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プラザ合意で輸出を断念したかしわ窯が、自力で海外市場へ向かった理由とは?
2026.11.03
プラザ合意で輸出を断念したかしわ窯が、自力で海外市場へ向かった理由とは?

愛知県瀬戸市

有限会社イワツキ
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岩附美幸

自動車メーカー研究所勤務後、結婚を機に退職。1998年、愛知県立名古屋高等技術専門校窯業校で陶磁器製造を学ぶ。1999年よりかしわ窯で製造・事務・経理を担う。2023年からJETROの支援で貿易実務や海外営業を学び、現在は製造と海外営業を担い、kashiwaの海外販路拡大に取り組む。

瀬戸焼

愛知県瀬戸市を中心に作られる焼き物の総称であり、 約1,000年以上の歴史を誇ります。焼き物全体を指す名称として使われる「せともの」という言葉は、国内の窯業を長く牽引してきた瀬戸焼が由来となっています。瀬戸は国内に留まらず、世界にも認められる陶磁器産業が息づく地域です。

愛知県瀬戸市で1965年に創業した「かしわ窯」。プラザ合意による円高で輸出を断念した窯元が、コロナ禍の円安を機に自ら海外市場へ再挑戦。瀬戸の土とガバ鋳込み、窯変が生む愛らしい器や置物で、欧州の暮らしに寄り添うものづくりを広げている。
プラザ合意で輸出を断念したかしわ窯が、自力で海外市場へ向かった理由とは?

愛知県瀬戸市東洞町。かつて多くの窯元が軒を連ねたこの町には、使い古した窯道具を積み上げた塀が続く「窯垣の小径(かまがきのこみち)」がある。その小径沿いに工房を構えるのが、「kashiwa(かしわ窯)」だ。この小さな窯元が今、世界最大級のインテリア&デザイン見本市「メゾン・エ・オブジェ」を中心に注目を集めている。

しかし、本窯元がここに至る道は平坦ではなかった。プラザ合意で輸出が途絶えたかしわ窯は、コロナ禍の円安を背景に自力で海外市場へ再挑戦。岩附美幸さんへの取材を通じ、欧州の顧客と直接繋がるまでの道のりを紐解く。

為替に翻弄された過去を乗り越えて、再び世界へ

愛知県瀬戸市で1965年に創業した「かしわ窯」。初代・岩附壽之さんは、当時黄金期を迎えていたカイ・フランクら北欧デザインに強い刺激を受け、「ずっと作り続けられる、永続性のあるデザイン」を志して独立した。瀬戸が白磁のノベルティ全盛期だった時代にあえて赤土を使い、独自の作風を確立。創業当時は製品の100%を輸出するほどの隆盛を誇っていたが、1985年のプラザ合意がその流れを断ち切る。急激な円高で輸出は採算が合わなくなり、全国で窯元が次々と姿を消していった。かしわ窯は国内に活路を求め、得意とするガバ鋳込みの技術を生かして、老舗のお香メーカー向けに香炉などを製造し、事業を続けてきた。

長い年月を経て、再び輸出を考えるきっかけとなったのが、コロナ禍の円安だった。「円安の今なら、もう一度海外への輸出に挑戦できるのではないか」。そう考えた二代目は、かつて取引のあった商社に連絡を取った。しかし、商社は為替変動のリスクを理由に、現在は輸入業務に専念しているという。

商社を通じた輸出が難しいとわかった二代目は、自ら海外の展示会に出展し、販路を開拓する道を選んだ。ジェトロに相談し、商社を介さない直接輸出に挑戦することを決めたという。こうして、欧州市場に向けた新たな挑戦が始まった。

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パリのアパルトマンから見えた活路

自力での販路開拓を決意したかしわ窯は、パリの「メゾン・エ・オブジェ」への出展を開始する。出展当初は、フランスでの展開にあたっては大型の品を持参する必要があると考え、大ぶりの花瓶などを展示台に並べていた。しかし、現地の反応は芳しいものではなかった。

出展を重ねるなかで、美幸さんは実際にパリのアパートに滞在した経験から、現地のリアルな暮らしに目を向けた。そのときの気づきが、光明へとつながる。

「パリのアパルトマンに実際に滞在すると、人々が限られた空間を上手に使い、コンパクトに暮らしていることに気づきました。そこで、今年1月の出展では小ぶりな品々を揃えたところ、手に取りやすく、買い求めやすいと好評でした」

この気づきを受け、前回の出展では、かしわ窯がもともと手掛けてきた小ぶりな製品を中心に展示を見直した。ちょっとした贈り物にも適した品々は、国際送料を抑えられる点でも、バイヤーにとって魅力的な提案となった。

「なぜこんなにも丸みを帯びているのか?」愛される不完全さと伝統技法

主軸を小さな製品へとシフトしたかしわ窯のブースで、ひときわ注目を集めたのが動物をモチーフにした置物だった。中でも一番人気は、丸みを帯びた愛くるしいフォルムの馬のオブジェだ。1月の出展では、注文のほとんどがこの馬で埋まったという。

来場者からは、その独特なフォルムについて素朴な疑問が投げかけられることもある。

「『欧州の馬の像はナポレオンが騎乗するような勇敢な姿が多いなか、なぜこれほど丸みを帯びているのか』と尋ねられることもあります。義父が手掛けたデザインは、意識せずとも愛らしい丸みが表れ、特にお尻がふっくらとボリューミーに仕上がります。その愛くるしい後ろ姿は、多くの方からとても好評をいただいています」

こう美幸さんが語るように、初代から脈々と受け継がれるこの造形美は、実は緻密な職人技に支えられている。かしわ窯の代名詞でもある「ガバ鋳込み製法」は、粘土や石膏で原型を作り、元型、ケース、使用型と合計3回もの型取りを行う手間暇のかかる手法だ。さらに、地元・瀬戸の土を独自に配合した赤土を使用している。焼成の過程でわずかな歪みが生まれ、一つひとつに異なる表情が現れる。

型を使って反復生産していても、仕上がりは一つひとつ異なる。そこに、原型師である初代が生み出す、ふっくらとしたお尻のフォルムが重なる。手仕事から自然に生まれる温かみが、国境を越えて人々の心を掴んだ。

また、限られたブーススペースを逆手に取り、色数を絞って統一感を出す展示方法も功を奏した。開発に約2年の歳月をかけたという独自の釉薬は、還元焼成によって「焼きムラ」や「焦げ」が現れ、まるで釉薬自体が窯の中で絵を描くような奥深い表情を見せる。「初めて見る色だね」と、その色彩に惹かれて足を止めるバイヤーも少なくない。

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「炻器」が拓くプチギフト市場

デザインや色合いだけでなく、製品の素材そのものも海外バイヤーの関心を引いた。かしわ窯の製品は、陶器のような温かみのある見た目と、石のように硬い焼き上がりを併せ持つ。「炻器(せっき)」と呼ばれる焼き物だ。

「見た目は陶器の風合いですが、分類としては炻器に属します。磁器土を使い、焼き上がりは石のように硬く、丈夫です。食洗機や電子レンジにも対応しています」

ガバ鋳込みによって中が空洞になっているため見た目以上に軽く、食洗機にも対応するタフさ。この実用性が、欧州で新たな需要を掘り起こした。アイルランドの大口取引先は、製品を「プチギフト」として大量に購入。ヨーロッパではクリスマスの時期に身近な人とギフトを交換し合う文化が根付いており、すべての製品が緑色の専用箱に個包装されている点も高く評価された。

直接顧客と対話することで、こうした現地の生活文化やニーズを肌で感じることができる。それこそが、商社を介さず自ら海外へ打って出たことの最大の成果だと美幸さんは語る。「皆さんの声を拾って、また新商品を作って、また1月にまた来ようっていう風に」。確かな手応えが、次の創作への原動力となっている。

半世紀の時を経て、自らの手で再び世界の舞台へと挑むかしわ窯。北欧デザインへの情熱という原点に立ち返り切り開いた道は、顧客の生の声と新たな手応えをもたらした。

還元焼成によって、窯の中で一つひとつ異なる色や表情が生まれる「窯変」。その味わいと手仕事のぬくもりは、今やパリの暮らしにも静かに溶け込みつつある。次回の出展に向けて、かしわ窯の挑戦は続いていく。

#職人#愛知#瀬戸焼#歴史#炻器#海外展示#文化#伝統
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