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西陣織・引箔の革新ー古箔から広がる楽芸工房の時空を超えた旅路
2025.06.22
西陣織・引箔の革新ー古箔から広がる楽芸工房の時空を超えた旅路

滋賀県大津市

楽芸工房
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西陣織・引箔の革新ー古箔から広がる楽芸工房の時空を超えた旅路
西陣織で300年以上受け継がれる伝統技法、引箔(ひきばく)を製造する楽芸工房
初代から続く創造性と自由な気風を受け継ぎ、人との出会いを大切に新たなものづくりに挑戦している。今回は滋賀県大津市の工房を訪ね、創作への想いや革新的な取り組みについてお話を伺った。

受け継がれる “異端” の精神ー楽芸工房の原点

事業とその始まりについて教えてください。

私の祖父が1890年代後半、京都・西陣で箔屋「村田商店」を創業しました。その後、伯父が営業を、父・村田輝義が製造を担い、1971年に株式会社化。1989年には村田商店の直営工房として有限会社楽芸工房を設立し、引箔の製造を続けています。300年以上前に生まれた引箔の技術を、私たちは今も守り続けています。

祖父も父も豊かな発想力を持ち、元々は絵描きを目指していました。西陣といえば織物ですが、祖父は織りではなく、箔で描くことを選びました。

父は「変わり者」と呼ばれ、組合や周囲から批判されることもありました。それでも、西陣織の芸術性と高度な技術を継承しつつ、伝統工芸の枠を超えて幅広い分野で新しいものづくりに挑戦。国内外の市場に向けて革新的なデザインを提案してきました。

家業を継いだきっかけや経緯をお聞かせください。

幼い頃から職人の世界は叩き上げで厳しいイメージがあり、跡を継ぐことは考えていませんでした。高校卒業後の春休み、忙しい家業を手伝うことになり有名ハイブランドのディスプレイテーブルの銀箔貼り作業に携わりました。それが伝統産業に対する「古臭い」というイメージが「かっこいい」に変わった転機でした。自社工房で西陣織を学び、大学卒業後は大阪のアパレル会社に勤め、流通を学ぶために営業を経験。その後、家業を継ぎました。

変化するから美しい、古箔が生み出す時を経た価値

制作工程について教えてください。

引箔は、黒漆を塗った和紙に大小の箔を何層にも重ね付け、織物に現れる模様を作り上げる技法です。切屋で裁断された和紙が織屋に運ばれ、それが緯糸(よこいと)として絹の経糸に織り込まれ、織物が完成します。引箔という名は、職人が箔糸を一本ずつヘラに引っ掛けて織り込むことに由来し、その手の加減こそが職人の技術です。

織り上がった姿を想像しながら図案を描くには、知識や経験に加え、アート的な感性も必要です。一方で、箔屋は下請けという立場的な厳しさもあります。西陣織は5段階、20以上の工程が分業で行われ、その頂点に立つ織屋が全体をプロデュースします。組合からは「箔屋は引き立て役に徹し、前に出るな」と言われ、あくまで主役は織物で、箔はその背景に過ぎません。そんな厳しい世界で、祖父も父も自らの表現を追求し続けてきました。

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制作において独自の特徴はありますか?

約70年前、祖父が集め残してくれた古箔を、すべての制作に使っています。その色は見る角度や光の加減で多彩に表情を変え、まるで箔を通じて時空を超える旅をしているかのようです。今や私も焼箔を集め、子どもや孫世代のために残しています。

約60年前に祖父が考案した「五色金重(ごしききんがさね)」は、当社の代表作です。絢爛豪華な模様が主流だった当時、豪華さの中に侘び寂びを感じさせる焼箔を使った図案は大きな注目を集めました。引箔でよく使われる銀箔は、染料で染めた色箔と硫化反応で変色させた焼箔の2種類に分けられます。変わらぬ美しさが求められる帯の世界では、ほぼ変色しない色箔が好まれましたが、祖父は経年変化する焼箔に価値を見出したのです。「時間が創り出す価値」は私の指針になっています。

1200年続く西陣織が今日まで残ったのは、時代に合わせて道具や技術を柔軟に進化させ、変革を続けてきたからこそ。私たちは機械では表現できない温もりや風合い、技術、歴史、想いといった工芸の本質を守りながら、アプローチや表現を進化させることで、西陣織の産地を守りたいと考えています。

そのため、新しい道具や技術も積極的に取り入れています。たとえば、エアガンを使って色を吹き付けたり、最先端の検査技術で材料の安全性や色味を数値化したりと、無駄を減らし、SDGsにも貢献する材料づくりを実現しています。しかし、すべてを効率化すれば良いわけではありません。効率性や合理性で失われるものこそが、工芸にとってもっとも大切なのです。

創作する上でのアイディアの源は?

祖父や父が残した約3,000種類の帯の柄を参考に、アレンジを加えながら創作しています。私も絵画が好きで、色の表現や技術的な部分に強い興味があります。特に、19世紀末のウィーンを代表する画家、グスタフ・クリムトの作品は、金箔の使い方が印象的です。箔の魅力は光の反射にあり、見る角度や時間帯、光源によって生き物のように表情が変わります。クリムトは展示会場の照明の位置まで緻密に計算し、光の反射を生かした作品を制作していました。

私も今年オープン予定のホテルに展示するアートパネルを制作した際は、箔の凹凸や裏表の使い方を考えるため、展示スペースの光の入り方を一日中観察しました。自然光の下での箔の輝きはもっとも美しく、特に水墨画にも使われる焼箔は、侘び寂びの渋い輝きを放ちます。

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新たな出会いが拓く、クリエイションの未来

海外での活動で感じた日本との違いや新たな発見はありますか?

これまでフランス・パリのメゾン・エ・オブジェやドイツのアンビエンテ、イタリアのミラノサローネなどに参加していますが、海外と日本では仕事につながるスピード感が大きく異なります。海外では西陣織のブランド力はあまり通用しませんが、日本の工芸や職人の技術そのものに対する深いリスペクトがあります。展示した商品がすぐに商談につながるのは、日本との大きな違いだと感じています。

他分野とのコラボレーションについて、印象的な事例とそのきっかけや向き合い方についてお聞かせください。

社交的で行動力のある父は多様な分野の人たちと幅広く交流し、どんな仕事も断らずに引き受けてきました。人とのつながりから生まれる多様な挑戦を通じて、新しいものづくりの機会が生まれ、出会いが父を成長させてきました。私もまた、父の歩んだ道をたどっています。

近年では京都の高級車ディーラーとの仕事がきっかけで、コラボレーションが実現しました。2021年、BMWの「日本の名匠プロジェクト」で、箔の光の輝きをテーマに、SUV「X7」の内装3ヶ所に異なる技法で引箔を施しました。2025年2月のコラボレーション第2弾では、「夜の帷(とばり)に輝く光」をテーマに内装を手がけ、7月に麻布台ヒルズのFREUDE by BMWで関連イベントを開催予定です。

また、台湾のステーショナリーブランド、Y STUDIOとのコラボレーションでは、焼箔「雲龍箔」を真鍮製ボールペンに直接施しました。BMWと同様、持ち主のライフスタイルに合わせて変化する様子を楽しめる作品です。いずれも、完成品に工芸をどう融合させるか、異なる素材と箔の関係性をどう構築するかが鍵でした。

今後は、アパレルブランドとの制作も予定しています。

将来的な目標やビジョンについてお聞かせください。

今後も多様な分野に挑戦し、新しいものづくりに取り組んでいきたいです。また、いつか父とともにアート作品を作りたいと考えています。最終的には、培った技術や経験を私の原点である帯に還元したいです。伝統工芸士の資格を取得したのも、新しい活動を通じて西陣織の産地振興に自分なりに貢献したいと思ったからです。

引箔を裁断する切屋は、世界でも京都に2軒しか残っていません。このままでは近い将来、技術が途絶えるでしょう。レーザーカッターならカット自体は可能ですが、図柄を順番通りに保つために箔の両端を残して糸にする切り方は、最先端技術でも再現できません。切屋の技術でもっとも重要なのは刃を研ぐ工程で、裁断時に出る微かな音の異変を聞き分ける耳も欠かせません。より自由な表現を目指し、5年後を目途にこの技術を習得し、自社で箔から糸まで作りたいと考えています。

箔屋として業界を牽引し、引箔の魅力を多くの人に広めるきっかけを作りたい。その想いを胸に、ものづくりを続けていきます。

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Text by Riko

#Artisan#職人#滋賀#伝統工芸#西陣織#歴史#日本文化#技術#引箔#アート
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