御社について教えてください。
当工房は1932年に創業しました。金沢には130ヶ所ほど友禅の工房があるのですが、基本的にすべて分業で制作しています。そのようななか、当工房では一貫生産を行っています。
当工房のもの作りは、まず取材からスタートするんです。たとえば、兼六園をテーマにするときには実際に兼六園に足を運び、写真を撮ったりスケッチをしたりします。高山植物をモチーフにするときは白山や北アルプスへ、水の絵柄を作るときは海や滝を見に現地へ足を運びます。同じ場所でも、やはり季節によって空気の匂いや咲いている花などが違うので、その場の表情が変わるんです。そのなかで特に感動したものを取り上げて着物を作り上げていくのが、私たちの仕事です。
インターネットで調べたり、図鑑を見たりするといろいろな情報が手に入りますが、それらは”誰かの感性で捉えたもの”ですよね。なので、実際に足を運んで“自分自身がどう感じたのか”を大切に制作するようにしています。
分業ではなく、一貫生産にしている理由を教えてください。
一貫生産にしている理由は、主に3つです。1つ目は、作品のクオリティを担保するため。2つ目は、新しい技法や新しい表現を作り上げるため。3つ目は、着物以外のものに展開しやすくするためです。
工房内で一緒に制作している職人にはちょっとしたニュアンスも伝えやすく、個々の職人の得手不得手や技術力を理解した上で制作が進められます。そのため、内製した方がイメージに沿った作品をより高いクオリティで仕上げられるようになります。
新しい技法や表現を求めて、独自の工法を作り上げる場合、一貫生産であれば意思疎通も取りやすくなります。
また、工房によって持っている道具やノウハウが異なります。「こんなものを作りたい」とお客様から相談を受けたときに、分業だといろいろな工房にその都度対応できるかを確認する必要があります。一方で、一貫生産の当工房では私がすべて判断できますし、お客様の要望を聞きながらプラスの提案も可能です。つまり、新しい作品作りにもチャレンジしやすいんです。
さらに、失敗も含めていろいろなノウハウが工房に蓄積できるところも、内製のいいところです。当工房には90年以上培ってきたノウハウがあり、そのおかげで私が自由に制作できています。最近は、過去の積み重ねがあるありがたみをよく感じますね。

改めて、加賀友禅の特徴を教えてください。
加賀友禅の特徴は、「加賀五彩」と呼ばれる藍・臙脂・黄土・草・古代紫を基調とした多彩調の色合いと、写実的に描かれる草花をモチーフとした絵画調の模様です。
たとえば、雪国では雪の重みで木が折れないようにするために、「雪吊り」といって木に囲いを設けます。北陸のシンボルのようなもので、こういった模様もまさに加賀友禅らしい模様です。
また、着物の裾は六つ生地が縫い合わされていますが、それが一つの絵のように繋がって見える「絵羽模様」も友禅染めの特徴です。着物を広げると一つの絵ですが、お召しになったときには立体的に見えるんです。着物を飾ったときにも着たときにも美しく。これを実現させるのは、私たち職人の腕の見せどころでもありますね。
着物は着るものだと思われているので、“飾ると絵になる”という価値観は世界的に見ても少ないと思います。しかし、日本では平安時代からそういった価値観があったと言われています。
感性は人それぞれですし、作り手次第でいろいろな表現ができそうですね。
そうですね。祖父は色の数を抑えて自分の創作の世界観を追求していますし、父は単一モチーフで草花をデザイン化した作品が多いんです。私は、幾何学的に日本の自然を捉えた作品を中心に作っています。
近年は温泉旅館や商業建築の装飾に友禅パネルを制作しております。また、新幹線のグランクラスの制服を作ったり、お菓子のパッケージのデザインをしたりと、着物以外への友禅の活用方法をいろいろと考えています。

古典の踏襲だけでなく自分自身の表現を追求
加賀友禅の制作工程について教えてください。
細かく分けると全部で12〜15工程あるのですが、大まかに説明すると“図案作成・下絵・糊置き・彩色・地染め・水洗い”の6工程になります。
まずデザインを考えます。デザインは、着物を着たときに一番目立つメインの部分から描き進めていくことが多いですね。最初はA4くらいの大きさでラフを描いて、それを原寸大に伸ばしていくんです。
デザインをすべて描き終えたら、その上に仮縫いした生地を置いて模様を写します。これが「下絵」という工程です。
写すときに使うのは、ツユクサの花の汁を和紙に塗った「青花」です。ツユクサは昼になると花が萎んでしまうので、花が咲いている朝早い時間に花びらを採ってきています。その花びらを揉むと青い汁が出てくるので、それを使って生地に線を描きます。滋賀県の草津が産地です。
あおばなを使うのはなぜですか?
あおばなの汁には水で消える性質があるので、下描きに適しているんです。最近は水で消えるインクもあると思うのですが、工業用のインクはない時代から加賀友禅は制作されてきたため、食物や身の回りにあるものが材料に使われてきました。

下描きが終わったら、色をつけていくのでしょうか。
次は「糊置き」の工程です。何もしないまま筆で色をつけていくと、滲んでしまって細かい模様が描けません。そのため、先に糊を置いて滲まないように防波堤を作るんです。糊を置いたところは、触ると凹凸している状態になります。
糊を置いたら、生地の裏側から大豆の汁を引きます。理由は3つで、下描きした青花の色を消すため、糊を生地に浸透させるため、これからつける色の滲みを抑えるためです。
色をつけるための下準備が終わったら、次は「彩色」の工程です。筆を使って、模様一つずつに色を塗っていきます。「ぼかし」と言われるちょっとしたグラデーションをつけたり、「虫食い」と言われる虫が葉っぱを食べたところを表現したりします。
虫食いは、加賀友禅の特徴のひとつです。実際の写生から制作しているので、こうした自然の面白さや美しさがしっかりと取り入れられています。
面積が広いので、大きな刷毛に染料をつけて染めていきます。ただ、このまま染めると模様をつけた部分にも色が入り込んでしまうので、そうならないように模様の部分を糊で覆ってから地染めをします。
模様の部分をすべて塗り終わったら、次は反物の地色を染める「地染め」です。ここは
染めた後は、色を定着させるために1時間ほど蒸します。このときに彩度が上がる色も出てくるので、色をつけるときはそのことも考えて調整しておかなければなりません。
色が定着したら水で洗い流します。洗うと今まで塗っていた糊がとれるので、模様の輪郭の部分が白くなります。これが友禅染めの特徴であり、かつデザインの特徴にもなっています。
その後は「湯のし」という蒸気をあてる工程で生地を整え、最後に仕立てたら完成です。
技法をアレンジすることもあるのでしょうか?
ありますね。デザイン自体も、先代のときと今とでは少し雰囲気が違います。着物だけでいえば、オーソドックスな加賀友禅のファンは多いんです。ただ、当工房は作家的なもの作りをしているので、古典の踏襲だけでなく自分自身の表現を追求しています。
現代の人たちに楽しんでもらうのが制作の一番の目的ではありますが、私はそれを後世にも残していきたいなと考えていて。年に一回、文化庁が後援している「日本伝統工芸展」という展覧会があり、毎年そこに向けて一年間かけて作り上げた新作を出品しております。
自分が考える新たな染の美しさを作り上げ、それを皆さんに知ってもらいたく、その展覧会に出品を続けています。

着物以外にも、友禅の活路を見出していきたい
御社のように、着物以外のものも制作している工房は少ないのではないでしょうか。
そうですね。独自の技法で制作している職人さんもいらっしゃるんですが、やはり多くの方は着るための着物を作っています。
当工房は「伝統的な技術と精神を受け継ぎながら、新しいものを作っていこう」という考えでもの作りをしているおかげか、新しいファンも増えてきました。振り返ってみても、変わりゆく時代にあわせて常に面白いことや新しいことをしてきたからこそ、ここまで続けてこられたんだろうなと思います。
最近ですと、ガラスの装飾が海外のお客様から好評です。日本でも、「着物には興味がなかったけれど、これだったら導入したい」と思ってくださる方が少しずつ増えてきました。ガラスの装飾をはじめてから、お客様の層が少しずつ広がりつつあります。
これからも、着物にある日本の伝統的な美意識を自分なりに解釈し直しながら制作していきたいです。
毎田さんが考える、友禅業界の課題は何かありますか?
やはり着物の売り上げがどんどん減ってきているので、「そのなかで友禅をどう生かしていくか」が課題だと思います。私としては、室内装飾などで活路を見出せないかと考えています。
ただ、繰り返し販売できるようなものであることも重要で。高単価の作品やアート的なものだけではなく、手の届きやすいものも提供していきたいです。他の工芸では成功例も多いですが、友禅の業界では、それがまだできていないんです。
最近は、焼き物や水引のアクセサリーなどの人気が高まっていますよね。九谷焼には「赤絵」というジャンルがあるのですが、その人気が高まって展示会初日で予約販売の受け付けが終わってしまうような作り手の方もいるんです。
加賀友禅に限らず、友禅でもそんな生み出せるといいなと思っています。
また、どこの工房でも後継者に関する課題をよく聞きますが、実は友禅に携わりたい人は意外といるんです。当工房には昨年4名ほど応募がありました。しかし、全員を受け入れるキャパシティがないので、採用したのは1人です。業界として希望者を受け入れられないのは、課題のひとつかもしれません。
当工房は一貫生産でもの作りをしていますが、産地全体で共有できることもあります。やってみたいと言ってくれる工房があるなら、当工房がチャレンジしてうまくいった取り組みを共有して一緒に業界を支えられたらいいなと思っています。
また、個人的にはこれから工房併設ギャラリーで展示会をやっていきたいなと考えています。去年はガラスギャラリーのお披露目では、当工房のGlass Yuzen(友禅ガラス)と漆や陶芸の器でお酒を楽しみながら友禅に触れていただく機会を設けました。今年も展示を企画して、新たな友禅の楽しみ方を作っていきたいと考えています。

Text by 奥山 りか











